ロストプラネットIII(Lost Planet III) 第一章 第一節 新世界へようこそ
「魂とは、この宇宙空間に存在する一種のエネルギーである。新たな生命の肉体が誕生すると同時に、この空間を彷徨う魂は磁性の法則によって空っぽの器へと付着し、最終的に自我を持つ個体として誕生するのだ――」
一人の人間の女性が、手にした書籍の内容を、まったく感情の籠もっていない声音で淡々と読み上げていた。
「アイリ、あんたまたそんなカルト宗教みたいな疑似科学の本を読んでるんだ?」
俺は目の前にいる金髪のボブカットで、右の前髪に紫のメッシュを入れ、ヴィジュアル系ロックの衣装に身を包んだベーシストに向かってツッコミを入れた。
「あんたには関係ないでしょ。それより、自分のこれからのステージの心配でもしてたら、ジャックス」
アイリの前にいるのは、ジャックスという名の人間の男性だった。
「俺の心配か? 安心しろって! 俺はいつだって、最初から全力全開の男だからさ!」
彼はド派手にブリーチ染めされた、シルバーから毛先にかけてレッドへと変わるグラデーションの長髪をスマートに振り乱して彼女に返事をすると、エアギターを構えて指を動かし、鼻歌を数小節ほど口ずさんだ。
「あいつも結構ヤル気満々じゃないか。照れくさくなって、外の風でも浴びに行ったんだろ」
ジャックスはそう語ると、今度はシャヨの方へと顔を向けた。
「ほら見なさいよ。ドラマーのシャヨは、あんなに静かに練習してるじゃない。あんたも少しは彼女を見習ってくれたら、私としては大助かりなんだけど」
アイリは顔に隠そうともしない不快な表情を浮かべて言い放った。
彼女の言うシャヨとは一人の人間の女性だった。
その双腕には引き締まった筋肉が刻まれており、それは彼女が長年にわたりドラムへの情熱を注ぎ込み、鍛え上げてきた成果の現れだった。アイリの言葉通り、彼女は精神を研ぎ澄ませて、長年生活の糧として頼ってきた相棒たちを、一心不乱に叩き鳴らしていた。
「仕方ないだろ。ボーカルである俺の仕事は、ステージを盛り上げるだけじゃない。いつだってあんたたちのコンディションに目を配ることも、その一環なんだからさ」
ジャックスは相変わらずエアギターを弾きながら、いたって気楽な調子でそう語っていたが、その途中――。
シャヨはその言葉が耳に届いたのか、手にしていたドラムスティックを止め、情熱に満ち溢れた双眸で彼の言葉に深く頷き、賛同を示した。
アイリもまた、そっと静かに本を閉じると、小さく溜息を一つ漏らした。そしてベースを背負い、練習室の入り口へと歩みを進めた。
「だったら、明日のライブでその情熱とやらを私に見せてみなさいよ」
「もちろんだとも! 俺たちの音楽という名の『麻薬』で、この世界中を中毒にさせてやるさ」
ジャックスがそう豪語した瞬間、部屋のドアが「パタン」と音を立てて閉まった。
「このステージの重要性は、俺が一番よく分かっている。これは俺たちが、命からがらこの世界の頂点へと躍り出た、記念すべきデビュー戦だからな」
彼はすぐさま手元のエアギターを止め、その顔に真剣な表情を宿して、仲間たちへと向かって言い放った。
「シャヨ、あんたも今日は早めに帰って休むんだよ。明日は全力全開で行くんだからな。分かったか?」
「うん。このパートの練習が終わったら、私も帰るよ」
シャヨは視線をドラムヘッドに集中させたまま、そう静かに応じた。
「じゃあ、そういうことで。今日はこれで解散にしよう」
そう言い残すと、ジャックスもギターを背負い、練習室を後にした。
そうして帰路に就く中、彼は自分が演奏した録音データを聴きながら、思考を巡らせていた。
「明日、俺は絶対にこの世界中へ『麻痺爆音』の名を刻み込んでやる」
――その時だった。 一筋の強烈な光芒が、突如として彼に向かって接近してきた。
次の瞬間、彼の視野は暗黒へと包まれ、耳元を流れていた音楽の音も掻き消えた。
あとに残されたのは、身の毛もよだつほどの、ただただ静寂に満ちた空間だけだった。
「……ここは、どこだ?」
――そんな中、彼が当てもなく彷徨っていると、ある場所に一筋の光芒が見えた。
「あそこが、出口なのか?」
――その後。 その光に近づくにつれて、光の球にひび割れが走り始めるのが見えた。
彼は外に出られなくなるのではないかと不安に駆られ、焦って走り出しながら大声を張り上げた。
「待ってくれ! 俺はまだ出ていないぞ!」
そして、彼がその光の玉に触れた瞬間。
突如として、ある温かなものが自身の身体を満たしていくのを、彼は肌で感じたのだった。
「太陽の光……?」
彼がゆっくりと目を覚ました瞬間、視界に飛び込んできたのは、自身の記憶にあるものとは全く異なる、見知らぬ奇妙な光景だった。
頭部が鳥的羽毛に覆われ、まるで長髪のようになっている一人の亜人が、恐ろしい外見とは裏腹に、ひどく優しい声音で彼に向かって語りかけてきた。
「我が子よ、ようやく生まれてきてくれたのね」
『我が子? 俺はれっきとした成人男性なんだけど……っ!?』
困惑した彼は辺りを見回し始め、最終的に、自分に温もりを与えてくれていた施設機器の金属殻の表面に反射して映る、自身の姿を目にした。
「鳥……? これが、俺……!? 一体何が起きたんだよォォォォォ!!」




