痺れ芋⑥
「え? 焚き火??」
ワンゾウとの話から、コンロみたいなものがあると思っていたミサキは、火の調節が難しいという二人の言葉を疑問に思い言葉を重ねて確認すると、村で調理に使うときの火が焚き火だと知り、思わず聞き返してしまう。
ミサキの問いかけに二人は頷くと、他にも無理なことをあげていく。
「それに、洗うはのクリミストを使うにしても、たくっつーのに必要な水もこんなに準備できないです」
「ピーと、おれたちの種族は他の種族と比べると水分をあまり必要としないんで、魔法で出せる水も少ないんです。これで出来るのが、多くて四人分ぐらいだってことなんで、村の皆んなに行き渡るくらいに作ろうとしたら、少しだけ残ってる周りの植物にあげているのに使っている分が、まるっきり無くなっちまう」
「あと、なべとかもないです」
二人の言葉に思わずミサキは言葉を失う。
「えっと…… 普段はどんなものを食べてるの?」
「木の実とか。草。コーっていう虫とか、タイミングが合えば魔獣の肉です。」
「食料が値上がりする前は、麦を粉にして水で薄く伸ばして焼いたものも食べてましたが今は……」
少し前までは、自分たちの畑でとれた野菜に、近くを流れていた川で捕れた魚もあった。しかし村を逃げるように捨てるしかなかった時から、いまだ蒔くことができずにいるわずかな種が手元に残っているだけだということを二人は口にしない。聞かれたら、村の仲間が海の女神の罰を受けたことを話さなくてはならないからだ。
「焼く…… どうやって焼くの?」
ミサキは玄米ご飯を村で炊くのは無理だと判断して、他に出来そうなことを考えることにする。
「麦を粉にして水で薄く伸ばして焼くのは平たい石があるんで、その上で焼いてました。魔獣の肉は枝に刺して焚き火で炙りながら焼きます」
ヤーモの説明に、ミサキは調理方法はバーベキューの鉄板と焚き火の周りで魚を焼いてる感じだと思えば良いのかな? と何が作れるかと考えを巡らすが、思い浮かぶのは先ほどピーが説明した麦を粉にして水で薄く伸ばして焼いたものを玄米でやるぐらいしか浮かばないが、果たしてそれが美味しく食べれるかがミサキには想像がつかない。
(玄米、粉にして、パンケーキに…… なんか、固そう。玉子や牛乳、ベーキングパウダー使えば柔らかくできそうだけど、現実的じゃないよねぇ〜)
食料不足で困ってるのに、玉子や牛乳が手にはいるとは思えず、ベーキングパウダーに至っては、ミサキの中では化学物質扱いなので異世界にあるとは思っていない。
何か上手い手がないかとミサキが考えていると、数年前の出来事を思い出す。
その年は台風が立て続けに来て時化も収まることなく物流が長く停止した。もちろん、国から緊急支援はあったが、当然のように運ばれてくるものは優先度の高いもの。
物流が動いても、最初のうちは、やはり優先度の高いものが中心だし、欲しいものは他人と重なるものだ。
『もうすぐ十五夜様なのにねぇ〜』
と呟くと、おばあちゃんがテキパキと動き始めたことをミサキは思い出した。
ササッとお米を洗うと、浸水させたまま、いつものご近所へ。
白米を洗って浸水させること一晩。
早朝には水から引き上げたお米を竹で出来たザルのうえに平らに広げて乾燥させはじめ、お昼を食べたあとから近所のおばあちゃんたちが、同じように乾燥させたお米を手に集まって、ゴリゴリゴリと石臼を回し始めたのだ。
その当時、ミサキの家にあった石臼は一つだけ。
なので、近所のおばあちゃんたちは、息子にわざわざ石臼を運ばせて来ていたので、ミサキは今から何が始まるのかと怖怖と見ていたのだ。
そして、出来上がったのは上新粉であり、上新粉が家で作れるものなのだと初めて知ったミサキは感動したのである。しかし、その感動も小学校の家庭科で使った白玉粉と上新粉を同じ物だと勘違いしていて、お店で買うしかないと思っていた粉が家でも作れるという理由なので、白玉粉はもち米で上新粉はうるち米だという原料にさえ目を瞑れば工程は一緒のため、得ることのできた感動にはきっと関係ない。




