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異世界コンニビ1号店  作者: 音音
第1部 世界は飢えている

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11/13

痺れ芋⑨

 

「村に持って帰りたいって言われてもなぁ」 

 試しに作ったということもあって、作ったリゾットは多くはない。

 三人で分ければ味見としては多いが、味見を一匙分で済ませても、残ったものを村に持って帰るには少なすぎる量だ。

(いきなりなんで? オムライスやそぼろ丼食べてるときはそんなこと言わなかったのに。玄米を使っているから?)

「作り方を教えるために作ったものなので、女神様が許してくれるなら持ち帰りたい」

 ミサキがすぐに色よい返事を返さなかったことを誤解したのか、ピーがヤーモの言葉をフォローするように話しだす。

「気分を害されましたか? これもおれたちが食べきった方が? それとも女神様に残りは戻すべきでしょうか?」

「いや、お腹がいっぱいで食べられないなら食べなくて良いし、持ち帰ってもらうには量が少なくないからオッケー出しにくいだけなんだけど……」

 なんとなく私たち三人は顔を見合わせて首をかしげた。


 微妙な行き違いを感じたミサキが、ピーとヤーモと話したところ、出された食事は自分で食べきるというルールがあるということを知った。

 自分に出された食事を持ち帰ろうとしたり、誰かにあげたりするのは禁止だという。

食べきれないなら船主(提供者)に戻して再分配か、破棄というのが船にのっている間の食事の決まり事で、村の仲間と船での付き合いしか無いため、船の外でもその決まり事が一般的だと思っていたことがわかった。

ワンゾウとワンタが食事を残して持ち帰りたいと言ったことを考えれば、ピーとヤーモが言うルールは、食べ物を船の中で腐らせたり、腐ったものを食べて倒れたり、力関係によって食事を他の船員に巻き上げられて食べられないということを防ぐためにできた船の上での決まりなのかなとミサキは思う。

「リゾットを持ち帰りたいのはわかったけど、持って帰っても少なすぎて逆に困ると思うの」

 村で新しく作った方が温かくて美味しいからとミサキは二人に食べられるならと食べてと促した。

 二人が食べている間に石臼を壁際の一番下の棚から引っ張りだす。

 テーブルの上に乗せようか、どうしようかと振り返れば、既に二人は完食しており、クリミストの魔法で洗浄したのであろう食器が、重ねて置いてある。

 食べ終わっているのなら、遠慮なくテーブルの上に乗せられると、ミサキはホコリがつかないように石臼を包んでいた毛布を外してテーブルの上へ。

 ヤーモが期待に満ちた目で、石臼をあらゆる角度からのぞき込んでいるのをそのままに、ミサキは奥の部屋に移動して、押し入れの奥にしまってあった未使用のフライパン四個と、同じく未使用の石臼を二人に持たせる分として引っ張り出してくる。

 近所のおばあちゃんたちが石臼を持ち寄って粉を碾いた話を電話でしたあとに、一つじゃ不便だよね? と、母親が送ってきてくれたものである。

 石臼は安いものではないが、というか、かなりいいお値段であるみたいだがまぁ仕方がない。と自分で支払っている訳ではないこともあって、ミサキは決断が早い。

(使ってなかったし、お母さんも許してくれるよね。まぁ……石臼の存在忘れてる気もするけど)

 石臼が送られてきたとき、おばあちゃんは呆れていたし、母親は0を一つ見落としていたらしく、石臼を送ってきた後の帰省で笑い話として話してくれたことをミサキはしっかりと覚えている。

 そして、以降石臼のことが話題に出たことは一度もないので、母親は話題にしなければ石臼を買ったことを思い出さないのではないだろうかとミサキは思っている。



(玄米を粉にして作るなら玄米団子?)

 ミサキはおばあちゃんの作業手順から、洗米から浸水。そして自然乾燥して粉にするのが一番なのだと考えるが、できるだけ水を使いたくないというピーとヤーモの意見を取り入れて口頭で流れだけを説明すると、今は浸水も乾燥もしている時間がとれないから、このまま粉にしてしまおうと提案する。

 それで問題がなければ、村に帰った後も、浸水も乾燥もすることなく粉にすればいいし、水も節約できる。

 そして洗米は、ヤーモが先に提案してくれたように洗浄魔法のクリミストを使うことで節約。

 今回試しに作ってみて、やっぱり浸水するのが絶対必要だとなれば浸水して乾燥して粉にしてはどうだろうかとミサキは二人に説明して――。


「嘘でしょ」

 ミサキは呆然と呟いた。

 クリミストを使った後には真っ白な白米。

「白米じゃ意味ないじゃん!! せめてぬかは? どこへ?」

 ミサキの言う『ぬか』が何かはわからなくても、白くなる前の薄茶色い部分を指しているのだろうとピーとヤーモは顔を見合わせる。

 クリミストの魔法は子供の頃から身近なもので獣人にとっては使えて当たり前。

 綺麗にした後の汚れがどこにいくのかなど考えたことなどなかった。

 それでもミサキの様子から、あの薄茶色い部分が大切なのだろうと考える。

 あの薄茶色い部分が女神様が言う病気に効く薬なのだろうとミサキの言動から理解するも、ピーもヤーモも自分たちの村の仲間が抱えているものが治るとは、あまり考えていなかった。

 ミサキが―― 女神様は病気だといったが、ピーとヤーモは自分たちが話した病の症状は海の女神の罰の始まりだと思っている。

 穏やかだった者が怒りっぽくなったり、歩けなくなるのが海の女神の罰の始まりだというのは船に乗る者たちの間では口にしないだけで共通の認識だ。

 罰の重さが違うから、そこから罰を許され元に戻る者もまれにはいるのだろうと考えられている。

 ただし、圧倒的に罰が許される者は懐事情の良いものであり、懐事情寂しく、祈るしかできない者にとっては、そのまま亡くなるか、海の女神の罰が現れ亡くなるかの違いしかない。

 迎える結末は同じだが、周りに忌避されるかされないかの違いがあるため、大きな違いでもある。

 海の女神の罰の始まりで倒れるのが多いのはピーの一族が圧倒的に多い。

 食糧が豊富な時であれば、海の女神様に供えることもできるため僅かに許されるものもいるが、もともと裕福な村でなかったため、そのまま動けなくなって亡くなるものがほとんどだ。

 そこから亡くなる前に海の女神の罰の症状をみせるものが僅かながらでてきて、次に多いのがヤーモの一族。

 しかし、村の仲間で海の女神の罰をうける大半は二人のもう一人の幼馴染みのカメキチの一族である。

 カメキチの一族は最初から海の女神の罰で倒れる。

 口から血を流し、何もしていないのに皮膚から出血する。カメキチの一族の特徴である艶やかな毛は、艶がなくなり抜け落ちる。頭上の可愛らしい薄い耳が腐り落ちるのも珍しくない。


 前回、痺れ芋の毒を売ったとき、船に乗る長期の仕事のあとカメキチの父親が海の女神の罰に倒れていた。

 これは海の女神の罰なんかではなく病気だと。

 罰なら平等に船を降りたときに与えられるべきだ。ならば海の女神様に罰を与えられるようなことは誰もしていないはずだと、父親が倒れる前から主張していたカメキチに医者を呼びたいと相談され、痺れ芋の毒を売ったお金で村の総意としてとして医者を呼んだ。

 村人たちも、このままでは自分たちの村の生活が立ちいかなくなることを理解していたからこその決断でもあった。

 海の女神の罰を受けたものは、その見た目から忌み嫌われる。そこは村人全員が良く解かっていた。だから見てもらったのは海の女神の罰の始まりで倒れた者だ。

 彼らに出される薬を多くもらって、その薬をカメキチの父親たち、海の女神の罰に倒れた者にも飲ませようと考えたのだ。

 結果、村は街の住人の手によって焼き払われ、魔の森の近くにまで逃げることとなった。


 理由は簡単だ。日照り続きで川を流れる水が日に日に低くなっていくなか、街の中の井戸がいくつか涸れてしまった。そこで、海の女神の罰が広まることを恐れることを装って、村にある涸れていない井戸が欲しかっただけだ。

 もしかすると、残った井戸に海の女神の罰の影響がでることを恐れたのかもしれないが、それは村を焼き払った街の住人一人一人に聞いても答えが分かれることだろう。

 ただ、村の誰一人として、医者から街の住人へ伝わったことは容易に想像できたのに、誰一人、医者を呼んだことを責めるものはいなかった。

 


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