#140 番外編 MOON-ほしへ- ⑧
私の時間は止まっている
あの日のまま、失ったものを忘れられずに探せずに
空には月が浮かんでる
あの日と同じように
ただ、私を眺めてる
「飛びたければ、夢を見ればいい」
昇降口のほうから声がした
そこには彼『月真優気』の姿があった
傍には見知らぬ誰かがいる
突然泣き出した彼女を、必死に宥めてる
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
その言葉のわりに、その心は悲しんではいない
むしろ、何かから解き放たれたような感情が零れ出している
そして彼もまた、そんな彼女を優しく見守っていた
彼の言葉には、意図せずに心を揺さぶる能力があるようだ
本人さえも気付かない『言葉の重み』
そんな彼の言葉を思い出す
『笑えば辛いことも忘れられる』
確かにそれは真っ当な言葉だといえる
でも、全てを忘れたら私に何が残るというのだろう?
数日の後―
「よう!」
今日も彼は屋上に来た
「・・・・・・」
不思議な男の子だと思う
「何がしたいの?」
見つめられる事に耐えられず言葉が出る
「むぅ・・・少しも動じないとは・・・」
悔しそうに呟く
「笑わせたいの?」
流石に呆れる
「モチロンだ!」
自分の方が笑ってる
「・・・・・・」
「・・・何故?」
「見てみたいからだよ」
一体、何を言っているんだろう
「お前が、楽しい気持ちになるのを」
得意気に言い放つ
「解らない」
「なにが?」
「そんなことして何の得があるの?」
私は独りで居た
そしてこれからも独りで居る
「俺が嬉しい」
なぜ私の心を揺さぶるの?
「嬉しいのは皆に伝わるからな」
彼は純粋にそう言っている
「そしたら、皆嬉しくなるだろ?」
本気でそう思ってるの?
「そしたら辛い事よりも、楽しかった事のほうを思い出せる」
「私に、楽しかった思い出なんて・・・!」
言いかけた瞬間、彼女の笑顔が浮かんだ
「・・・な?」
そんな私を見透かすように笑った
「どうして・・・・」
「どうして、あなたは・・・!」
「優ちゃん!見付けたぁ~っ!」
『私の中に容易く入ってくるの』
そう言おうとした瞬間に別の声が割り込んできた
「お掃除サボって、何してるの~っ!?」
言うが否や彼の腕を引っ張り出す
「ちょっ!真由美!?落ち着け!!」
ひきつった顔で必死に抵抗する
「ごめんね?草間さん」
深々と頭を下げて謝りだした
「って、なんで俺だけなんだよ!?」
「コイツだって、掃除当番だろ!?」
この期に及んでまだ抵抗する
「草間さんの分まで掃除してあげるくらいの器量を見せなさい!」
「はあぁぁ!?」
結局、抗えずに連れていかれる
「じゃあ、またね草間さん!」
「ま、またな!」
二人して手を振る
「月乃―」
そんな二人に告げていた
「月乃でいい」
「お―?」
「!」
笑っていた
どうしてだろう?
もう笑う事なんて出来ないと思っていたのに
風のように現れて吹き抜けていった感情が
私の中のなにか触れた




