#138 番外編 MOON-ほしへ- ⑥
1989年
世界にとって一つの事件が起きた
『ベルリンの壁崩壊』
東ドイツ市民の大量出国の事態にさらされていた東ドイツ政府が
その対応策として旅行及び国外移住の大幅な規制緩和の政令を発表した
この日の夜、ベルリンの壁にベルリン市民が殺到し混乱の中で国境検問所が開放され
それまで東西ベルリンが遮断されてきた東西分断の歴史に終止符が打たれたのである
やがて東ドイツは西ドイツに吸収される形でドイツが統一された
『東ドイツはその存在を失った』
この出来事により世界に衝撃が走った
そして、それに脅威を感じる国も少なからずあった
東ドイツの傍に寄り添うように国力を養っていた『ロシア』である
それぞれの国の目的は『大国』への復権
その共通の目的があったからこそ、お互いに技術の競合と強化に励んできたのだ
それを失うという事は、今までひた隠しにしてきた『実験』を公に晒すことになる
結果として彼らは、『愚か』な行為を行った
『全ての抹消』
実験に関わった場所、人を問わず
全てを隠ぺいするための処置
歴史的事件の影でそれは実行された
我々にとって、いや
私にとって、その国の隠そうとした行動に興味は無い
ただ、その実験により生まれた『可能性』を失うことが許せなかった
その『可能性』には『未来を変える』のに必要な要素だ
だが、運良く私はその『可能性』を持つものに巡り合えた
『壁の崩壊の切っ掛け』という事象を果たした私は惹かれるようにその光へと辿り着いたのだ
「手を焼かせてくれる」
忌々し気に呟く声
「まさか、あの状況から逃げ出すとは」
言いながら銃口を向ける
「始末しろ」
結果を待たずに、その場を後にする
空気の抜けるような小さな音が、風を切り裂いた
ゆっくりと煙草に火を点ける
だが、ライターを持つべきその手はべっとりと重く動かない
背後には刺さるような殺気
「な・・・子供だ・・・と・・・!?」
ゆっくりと振り返った先には、銃口を突き付けた人物
まだ、年端も行かぬ子供だ
「失礼な奴だな・・・これでも一端に歳は取ってるぞ」
そのままそいつの額を打ち抜いてやった
「さて・・・と」
ゆっくりと倒れ込んだ少女の方へと向かう
「・・・つき・・・の」
苦しそうに言葉を絞り出す
「苦しいか・・・?」
苦しくない筈は無い、この子もまだ年端も行かぬ子供なのだから
「お前には、選択肢がある」
伸ばされた手を握りながら問う
「その能力で、あの子と共に逝くか
あの子の為に、その能力を渡すかだ」
この子はもう長くはもたないだろう
だからこそ、その想いは聞いてやりたい
「いっしょに・・・」
彼女が選ぶのは終焉か、それとも・・・?
「いっしょに・・・いけなくて・・・ごめんね・・・」
彼女は強い心を持っていた
自分の命の散り際を知っているのだ
「わかった、私が責任をもってあの子の力になろう」
そう告げると彼女は満足げにほほ笑んだ
同時に握った彼女の手がするりと抜け落ちた
「おやすみ・・・マーシャ」
横たえた彼女の胸元にその両手を組んでやる
「私が、彼女の生きる場所を創ってやるよ・・・」
「この『先勝真理』がな」
彼女は眠り続けることになる
マーシャの託した能力によって
その能力は、生命吸収
文字通り『命を糧に』『命を護る』能力
強大さ故に、認識されることがない
強大さ故に、唯一無二
彼女と同化するために
膨大な時間が掛かった
時を隔てるように
成長を止め眠る
彼女は、彼女たちはどんな夢を見ているのか・・・
そして時は巡る
新たなる世紀を過ぎて、彼女は再び目覚めた
「ようこそ、日本へ」




