#135 番外編 MOON-ほしへ- ③
「つきの・・・?」
初めて教えてくれたのは、彼女の名前
「そう、この国で『月』って意味」
『月乃』わたしのオーパ(おじいちゃん)が、
おばあちゃんから貰ってくれた名前だ
「マーシャはね、ひとりぼっちなの」
私より幼いはずのこの子は時折、全てを悟ったような表情をする
『マリーヤ・トゥクタミシェワ』
私がここに来た時に、一緒に居るように紹介された子だ
引っ込み思案で、臆病者
それでも、一生懸命に私に話し掛けてくる
今日の、実験を終えた夜
珍しく雲の隙間から月明かりが差し込んでいた
そんな夜だからこそ
自分の心が素直になれたのかもしれない
「ひとりじゃないよ」
「?」
その言葉に首をかしげる
「私が、私が一緒」
「・・・・・!」
マーシャが、初めて笑ってくれた気がした
大事に抱えたウサギのぬいぐるみの耳が揺れる
彼女と同じようにうれしそうなほほえみで
その日は、お互いに手を繋ぎながら眠った
紅い・・・
周りの景色が紅く燃えている
けたたましいサイレンの響く中、私たちは飛び起きた
「火事!?」
ともかく直ぐにここから出なくっちゃいけない
「つきの・・・」
不安気に手を握ってくる
「・・・・・行こう」
その手を強く握り返した
部屋を出て、最初に飛び込んできたのは
信じられない光景だった
今日の日を一緒に過ごしてきたはずの
同じ施設の子供たち
それは既に物言わぬにまま、打ち捨てられるようにそこに居た
「・・・・・!?」
「つきの!」
マーシャが怯えながら呼びかける
「!」
その視線の先には、先生がうつぶせに倒れていた
「先生・・・!」
先生の周りには、水たまりのように血が流れ続けている
「・・・・・おにげ・・・なさい・・・」
私の手を取り告げた
「・・・・・あなたたち・・・だけでも・・・」
その手から力が抜けていくのが解る
そんな手を握り返した時、記憶の思念が飛び込んできた
「この計画は既に、完成しているのではないか?」
「しかし、子供たちを兵器として運用するなど・・・」
先生と誰かが言い合っている
「何を言う!この国を再興するために、この子供たちは身を捧げるのだぞ!?」
「そんなことで、この国は再興するのですか!?」
揉み合って辺りの物が、次々と散らばっていく
そんな中、先生の足元に鈍く光るものが転がってきた
「もう、やめましょう・・・こんなこと・・・」
震える手でそれを相手に向ける
「撃てるのかね?」
不敵にそれを見据える
「・・・・・・・」
震えながらもその意思はただ一つ
『子供たちを護る』
「失望したよ・・・」
「・・・・・!?」
瞬間、視界が紅く染まり立てなくなるほどの目眩が襲う
「この施設は破棄する」
端末で要請しながら次の目的を遂行する
急ぎ足で、各部屋を回る
標的は、この施設に居る者全て
そう、全ては無に帰さねばならない
ひとり、またひとりと彼らに引き金を引く
感情など無い
これはこの国の栄光の為
それが私の使命なのだから
遠くから轟音が響く
「時間か・・・」
もういいだろう
残りも、この施設と共に焼かれるのだしな
新たに入手したデータを端末に移す
「これで、私の研究もまた確実なものとなる!」
そう、それが私の最大の目的だ
「次は・・・日本にでも行くとしようか」
燃え逝く施設を眺めながら、その場所に想いを馳せた




