71 私の恋
「妖月様のお母様が子供の妖月様をモンスター世界に残して人間の世界に行ってしまったことは私も賛成はできませんがそれでも妖月様のお母様とお父様が愛し合ったことは愚かなことじゃありません!」
自分の恋のために子供を放っておくのは賛成できない。
でも妖月様のお母様だって好きで妖月様と離れ離れになったわけじゃないはずだ。
モンスター世界と人間の世界が切り離されてしまったから妖月様のお母様は妖月様の側にいるか旦那様の側にいるかかなり迷って決断したに違いない。
それにモンスターさんと人間だって愛し合うことはあるはず。
だってそれぞれに心を持った存在なんだから。
「愚かなことではないだと? 人間など我々からすればすぐに死んでしまう寿命しか持たない者たちだ。自分より必ず先に死ぬと分かっていて伴侶に選ぶのが愚かな行為ではないというのか?」
「妖月様。理想を言えば長く共に好きな人とは一緒にいたいと私も思います。でも大事なのは一緒にいた時間の長さじゃなくて二人が「幸せ」だったかどうかです」
私は妖月様の赤い瞳をまっすぐに見つめながら答える。
人間同士の夫婦だって若くして伴侶を亡くす人たちはいる。
それは悲しいことだけどだからと言ってその夫婦が「不幸」だったとは言えない。
愛する人と出逢えたこと自体が「幸せ」であり共に長く過ごすことができないと分かっていたとしてもその「愛」が愚かなことであるはずがない。
それはモンスターさんたちだって同じはずだ。
「短い間しか一緒にいられないと分かっていても妖月様のお母様とお父様は出逢えて「幸せ」だったはずです。そうじゃなかったら妖月様はこの世に誕生してません!」
「…………」
「それに妖月様は私が短い寿命しかない人間だからモンスターさんを好きになってはいけないって思いますか?」
「……美音はモンスターが好きなのか?」
「はい。私を拾ってくれた妖月様も一緒に働いているモンスターさんたちもみんな好きです」
私のことを人間だって知っても変わらず接してくれるブオン係長だってミツールさんたちだってみんな私は好きだ。
そこに人間とかモンスターとか関係ない。
もちろん寿命が長いとか短いなんてもっと関係ないことだ。
それに私は……
妖月様は無言で私を見つめてる。
その赤い瞳が最初は怖かったけど今はその赤い瞳がどんなに冷たい光を宿していても妖月様が優しいモンスターさんだと知っている。
いつもいつもこの赤い瞳で私を見つめていてくれるだけで私は安心できる。
ああ、そうか……私は妖月様が好きなんだ。
私は自分の気持ちに気付いた。
妖月様のお母様とお父様の話を聞いた時になぜか胸が締め付けられるような感じを受けた。
それは私がもし妖月様と愛し合う存在になったら自分も同じ運命になるかもしれないと感じたからだろう。
またモンスター世界と人間の世界が引き離されたら私は妖月様か自分のお母さんか選ばなければならない。
妖月様に私を好きになってもらえるかは分からないけどもし妖月様が私を愛してくれたなら私はどっちを取るのか。
「……そうか。美音はモンスターが好きか」
いえ、モンスターさんたちが好きなのは事実だけど一番好きなのは妖月様なんです。
でも私は自分の気持ちを抑える。
「あ、あの、私がモンスターさんを好きなのはおかしいと思いますか?」
「……いや、美音が自分で好きだと思うならそれを私が否定することはできない。いつか美音にも結婚したいと思うモンスターができてもおかしくはないのであろうな」
妖月様はそう言って私から視線を外す。
「妖月様は私と知り合ってもやっぱり人間は嫌いですか?」
「……そうだな。私は人間は好きではない。だが美音のことは嫌いではない」
「え?」
「美音は人間である前に美音という存在だ。人間は好かぬが美音を人間だからという理由で嫌うつもりはない」
私は妖月様の言葉で心が温かくなった。
妖月様に恋人のように好きと言われたわけじゃないけど私のことを嫌いじゃないって言ってくれることは嬉しい。
うん! いつか一人前のモンスターお役所の職員になれたら妖月様に告白してみよう!
私はそう思った。




