67 妖月の父親
妖月様のおかげで氾濫した川の水は消えて一部の建物に被害はあったが一般モンスターに被害はなかった。
それに天嵐自体の雲が消えてしまったので一晩経った時には普通に太陽が昇り太陽の光が照っている。
私やカイガさんは一応事務所に待機していた医者のモンスターに診てもらったが「異常なし」と言われた。
再びみんなでバスに乗りモンスターお役所に戻った。
私は防水係から「解散します」という言葉をもらうと急いで所長室に向かった。
きっと所長室には副所長の麗華さんがいるに違いない。
麗華さんなら妖月様の運ばれた病院を知ってるはずだ。
私はそう思って所長室の扉をノックした。
「どうぞ」
中からは麗華さんの声が聞こえた。
「失礼します!」
「あら? 美音さん」
麗華さんは書類を見ていたが私の姿を見て手を止める。
「すみません! お忙しいところ。妖月様が昨夜天嵐の対応をしていて私を助けようとして倒れたんです! 氷火様が妖月様を病院に運んだんですけど妖月様が運ばれた病院は分かりませんか!?」
私が息をつく間もなく言うと麗華さんは少し驚いた表情をしたがその後に真剣な表情になる。
「その件については連絡を受けてるわ」
「どこの病院か教えてください! 妖月様は無事ですか!?」
「所長は中央病院に運ばれたわ。今は氷火様が一緒にいるはずよ」
「中央病院ですか?」
私は自分で持っていた以前買った街の地図を確認する。
中央病院はそれほどモンスターお役所から離れていない。
「妖月様の容態については分かりますか?」
「とりあえず意識はまだ戻らないけど命に別状はないみたいよ」
「そうですか……」
妖月様に何かあったらどうしよう。
私のせいで妖月様は無理をしたに違いない。
私は思わず俯いてしまう。
「美音さん。あなたが責任を感じることはないわよ」
「え?」
「氷火様から所長が美音さんたちを助けるために自分の力で天嵐を吹き飛ばしたことは聞いているわ。自分の判断で自分の力を使ったんだもの。美音さんに責任はないわよ」
「でも!」
「いい? 美音さん。モンスターお役所の所長が一般モンスターを守るために「特殊能力」を使うのはある意味当然のことなの。そのために私たちは存在するのだから」
麗華さんはニコリと微笑む。
「まあ、今回はさすがに私も驚いたけどね。天嵐を吹き飛ばすなんて無茶なことをするとは思わなかったし」
「やっぱり妖月様は無茶をしたんですね?」
「そうね。でもきっとピンチに陥ったのが美音さんだったから所長は無茶をしてもあなたを助けたかったのかも」
「え? それってどういう意味ですか?」
「フフ、言葉通りの意味よ。それよりきっと美音さんが所長に会いに行ったら所長も早く元気になるんじゃないかしらね」
「はい。今から中央病院に行ってきます!」
私には麗華さんの言葉の意味が分からなかったが妖月様の無事の姿を確認したくて慌てて中央病院に向かった。
中央病院に着くと妖月様は特別室に入院していると言われた。
私は特別室の扉をノックする。
「どうぞ」
氷火様の入室許可の声が聞こえた。
私は扉を開けて病室に入る。
妖月様は大きなベッドで眠っていた。
そしてその横の椅子には氷火様の姿がある。
「美音ちゃん。来たのか」
「はい。あ、あの妖月様は……」
「大丈夫だよ。力を使い果たして眠っているだけだ」
「そうですか……」
私はそっとベッドに近付いた。
妖月様は僅かに呼吸をしている。
そのことに安堵して思わず涙が出た。
良かった。妖月様はちゃんと生きてる。
「今回は私のために妖月様は無理な力の使い方をしたんですよね……」
私は呟くように言った。
「妖月が自分の判断で行ったことだ。美音ちゃんが責任を感じることはないよ」
氷火様は麗華さんと同じ言葉を言う。
それでも私の心は晴れない。
「それにしばらく眠っていれば回復する。安心していいよ。妖月は潜在能力的な力は強いけど私よりも「人間の血」が強い分、力に肉体の方がついていかなかっただけだ」
え? 「人間の血」が強い?
妖月様は人間の血を引いてるの!?
「あ、あの! 妖月様って人間の血を引いてるんですか!?」
「ああ、いけないいけない。これは秘密だったな。でも美音ちゃんはモンスターと人間の歴史を知ってるから話してもいいか」
氷火様はそう言って私に向かって話始めた。
「これから話すことは他のモンスターには内緒だよ」
「は、はい」
「妖月の父親はね。私と同じ「古代神族」と「人間」の間に産まれた「人間」の男だったんだ」
「古代神族と人間の間に産まれた方が妖月様のお父様なんですか?」
私は以前氷火様から聞いたモンスターと人間の歴史について思い出す。
たしかモンスターも人間も「神族」という種族の血が交ざって今のように進化したと言っていた。
でも「古代神族」って「神族」とは違うのかな?
「古代神族って普通の神族とは違うんですか?」
「同じと言えば同じなんだけど神族の血族の中では「特別な血族」になる。美音ちゃんが住んでた世界にいた「天皇の一族」がその「古代神族」の血を受け継いだ特別な血族だ」
「え? じゃあ、妖月様のお父様はまさか「天皇」なんですか!?」
私は驚いて思わず声を上げた。
「正確には昔存在した「天皇の一族」の男だったと言うべきかな」
「それでも妖月様が天皇の血を引いてるってことですよね?」
「そうだよ。それ故に妖月は「人間」を嫌っている」
「え? どういうことですか? お父様は天皇の一族でも「人間」だったんですよね? 妖月様は自分のお父様が嫌いってことですか?」
妖月様が天皇の一族の血を引いてることにも驚いたがそれで「人間」が嫌いだって言うなら何かその父親との間にあったのかもしれない。
「まあね。あれは今から千年ほど前のことだ」
氷火様は何かを思い出すように遠い目をして語り出した。




