63 天嵐への備え
今日もいつもと同じく勤務終了時間になり私は妖月様と帰ろうと所長室に向かった。
所長室の扉をノックすると「入れ」との妖月様の言葉が聞こえた。
私が所長室に入ると妖月様はいつも通りに所長の椅子に座っていたが難しい顔をして書類を見ている。
あれ? まだ仕事が終わってないのかな。
妖月様が残業することはほとんどない。
夜の部の麗華様に引継ぎをするからだ。
夜の部担当のモンスターお役所の副所長の麗華様も妖月様の側で難しい表情をしている。
何か、大変な案件ができたのかな?
私は妖月様と麗華様がこんなに真剣な表情をしているのは初めて見る。
「所長。やっぱり「天嵐」が来るのは間違いないんじゃない?」
「そうだな。これだけ防水係のモンスターたちの分析が一致したとなると間違いないだろうな」
天嵐? 天嵐ってなんだろう。
「とりあえず天嵐が来るまではまだ時間があるから所長は今日は帰りなさいよ。美音ちゃんが来たんだし」
麗華様は私の方を見る。
「あ、あの、お忙しいなら私は先に帰りますが」
妖月様の仕事の邪魔はしたくない。
そう思って私は言ったのだが妖月様は持っていた書類を麗華様に渡した。
「美音が気にすることではない。では後は頼むぞ、麗華。天嵐についてはまた話し合おう」
「承知しました。所長」
妖月様は椅子から立ち上がり私に近付いた。
「帰るぞ。美音」
「は、はい」
私と妖月様は車に乗って屋敷へ向かう。
でも車内でも妖月様はいつになく難しい表情だ。
「あの……」
「なんだ?」
「さっきお話していた「天嵐」って何ですか?」
私は思い切って訊いてみた。
妖月様の表情を難しくしているのはきっと麗華様と話をしていたその「天嵐」のことだろう。
「そうか。美音はまだ「天嵐」を知らないのか?」
「はい」
「天嵐というのは酷い大きな嵐のことだ。約10年ごとにこの街にやって来る」
酷い嵐?それって「台風」みたいなものかな。
「その嵐ってそんなに酷いんですか?」
「ああ。特に大雨と強い風が吹く。水害が起これば街のモンスターたちの命にも関わってくる」
「え? そんなに危険なんですか?」
確かに日本でも台風が来る度に死傷者が出ていた。
モンスターさんたちも死傷者が出るのかもしれない。
「ああ、特に水に弱い火の属性を持つモンスターは長時間水に浸かったりして体温が下がれば命を落とす」
それは大変だ! だから妖月様は難しい顔してたんだね。
「天嵐がいつ来るかとか分かってるんですか?」
「防水係の報告では「数日以内」とのことだ」
「防水係?」
「特殊能力を使って「天嵐」が来るのを察知できるモンスターたちが所属している係のことだ」
へえ、嵐が来るか特殊能力で分かるのかあ。
「それでモンスターお役所としてやることがあるんですか?」
「ああ。もしもの場合の避難所の準備や防水係や他の街の機能を維持管理している部署に応援の者をやらなければならない。それらの調整をしなくてはな」
そっか。対策をしておけば被害は少なくて済むよね。
「妖月様。もし応援人員が必要なら私にもやらせてください」
「美音に?」
「モンスターさんたちを私も守りたいんです!」
ダンジョンで出会ったモンスターさんたちは私を守ってくれた。
それに今も妖月様を始めモンスターさんにはお世話になっている。
モンスターさんたちを守ることが私にもできるならやりたい。
「そうか。では考えておく」
「はい」
「天嵐」がどれくらいすごい嵐なのか知らないけどモンスターさんたちを死なせるわけにはいかない。
私は自分のできる限りのことはしようと心に誓った。




