62 食堂の混雑緩和
その言葉に食券を買うために並んでいたモンスターさんたちがギョッとしたように妖月様を見る。
「ほ、本当だ! 所長だ!」
食券の券売機の前にいたモンスターさんたちは妖月様に気付いて慌てて順番を譲る。
あ~ん、これじゃあダメなんだよお。
もっとみんなと自然に触れ合わないと。
「皆さん。食券の券売機は順番に列に並んで買うのが「ルール」ですよね?妖月所長がいらしても気にしないで順番に食券を買ってください」
私がそう言うと職員モンスターさんたちは明らかに戸惑っている。
「しかし、そういうわけには……」
「私のことはかまわぬ。美音の言う通りに列に並んでいた順番通りに食券を買うがよい」
妖月様がそう言ったことで職員モンスターさんたちは遠慮がちに再び列を作った。
そして妖月様と私の番が来た。
「妖月所長は「生き血」でいいんですよね?」
「ああ、そうだ」
「では自分で銅貨を入れて食券を買ってください」
「私が自分で買えと?」
「それが「ルール」です」
「……分かった。ここに銅貨を入れるのか?」
「そうです。銅貨を入れたら「生き血」のボタンを押してください」
私がやり方を説明すると妖月様は「生き血」の食券を買った。
「次はカウンターのモンスターさんに食券を渡すんです」
「なるほど……」
妖月様がカウンターに食券に出すと今度は食券を受け取ったモンスターさんが固まる。
「しょ、所長!?」
「静かにせよ。周囲がうるさくなる」
「は、はい!」
妖月様が注意するとすぐにカウンターのモンスターさんが「生き血」を運んで来る。
私はその間に自分の注文した「きつねそば」の食券を渡して私も「きつねそば」をお盆に乗せた。
「さあ、妖月所長。次はみんなと一緒のテーブルで食べましょう」
「ああ」
私と妖月様が空いている席に着くと周囲の職員モンスターさんたちは自分が食べるのを忘れたかのように妖月様を見ている。
「どうした? お前たちも食べればよかろう」
「は、はい。では失礼して……」
妖月様の向かい側に座っていたフクロウの顔をしたモンスターさんが緊張しながらご飯を食べ始めた。
そのフクロウモンスターさんに妖月様は声をかける。
「職員食堂というのはいつもこんなに混んでおるのか?」
「は、はい。昼時間が1時間しかないのでどうしても混雑するんです」
「職員食堂以外で食事はしないのか?」
「あ、え~と、ここが一番安く食べられるので。お金がある者は外のレストランに行く者もいるんですが、自分はあんまりお金がないもので……あ、べ、別にお給料が安いってわけではありません!」
フクロウモンスターさんは慌てたように妖月様に言う。
「ふむ。分かっておるから安心せよ。この辺りの物価が高いことは知っておる」
妖月様がそう言うとフクロウモンスターさんはホッとしたようだ。
「美音よ。毎日こんなに混んでいる職員食堂ではゆっくりと食事もできまい」
「う~ん、そうですねえ。確かに食べたらすぐに席を譲ってあげないとですからね」
「どうすれば改善できると思う?」
う~ん、ゆっくり昼食を食べる時間を取るにはどうしたらいいかか。
昼休みを2時間にしたらその分終業時間が遅くなってしまうだろう。
「あ、あの~」
フクロウモンスターさんが遠慮がちに妖月様に声をかけた。
「なんだ?」
「はい。もし可能ならお昼休みの時間を職員によってずらすというのはどうでしょうか?」
「ずらす?」
「はい。ある職員は11時半から12時半までをお昼休みとして他のある職員は12時から13時をお昼休みにすることで混雑が避けられるのではないかと……」
「なるほど。確かにそうですね!」
私はフクロウモンスターさんの意見に同意した。
「……分かった。勤務時間の変更を検討してみよう」
妖月様はそう言って「生き血」を飲むと私と共に職員食堂を出た。
「どうでしたか? 職員食堂は?」
「美音の言う通り一般のモンスターとの意見交換は有意義ではあるな」
「じゃあ、これからも職員食堂で食事をしましょう!」
「なに?」
「もっともっと有意義な意見が聞けるかもしれませんよ」
私がニコニコと笑顔で言うと妖月様は小さく溜息を付きながらも返事をした。
「よかろう。美音と職員食堂で食事を取る機会を増やす」
「ありがとうございます。妖月様」
これからもっと妖月様と一般モンスターさんの距離が縮まって妖月様が怖いってイメージが無くなればいいな。




