61 お互いを知ること
私は昼休みになると急いで所長室に向かった。
所長室の扉をノックすると妖月様の入室許可の声が聞こえる。
「妖月様!」
「美音か。今、私も仕事が終わった。これから昼食だが美音の用事は何だ?」
「はい! 私が書いた記事の会報誌ができたので妖月様に読んでいただきたくて」
「そうか。見せてみよ」
「はい。これです」
私は会報誌を妖月様に渡す。
自分の記事の部分には付箋を貼って置いたので妖月様はサッと記事を読んでくれた。
私は妖月様の感想をジッと待つ。
「なるほどな。保養所やその周辺の特徴が分かりやすく紹介されておるな。これなら保養所を使いたいと思うモンスターもおるであろう」
「ありがとうございます! 妖月様のおかげです!」
「私の? 私は何もしておらぬが……」
「いえ、保養所を取材に行けたのも妖月様が私に車の免許を取らせてくれたからです」
この世界では車の移動がメインだ。
羽があるモンスターさんたちなら街の外に行けば飛んでいけるかもしれないが私には羽は無い。
車の免許を取りたいと言った時に妖月様が教習所に通わせてくれなかったら今回も保養所に行くのは大変だったはずだ。
妖月様にはとても感謝をしている。
「あのことか。あれは美音の実力あってのこと。今回の記事も美音が頑張った証だ」
妖月様は私の実力だと褒めてくれた。
私は一瞬涙が出そうになるがグッと我慢する。
「では昼食を食べるか」
妖月様がそう言ったので私は急いで妖月様に提案する。
「妖月様も職員食堂で昼食を食べませんか?」
「……なんだと?」
妖月様の瞳が険しくなるがここで怯んではいけない。
「職員食堂で職員がどんな料理を食べて日々の仕事を頑張っているかを知るのも所長の仕事だと思います!」
私は一気に思っていたことを話した。
このモンスターお役所で妖月様は特別な存在だ。
ミツールさんのように所長の妖月様を怖がる職員も多い。
だけどそれは妖月様の一部分しか見ていないからだ。
妖月様は「人間」の私を雇ってくれたり分からないことを教えてくれる優しいモンスターさんだ。
私はそのことを同じ役人モンスターに知ってもらいたかった。
「……私が職員食堂に行けば他のモンスターはゆっくり食事できぬであろうが」
このセリフは自分が役人モンスターから恐れられていると思っていて役人モンスターを気遣っての言葉だ。
それでも私は言葉を続ける。
「なぜですか? 職員食堂にはいろんな部署の職員がみんなで食事をしています。私も他の部署のモンスターさんの話を聞いたりできる貴重な場所なんです」
「なら、美音は職員食堂で食べればよかろう」
「いえ、妖月様が職員と一緒に食べることが大事なんです」
「……なぜ私が他の職員と一緒に食事をせねばならぬのだ?」
「職員が快適にお役所内で仕事ができているかを知るためにももっと一般の役人モンスターと接する機会を作った方がいいと思うんです。職員が快適な職場環境で働けるようにするのも上に立つ者の仕事だと思います」
「…………」
妖月様は無言で私を見つめる。
私も妖月様の視線を受け止める。
たぶんみんなが怖がっているのは妖月様が強い「力」の持ち主で仕事に厳しいからだ。
でもそれが「怖い」というのは単なるイメージで真実ではないと多くのモンスターさんたちに知ってもらいたい。
そして妖月様にも一般の役人モンスターを知ることで「お互いを知ることが大事なことだ」という考えを持ってもらいたい。
そうすれば妖月様も一方的に「人間が悪い」と人間との共存を反対しなくなるに違いない。
私は妖月様が持つ「人間」のイメージを変えたかった。
氷火様は妖月様は「共存に反対している」と言っていた。
だから妖月様の意識を変えることができれば一歩「人間」との共存に近付く気がしたのだ。
なぜなら妖月様はこのモンスター世界を支配する者の一人だからだ。
上に立つ者で「人間との共存」を望む者が増えれば実現への道が拓かれるに違いない。
「……美音もだいぶ言うようになったな。よかろう、職員のことを知るためにも職員食堂で食事をして一般の役人モンスターたちの様子を見てやろう」
「ありがとうございます! あ、でも職員食堂では仕事の時間じゃないんで妖月様も他のモンスターと同じ条件で食事してくださいね」
「……分かった」
「ではご案内します」
私と妖月様は職員食堂に向かった。
職員食堂はいつも通り混んでいたので妖月様が現れたことにはすぐに気付いた者はいなかった。
「まずは食券を買ってください。妖月様」
「……分かった」
私と妖月様が食券を買う列に並ぶと近くにいたモンスターさんが叫んだ。
「しょ、所長!?」




