60 妖月のイメージ
「美音さん! 会報誌ができたよ」
「わあ、本当ですか? ブオン係長」
「ああ。はい、これが美音さんの分ね」
ブオン係長が私に会報誌を一冊くれる。
さっそく自分の書いた記事の部分を読むと写真や絵などもついて詳しく書かれている。
「美音さん。なかなかいい出来じゃん!」
「ありがとうございます! ミツールさん」
会報誌を読んだミツールさんも褒めてくれる。
「そうね。なかなか各種族のモンスターが興味を持つような内容よねえ。私も「氷温風呂」に入りたいわ」
そう言ったのはキョウカ主任だ。
キョウカ主任はもちろん種族的には氷温風呂の温泉がいいだろう。
「でもなんか自分の書いた記事が一冊の会報誌になるなんて不思議な感覚です」
「ハハハ、最初はそんなものさ。この会報誌ではまたいろんな企画を考えるから美音さんもアイデアがあったらドンドン言ってくれ」
「はい。ブオン係長」
そうだ! 妖月様にも見せてあげたいな。
今日のお昼に妖月様にこの会報誌を見せちゃダメかな。
一度、妖月様に見せたい気分になると帰りの時間まで待てない。
いつもはお昼休みに妖月様に会うことはないけど今日くらい所長室に行ってもいいんじゃないかと思って私は勇気を出して妖月様から教えてもらっていた所長室の内線電話に電話した。
通常、所長に用事がある場合は秘書室を通すことになっている。
しかし妖月様は「何かあったらかけよ」と直通の内線番号を教えてくれていたのだ。
私はドキドキしながら妖月様が電話に出るのを待つ。
「はい。妖月です」
「あ、あの! 美音です」
「美音か、どうかしたのか?」
「今日のお昼に所長室でお見せしたい物があるんですけど行ってもいいですか?」
「お昼にか?」
「はい! あ、でもお忙しいなら夕方まで待ちますけど……」
妖月様が忙しいのは分かっているはずなのについ自分の気持ちを優先してしまったことの後悔が襲ってくる。
やっぱり夕方まで待った方が良かったよね……
「かまわぬ。たまには美音と昼食でも食べるか」
「え? 私と昼食ですか?」
「……私とは食事したくないと?」
妖月様の電話の声が低くなる。
「いえ! 一緒に食べたいです! でも、あの、職員食堂で食べるんですか?」
「……私が職員食堂に姿を現したら職員がみんな食事をした気がせぬであろうが。私には専用の食堂がある」
「そうなんですか、知りませんでした」
「ではお昼時間になったら所長室に来るがよい」
「はい! お伺いします!」
私は内線電話を切った。
それにしても妖月様が職員食堂に現れたらみんなが食事した気がしないってどういうことだろ?
仕事中じゃないんだから職員も妖月様に怒られるなんてことはないと思うんだけどな。
「ね、ねえ、美音さん。今の電話の相手って誰?」
ミツールさんが顔を引きつらせながら私に訊いてくる。
「え? 今のは妖月所長です」
私は仕事中なので妖月様のことを妖月所長と呼ぶ。
「マジで!? あんなに普通に所長と話せるの?」
「え? あ、はい。いつもあんな感じですよ」
普通に話せたかどうかは分からないがいつも妖月様と会話をするとあんな感じだ。
「美音さんは個人的に所長と交流を持ってたのは知ってたけどあんなに普通に会話できるなんて尊敬しちゃうよ」
「そうですか?」
「僕は絶対無理。所長と目が合っただけで身体が動かなくなっちゃうもん」
「え? 何でですか?」
「だって所長だよ? もし何かこっちが粗相して機嫌を損ねたら怖いじゃん!」
ミツールさんはブルブルと身体を震わせる。
そんなに妖月様って怖いかな?
それってただのイメージに過ぎないんじゃ……
私はあることが閃いた。
そうだ! まずはこのモンスターお役所から変えよう!




