59 妖月の勤務年数
その日も私は勤務が終わり妖月様と屋敷へ帰るために車に乗っていた。
私は車の窓の外を眺めながらキョウカ主任があと三か月で「定年退職」する話を思い出していた。
私もいつかは「定年退職」する日が来るよね。
自分で「定年退職」を決めることは分かったけど、私の場合はやっぱり「60歳」を目途にした方がいいのかな。
自分がどれくらい生きるか分からないけど日本の平均の退職年齢を考えると60歳というのは一つの目安だろう。
私はふと隣に座っている妖月様を見た。
妖月様の寿命ってあとどれくらいあるのか分からないけど妖月様も「定年退職」すること考えているのかな。
そういえばもう一つの条件としてモンスターお役所に10年以上勤めているのが条件ということだったけどそもそも妖月様はいつから「所長」をしてるんだろう。
「なんか言いたいことがあるのか?」
私がジッと妖月様を見ていたせいか妖月様は私にそう声をかけた。
「あ、え~と、妖月様って「定年退職」する予定ありますか?」
「……なんだと?」
妖月様の瞳に冷気が宿る。
「あ、別に妖月様が「定年退職」するような年齢だなんて思っていませんよ!」
私は慌ててそう言った。
「……お前は以前からこの私を年寄り扱いすることが多いな」
「え? そ、そんなことありません!」
確かに妖月様は千年ぐらい生きてるから私の感覚的にはだいぶ年を取っている気はするが妖月様の外見は若々しい。
「そもそも何でいきなり「定年退職」の話になるのだ?」
「それは保養係の主任がもうすぐ「定年退職」する話を聞いたので……」
私はお昼にキョウカ主任から聞いた話のことを妖月様に説明した。
「なるほどな。私はまだ「定年退職」する気はない」
「そうなんですね?」
「ああ」
私はその返事を聞いてなぜかホッとした。
少なくともしばらくは妖月様と一緒に働けることがとても嬉しい。
「妖月様は10年以上モンスターお役所に勤務してるんですよね?」
「……お前はまた私を馬鹿にする気か? そんなの当たり前だろうが!」
「す、すみません! そんなつもりじゃなくて妖月様はいつから「所長」になられたのかと思って……」
「私がいつから所長になっただと?」
「はい。妖月様は最初から所長だったんですか?」
私がそう訊くと妖月様は一瞬嫌そうな顔をした。
「私は氷火に言われて所長になった。最初は面倒だから断ろうと思ったが「断ったら財産全て没収するから」って脅して来たから仕方なく所長をやることにした」
「え? 氷火様に脅されたんですか?」
「……あの男は平気でそれぐらいのことはする男だ」
妖月様は苦々しい表情でそう言う。
う~ん、氷火様って意外と強引なところがあるのかなあ。
「それで何年ぐらい所長をしているんですか?」
「そうだな。私が所長になって既に800年ぐらいが経つかな」
「え!? モンスターお役所ってそんなに古くからあるんですか?」
私は驚いた。
「この近代的なモンスターお役所が出来たのはそんなに古くはない。しかし昔から「役所」の仕事はあったのだ」
妖月様の言葉に私は日本の歴史を思い出す。
確かに平安時代とかそういう時代には既に「役人」はいたはずだ。
そうか。そんなに長く所長をしているんだね。
「妖月様の前の所長さんっているんですか?」
「もちろんだ。私の前には「初代所長」がいた」
「初代所長ってことは妖月様は「二代目」の所長ですか?」
「そうだ」
初代所長ってどんなモンスターさんだったのかな。
「初代所長さんはどんなモンスターさんだったんですか?」
「初代は既に亡くなっているが氷火の兄だった男だ」
「氷火様のお兄様ですか?」
「ああ、氷火とは性格が違い温厚な性格だったが病気で亡くなった」
え? モンスターさんたちも普通に病気とかってあるの?
私はモンスターお役所に勤めてから周囲のモンスターさんたちが病気で休んだことがないのでモンスターさんたちは病気にならないのかと思っていた。
「モンスターさんたちも病気になるんですね?」
「……当たり前だ。モンスターだって生き物なのだから病気ぐらいするに決まってるだろう。まあ、モンスターの病気は美音には感染しないと思うがな」
「そうなんですか?」
「モンスターはその種族特有の病気が多い。だからある種族のモンスターが病気になっても他の種族のモンスターには感染しない」
へえ、そうなんだね。
「……人間は病気ですぐに亡くなる者が多いと聞く。美音も身体には気を付けよ」
「え? あ、はい」
今の言葉って私を心配してくれたんだよね。
妖月様に心配されるのはなんか嬉しいな。
車は屋敷に着いた。




