44 体験宿泊の出張
「え? 体験宿泊記ですか?」
「そうなんだ。今度会報誌で保養所の記事を載せるんだがそこにそれぞれの保養所に泊まった体験宿泊記を書こうと思ってるんだ」
ブオン係長はそう言って私に資料を渡す。
「美音さんには「ハコリン荘」に行ってもらいたい」
「ハコリン荘ですか。でも職員の私が体験記を書いてもいいんですか?」
「まあ、本当は誰かモニターを募集して泊まってもらうのがいいんだけど、美音さんはまだハコリン荘には行ったことないだろう?」
「はい。そうですね」
「だから美音さんならそこで感じたことを素直に感想として書けると思うんだよ」
なるほど。確かに私はハコリン荘に行ったことがないからそこで感じたことや体験したことを書けばいい記事になるかもしれない。
でもこれってけっこう責任重大なような気がするんだけど大丈夫かな。
「私はあんまり文才はないんですけど……」
「ハハハ、文章自体は編集をするから大丈夫だよ。大事なのはハコリン荘に泊まって体験した美音さんの素直な感想だ」
「そうですか。ではやらせてもらいます」
「出発は5日後だ。期間は10日間」
え? 10日もハコリン荘に泊まるの?
「10日もハコリン荘に泊まるんですか?」
「ああ、ハコリン荘自体の魅力も感じてもらいたいがハコリン荘がある地域の魅力も伝えてもらいたいんだ。そうすればお客さんもハコリン荘に泊まりながらその地域で楽しもうって気になるだろ?」
「そうですね。じゃあ、いろいろハコリン荘の地域の魅力も発見してきます」
「そうそうその調子で頼むよ。ハコリン荘の所長には私から連絡しておく。所長以外は美音さんが職員だって報せないから美音さんもそのつもりで宿泊してね」
「なんで報せないんですか?」
「その方がハコリン荘で働くモンスターたちの普段の姿が分かるだろうし」
そうか、私が保養所係の職員だと思って特別な待遇を受けたらハコリン荘の本来の姿は見えないってことなんだね。
でもハコリン荘ってどうやって行くのかな。
「ハコリン荘ってどうやって行くんですか?」
「ん? 車でだよ。美音さんは先日車の免許を取ったんだろう?」
「え? はい。そうですけど」
車の免許を取ってからはこの街の中で走ることはあっても街を出たことはない。
う~ん、気をつけて運転しないとだよね。
まずはハコリン荘までの道を覚えないと。
「じゃあ、後で旅費とかも渡すから」
「分かりました。私はハコリン荘について勉強します」
「うん。頑張ってね」
私はその日はハコリン荘についての資料を見て過ごした。
就業時間が終了して私は妖月様のいる所長室に向かった。
扉をノックすると「入れ」と妖月様の声が聞こえたので入室する。
「美音か。少し待っておれ」
「はい、妖月様」
妖月様は麗華さんと引継ぎ作業をしている。
私がソファに座って待っていると来客があった。
所長室に入って来たには王人の氷火様だった。
「やあ、妖月。あ、美音ちゃんも一緒かあ」
「こんにちは、氷火様」
私は氷火様に挨拶をした。
氷火様は私の方を見てニコリと笑ってくれる。
「いったい何の用だ?」
妖月様は幾分不機嫌そうに氷火様に問いかける。
「いやあ、こないだの出張先で手に入れた情報の中でね、妖月にも関わるような情報があったから持って来たんだよ」
「私に関わるだと?」
「そう、モンスターお役所で「汚職」が発生してるってね」
え!? モンスターお役所で「汚職」!?
私は氷火様の言葉に驚いた。
「なんだと?」
妖月様の赤い瞳が冷気を帯びる。
「こないだ私が始末した奴らの家を捜索したら役人との「汚職」に関係する書類が見つかったんだ」
氷火様はそう言って妖月様に書類を渡した。
妖月様はその書類に目を通して表情が厳しくなる。
「分かった。この件はこちらで調査する」
「よろしく、妖月。じゃあ、私はまだ仕事があるから帰るね」
氷火様はそう言って部屋を出て行った。
「汚職」ってテレビとかで聞いたことあるけどこのモンスターお役所でもそんなことがあるの?
妖月様はスッと立ち上がった。
「美音。帰るぞ」
「え? はい」
私は妖月様の後をついて行ったが妖月様の背中には怒りのオーラを感じる。
妖月様は「罪」を許さない人だから「汚職」が行われているって知って怒ってるんだろうな。
でも「汚職」ってどんなことやらかしたんだろう。




