39 王人の氷火
その夜、珍しく妖月様の屋敷に来客があった。
私と妖月様が夕飯を食べていた時にその来客はやってきた。
界魔さんが慌てた様子で食堂にいた妖月様に報告する。
「妖月様。王人様がいらっしゃいました」
「氷火が?」
妖月様は界魔さんの言葉に少し不愉快気な表情になる。
おうじん? ひょうか? いったい誰のことだろう?
そこへ一人の男性が食堂に姿を現す。
私は思わずその男性の姿に息を呑んだ。
白い長いストレートの髪は腰の辺りまでありその瞳は銀色だ。
妖月様も銀髪だから太陽の光の加減では白っぽく見える時があるがこの男性は完全な白い髪だ。
一瞬、「白髪」かとも思ったがその白い髪はどこか髪の毛自身が光を発しているような不思議な感じ。
そして銀の瞳もまるで月の光のようだ。
なんか「月光の王様」みたい。
それに顔立ちは整っていて年齢も妖月様ぐらいにしか感じない。
まあ、この世界では見た目では年齢は分からないけど。
でも完全な人型だから上級モンスターさんなんだろうと私は推測した。
「よう、妖月。元気にしてたか?」
「氷火。長期出張から帰ったのか?」
「まあね。なかなか楽しい出張だったよ。罪を犯したのは自分たちでこちらは証拠もあるのに無様に命乞いするなんて哀れにさえ思えたよ」
「え?」
命乞い? 罪?
私はその人物の物騒な言葉に思わず反応してしまう。
するとその白髪の人物は私の方を見た。
銀の瞳で見られた瞬間、なぜか背筋がゾクリとした。
「ああ、もしかしてこの子が妖月が可愛がって寵愛してるって子?」
え? 妖月様が寵愛してる? 私を?
私は思わず顔を赤くしてしまった。
「氷火。どこの誰の情報かは知らぬが勘違いするな。美音は事情があってこの屋敷に住んでモンスターお役所で働いているに過ぎん」
「へえ。そうなんだ。でも妖月は今まで他人と関わるのはあまり好きじゃなかったじゃないか。この私が何度となくお前と遊んでやるって言ってたのに小さい頃から私にたてついてばかりでさ」
「それはお前が誘う「遊び」に興味がなかっただけだ」
妖月様は冷たい声で言うがその赤い瞳には怒りの色は見えない。
「まあ、いいけどね。それより妖月。この可愛い子を私にも紹介してくれよ」
その白髪の人物の言葉に妖月様は溜息交じりに言う。
「この者の名前は美音。表向きはヴァンパイア族の亜種としてるが純粋な人間だ」
私は妖月様がこの人物に私が「人間」と紹介したことに驚いた。
今まで妖月様が他のモンスターさんに私を「人間」と言ったことはないし、妖月様からも他の者には「ヴァンパイア族の亜種」と言えと言われていたからだ。
「まあ、それは見れば分かるけど。美音ちゃんか可愛い名前だね。私は氷火だ。この街の「王人」だよ」
「あ、え~と、美音です。よろしくお願いします」
私は戸惑いながらも自己紹介をする。
そもそも「王人」の意味が私には分からない。
「氷火。美音はまだこの世界のことには疎くてな。「王人」と言っても意味が通じぬ」
「え? ああ、そうか。ごめんね、美音ちゃん。「王人」というのはこの街で一番偉いモンスターのことだよ」
「この街で一番偉い方ですか!? す、すみません。気付かなくて」
私は慌てて椅子から立ち上がり頭を下げた。
「別に気にしないからいいよ。妖月がモンスターお役所に雇ったなら美音ちゃんは「人間」であってもこの街の住民だからさ」
「えっと、王人様。私が「人間」って分かってしまいますか?」
私が不安になって聞くと王人様はニコリと笑った。
「普通にしてれば気付かないよ。私が気付くのは私や妖月がこの街では「特別な存在」だからさ。それに私のことは「王人」じゃなくて「氷火」って呼んで」
「そうなんですね。氷火様と呼ばせていただきます」
「うん。それでいいよ。「王人」って呼ばれるとなんか「仕事モード」になっちゃうし」
それって妖月様が「所長」って呼ぶのは職場だけにしろって言ったのと同じかな。
「それで氷火。何か用事だったのか?」
「ん? ああ、出張から帰って来たよってことと妖月が女の子を可愛がっているって聞いたからその子を見に来たのと昼間、妖月に対して「ルール」違反した愚か者をどう処分するかの相談に来ただけ」
妖月様は氷火様の言葉に苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「先の二つのことは置いておいて。私を煽った馬鹿どもなど「処刑」でもいいぐらいだ」
「ああ、やっぱりそう言うと思ったけどさ」
妖月様の物騒な言葉に氷火様は笑顔で相槌を打つ。
昼間の車を煽った事件ってあの狼モンスターさんたちのことだよね。
さすがに「処刑」は可哀そうだよ。
「あ、あの! 「処刑」はしないでください!」
気が付いたら私はそう言葉に出していた。




