30 モンスターの街の夜景
夕飯を食べ終わって私は自分の部屋で妖月様を待っていた。
妖月様は所用があると言って今日の夕飯は妖月様と一緒ではなかった。
界魔さんの作ってくれた「シチュー」は美味しかったけど、一人で食事するのはちょっと寂しかった。
いつの間にか妖月様と一緒に食事するのに慣れていたんだなあ。
私はそう思っていると部屋の扉がノックされた。
「はい」
「私だ。妖月だ」
「あ、今、開けますね」
私が扉を開けるとそこにはいつもの妖月様がいた。
ここは妖月様の屋敷だから妖月様がいるのは当たり前だけど、なんでこんなに嬉しい気持ちになるのかな。
「準備に少し手間取ってな。遅くなってすまぬな」
「いいえ。大丈夫です」
妖月様が基本的に忙しい人なのは分かっている。
「さて美音。上着を着てついてこい」
「え? 上着ですか?」
「……二度も同じこと言わせる気か?」
「いいえ! 上着を取ってきます!」
私は慌てて上着を着て妖月様の後を追う。
妖月様は屋敷の中庭に出る。
中庭と言ってもかなりの広さがある。
池があってその中を魚が泳いでる。
「美音。こちらに来い」
「はい」
妖月様に手招きをされて私は妖月様に近付いた。
すると妖月様が私をすかさず抱っこする。
「え? あ、あの?」
なんで妖月様は私をお姫様抱っこしてるの?
「しっかり腕を私の首にかけて掴まれ」
「え? あ、はい」
私はわけが分からなかったけどしっかりと妖月様の首に両手を回して掴まる。
う~ん、心臓がドキドキするよ~
私は恥ずかしくて顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「よし、行くぞ」
妖月様の言葉が聞こえた瞬間、ふわりと体が浮き上がった感じがした。
「え?」
私が動揺している間に私を抱っこした妖月様の体が宙に浮かび、そのまま上昇する。
ひえ! 怖いよおお!!
私は怖くて目を瞑って妖月様にしがみついた。
しばらくして上昇する感じが無くなった。
「ほれ、目を開けて見てみよ」
妖月様に言われて私は目を開けた。
そこはこのモンスターの街の上空だった。
ひえ! 空中に浮いてるの!?
「これが私の持つ「飛行能力」だ。コウモリになど変身しておらぬだろう」
ああ、そうか。妖月様は別に変身とか翼が無くても飛べるのか。
それってすごくない?
「下に見えるのがモンスターの街だ」
私は下に見える街を見たがモンスターの街は電気が点いていて綺麗に輝いている。
「うわあ、綺麗」
私は思わず声が漏れる。
こんな夜景なんて久しぶりに見たな。
東京で見た夜景も綺麗だったけどこのモンスターの街の夜景も綺麗。
まるで宝石箱の中の輝く宝石みたい。
「美しいだろう?」
「はい。とても美しいです」
私が素直にそう答えると妖月様は満足そうな笑みになる。
あれ? でもこのモンスターの街って10メートル以上高く飛ぶのは「ルール」で禁止じゃなかったっけ?
「妖月様」
「なんだ?」
「モンスターの街の上は飛行禁止なんじゃないですか?」
「……そうだな」
「じゃあ、こうやって飛んだりしたら罰せられるんじゃ?」
「……そのために今夜だけの『特別』な特殊能力の使用許可を取ってきたのだ」
え? それってもしかして私に夜景を見せるためにわざわざ特別な許可を取ってくれたの?
「……ありがとうございます。妖月様。私のために特別な許可を取ってくれたんですね?」
「……フン、別に美音のためだけではないわ。久しぶりに私も飛んでみたくなっただけだ」
妖月様はそう言って私から視線を逸らす。
やっぱり妖月様は優しいなあ。
こんな優しい所長のいるモンスターお役所で働けるなんて私ってすごく幸せな気がする。
「満足したか?」
「はい! 今日はきっと良い夢が見られる気がします」
「そうか。では降りるぞ」
妖月様は少しずつ高度を下げて元の屋敷の中庭に降り立った。
私も妖月様に降ろされて自分で立つ。
「……今夜のことは他の者に言うなよ」
「分かりました!」
妖月様は私の頭を撫でてから屋敷内に入って行く。
うん! 妖月様はやっぱり優しい人だ。あ、違った、優しいモンスターさんだね。




