19 遊ぶ約束
私と妖月様はレストラン街にやって来た。
いくつかお店があったが妖月様は一つのお店に迷うことなく入って行く。
「いらっしゃいませ。これは妖月様、ようこそおいでくださいました。どうぞ、いつものお席に案内いたします」
「ふむ。すまんな。今日は連れが一人おる」
妖月様がそういうと店員さんは私の方を見てニコリと笑みを見せる。
店員さんの頭にはウサギのような耳がある。
この店員さんは獣族の一種かなあ。
でも妖月様ってすぐに分かるってことはこのお店は妖月様が普段利用しているお店なんだね。
なんかやっぱり妖月様ってモンスターお役所の所長ってだけじゃなくて日頃からすごいモンスターなのかもしれないな。
私と妖月様が案内されたのは個室だった。
でも窓があって外の景色が見える。
「こちらがメニューです。料理用と素材用がありますがどちらがよろしいでしょうか?」
店員さんは席に座った私に訊いてくる。
私は職員食堂での出来事を思い出し答えた。
「あ、料理用でお願いします」
「どうぞ」
店員さんに渡されたメニュー表を見ながら何を注文するか考える。
う~んと、お昼だから軽い物でいいかな。
あ、この冷やしうどんとかおいしそう。
「ご注文はお決まりになられましたか?」
「私は生き血を」
「かしこまりました。ホットになさいますか?アイスになさいますか?」
「そうだな。ではアイスで」
え? 生き血にホットとかアイスとかあるの?
まるでコーヒーみたい。
「どうした美音。早く注文せよ」
「あ、はい。私は冷やしうどんでお願いします」
「かしこまりました」
ウサギ耳の店員さんは部屋から出て行った。
妖月様と職場以外で完全に二人きりになるなんてあんまりないよね。
だいたい界魔さんがいつも側にいるし。
私が妖月様を見つめていると妖月様が口を開いた。
「どうかしたのか?」
「いえ、妖月様と二人きりになることって珍しいなと思って」
「まあ、いつも界魔がおるしな」
「妖月様は友達とどこかへ遊びに行くことあるんですか?」
私はなんとなくそう質問していた。
妖月様の屋敷に一緒にいても誰かが屋敷を訪ねて来たことはなかった。
あの大きな屋敷にいるのは世話をする界魔さんと数名の使用人だけ。
妖月様には親しい友人はいるのかな。
「一緒に遊びに行くような者はおらんな。仕事関係者と食事などに行くことはあるが」
「そうなんですね」
妖月様らしいと言えばそれまでだけどいつも仕事関係者としか会わないなんてちょっと可哀そうな感じもするよね。
そこで私は閃く。
「じゃあ、妖月様。私と遊びに行きませんか?」
「は? なんだと?」
「だから私もこの街に慣れたいし、妖月様もたまには遊びたいでしょう?」
「何を言っておる。別に遊びたくなんか……」
妖月様はそう言いながらも視線を泳がしている。
私の直感が感じる。
うん、妖月様はきっと遊びたいに違いない。
「私のために遊ぶ場所に行くのに付き合ってくれませんか?」
「美音のためだと?」
「ええ、私はこのモンスターの世界で働きたいと思いますがまずこの世界のことを知るために遊ぶことも大事だと思うんです」
私の言葉に妖月様はしばらく黙っていたがやがて息を吐き出す。
「仕方ないな。美音が早くこの世界に慣れることは上司としても必要なことだと思うからな」
妖月様はあくまで私のために仕方ないとしか言わない。
でも絶対に妖月様だって遊びたいよね。
そこへ店員さんが料理を持って来た。
「明日も休みですよね? それだったら一緒に出かけてください」
「……分かった。時間を空けておく」
「ありがとうございます! 妖月様。絶対約束ですよ?」
「……分かっておる。私が約束を破るとでも?」
妖月様の瞳が冷気を帯びる。
ひえ! いけないいけない。調子に乗ったら怒られるよね。
「いえ!妖月様はけして人との約束を破る方ではないと思います!」
「よろしい」
妖月様は満足そうな顔になる。
私は自分の前の冷やしうどんを食べ始めた。
でも妖月様と一緒にいられるのは楽しいな。




