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四話 ロッタ―旧坑道

 ローザ様とのポンっ!の練習が始まって早三週間、俺はついにポンっ!に成功した。


照らせ、鼻の先(ポンッ)


 俺がそう唱えると、俺の指先に炎がともる。

 そして、その光で目が眩む。

 うれしい。とてもうれしいぞ。

 ンんだこの達成感は。


「よくやったな。ソウヤ。これで、お前も立派な魔法使い……になれると思ったか! 指先を光らせるだけで、幾日使ってると思っているのだ!!」


 そうですよね。

 よくかんがえたら、俺もそう思います。


「……だが、まあ、おめでとう。ここまで、よく頑張ったな」


 ローザ様は褒めてくれもした。

 素直にお礼を言う。


「まあ、賢者である師匠に魔法使いはほめて伸ばせと教わったからな」


 いい師匠だ。

 そう思っていると、

 達成感と同時に疲労感が襲ってきた。


「マナ切れだな。一回の低位魔法で使いすぎだ。目をくらませるほど光らせる奴があるか」


 ただこれだけの魔法じゃいざというとき心もとない。

 新しい魔法を覚えるため、ローザ様の魔法猛特訓はまだ続きそうだ。

 といっても、これ以上旅の足を止めるわけにはいかない。

 旅を再開しながらの特訓だ。

 以前は、四六時中魔法の特訓をしていたが、もうそんなことはなくなるのだろう。

 ローザ様の特訓は厳しいし、何より魔法への熱量が半端ないからな。

 その熱量も落ち着くと思ったら、よかった、よかった。


「いいか、ソウヤ。世界の魔法使いというのは、こんなものじゃない」


「準広域魔法を無詠唱でボンボン繰り出してくやつもいるのだ。だから、お前もその高みをだな」


 高みを? どうするんだ?


「高みをだな、一緒に目指してみないか?」


 無理に決まってるだろ。

 主であるローザ様がそう決めたなら俺は従うしかないが。

 どうやら、魔法への熱量は冷めないらしい。

 今まで自重していただけで、これが本性か?


 俺は、別に魔法を使うことにそこまで熱量はないんだ。

 そりゃ、魔法を使えたら、かっこいいなとは思う。

 だけど、本気になって極めるとか、そういうのじゃない。

 昔から、そうやって生きてきた。

 何かに本気で取り組むということは、それに責任がついてくる。

 俺は気ままに生きていたいんだ。


「なんだ、目指さないのか? 何でダメなんだ魔法? 剣とか斧とかそっちの方がいいのか?」


「魔法やろうよー。魔法だぞー」


 そういって、ローザ様は俺の肩を揺さぶってくる。

 結構乱暴にぐいぐい来る。

 ローザ様って魔法のことになると本当に性格が変わるな。




ーーーーーーーーーー




 旅も終盤に差し掛かっている。

 一週間ほどで町につくと、ローザ様が言っていた。


 俺たちの目指す、新ホルド帝国クインという町は、鉱石と鍛冶の町らしい。新ホルド帝国の影響下にある最北端の町らしい。

 周囲は山脈に囲まれ、ほかの町からの移動は少々困難と言われている。

 高原に作られた、鉱石の採掘が盛んな町である。


「クインから、すぐ北には中央山脈が走っているんだ」


 俺たちもいくつも山を越えてきたからな。

 山がちっていうのは、なんとなく想像がついていた。


「クインより北はどうなってるんだ?」


 俺は、ローザ様に質問する。

 単純な疑問だ。


「《大戦》後、山脈以北の領域を人間は失ったんだ。んー、今は中央山脈の北に魔法師協会の認めた“開拓者“が送られ、新しい街が作られているようだが、詳しくは知らんな」


 《大戦》から、100年だったっけ。

 徐々に復興しようとしてるんだな。

 てか、その魔法師協会ってのは、なんなんだ?


「あぁ、魔法師協会というのは、魔法の普及や発展を主な目的にしている組織だ。とはいっても、どんな職に就こうとも魔法とは切っても切り離せないからな。様々なことを取り仕切っている。」


「今や職のあっ旋や、個人間の取引の仲介もしているぞ」


 いわゆる、ギルドみたいなものか。

 しかし、手広くやるもんだ。

 新しい土地に行き冒険するにしても、開拓するにしても、魔法師協会が主導し、許可を出している。

 帝国もそれを認めており、それで出た利益の一部を税として納めさせているらしい。


「ここらあたりで魔法師協会の話は終わりにして、これから私たちが越えるクインの町、東のロッタ―旧坑道を説明するぞ」


「私は追っ手に追われているため、主要な街道を通ることは極力避けたい。となると、このロッタ―旧坑道を通らなければならない」


 魔法の話ならもっと食いつくだろうに、ローザ様は次の話をし始めた。

 ロッタ―旧坑道は《大戦》前に坑道として使われていた場所である。

 地面から湧き出すマナの量が濃く、のちに閉鎖、今では魔物のはびこるダンジョンとなった。

 もともとクインの町の東側、ロッタ―旧坑道付近は通過するものも少なく、魔法師協会も整備する必要が低いと判断。

 魔物の討伐依頼も少なく、放置されているという。


「一言でいうと、魔物がいっぱいで危ないということだな」


 なぜか、浮かれた声で話すローザ様。


「魔物相手に、攻撃魔法がいっぱい撃てるな」


 そういうことか。

 魔法がいっぱい撃てたら満足らしい。

 ローザ様にとっては命の危機もあるというのに。


「大丈夫、私には、お前がいるだろう?」


「ローザ様! そんなにも俺のことを」


 信頼されて悪い気はしない、かな


「ああ、頼むぞ、肉壁!」


 おい!


 信頼はされていそうだが、

 肉壁としてなんだよな。


「お前は肉壁になるし、――何より敵と一緒にぶっ飛ばせるのがいいよな! こう、爽快感が違うんだ、爽快感が!」


「といっても、多分、炎属性魔法は使えない。洞窟のような閉鎖的な空間で大きい炎属性魔法は厳禁だ」


 炎属性魔法を習うときに最初に教わるのだという。

 酸素がなくなり、俺たちも生きてはいられない。

 この世界の人たちはそんな理屈でなく、経験から導いているのだろう。


「酸素がなくなり、息ができなくなる」


 理屈で知ってるんかい。


「師匠がそう言っていた。《大戦》前では常識だったそうだ」


 そうか、この世界、一回産業革命まで経験しているんだっけ。


 強力な魔物が出てきた時などの緊急事態にならないと炎属性魔法は使わない。

 基本的に俺がポンっ!であたりを照らしながら索敵。

 魔物が現れたら俺が盾となり、後ろからローザ様が魔法で魔物を俺ごと一突きだという。

 完璧な作戦だ。


「ロッタ―旧坑道は基本的に近くのモンスターウルフの根城になっているらしい。あと厄介なのが、ゴーレムか」


 ローザ様は事前に調べていた情報を見直している。

 よくもまあこんなに調べていたものだ。

 これらの情報は、魔法師協会によるものらしい。

 ほんとに手広いな。


「今回は水属性魔法を使うことにするか」


「炎もいいが、水属性魔法もいいものだぞ。今度教えてやる」


 ローザ様は一人で盛り上がっていた。




ーーーーーーーーーー




 ロッタ―旧坑道



 暗い坑道内を魔法で照らしながら、進んでいく。

 俺が長い間特訓してきた魔法≪照らせ、鼻の先≫の出番だ。

 俺は特訓の末、人差し指を立てずとも、自分の前に炎を照らせるようになっていた。

 これが役に立つ時が来るとは。

 感激だ。


 坑道内はまさに迷宮だった。

 ローザ様が事前に仕入れていた情報がなければ、踏破は難しかっただろう。

 そして、ローザ様はとても頼りになった。

 終始、魔法を撃ちたくてうずうずしていたが、判断は冷静だった。

 魔物がいても相手が気づいておらず、戦闘が不必要と判断すれば、すぐに迂回を選ぶ。

 迂回に時間がかかると判断すると、最小限の戦闘で敵をせん滅する。

 その判断はさすがとしか言いようがなかった。


「これくらいの判断、お前にもできるようになってもらうからな、ソウヤ」


 ごめん被ります。ローザ様。

 俺はそういう責任を伴う判断が大の苦手なのだ。

 他人の選択に全乗っかりする。それが俺の選択なのだ。

 ローザ様が何かに気づく。周りの空気が変わる。


「気づかれたな。すぐ右にウルフ2体、後ろから1体だ。右の奴から倒すぞ」


 ロッタ―旧坑道内に入ってから、早一時間。今日3回目の戦闘だ。

 つまり、それは俺の3回目の死を意味する。


「ソウヤ、右の2体に突進だ! 注意を引いてくれ」


 この指示にももう慣れた。

 実際これが、一番効率がいい。

 それに、敵の注意が俺に向くのでローザ様の魔法がよけられにくい。


今朝の朝露の如く、(ウォーター)その静かな嵐を我に(アロー)


 ローザ様から、6つの水鉄砲が放たれる。

 うち5つは俺のことをうまくよけて、2体のモンスターウルフの体を貫く。

 残った1本は俺の体を貫いてから、ウルフの体を貫く。

 ウルフには攻撃の隙すら与えない。


「あああ、自由に軌道の変えられる魔法なのだが。初めての魔法だと、やはり未熟だ。すまない、ソウヤ」


 ちょうど肺の部分を撃ち抜かれた。

 空気がダイレクトで肺に入ってくる。


 というか、初めてなんかい!

 全力でダンジョン踏破してるのかと思ったら、

 ローザ様、ここぞとばかりに実戦で水魔法の経験を積もうとしてるな。

 毎回、違う呪文を撃ってくる。


「いやいや、実戦ではという意味だ。今まではほら、一人でいきるか、死ぬかをしてたから、いきなり新呪文はなかなか撃てなくてだな」


 もじもじしながらローザ様はそう答える。ばつが悪そうだ。

 そっか、今は仲間(肉壁)がいるからな

 うん、たとえ、肉壁でも頼られるのはうれしいな。

 それに、肉壁は余計なことを考えなくていい。

 単純に痛いけど。


 俺の思考をよそに新たな呪文を唱える。


滴る水に穿たれよ(フォール)


 そう呪文を唱えて、後ろのウルフを倒す。

 何発もの水の弾に撃たれ、ウルフは即死する。

 自慢の牙をむき、とびかかろうとしていたようだが、これだけの速さにはついていけなかったようだ。


「うんうん、久々の水魔法もいいものだな。やはり水属性魔法は魔法の種類が豊富だ」


「この調子でどんどん初めての魔法を試すぞ」


 ローザ様は悦に浸っている。

 この坑道に入った時よりも絶対にテンションが上がっている。

 さっきなんてスキップをしながら、坑道を歩いていた。




ーーーーーーーーーー




 ロッタ―旧坑道最奥


 今までの坑道と違い、開けた場所に出る。

 天井も高く、動きやすい。

 ここが最もマナの濃い場所らしい。

 しかし、ここを通らないと向こうには抜けられない。


「気をつけろ、ソウヤ。最悪だ。ゴーレムが来る」


 ゴーレムとは土や石などで作られた人形の総称だ。

 マナが流れているため、自動で動いたり、魔法を撃ったりできる。

 廃坑道はゴーレムの核となる鉱石が落ちており、さらにはマナ濃度が高いことが多いため、自然にゴーレムが誕生しやすい。


「ゴーレムの中でもこいつは最悪の部類だ。モンスターウルフの亡骸も吸収している」


 ロッタ―旧坑道最奥

 光で照らすとそこには、5~6mほどの土でできた人の形をした何かが座っていた。


 ゴーレムは普通核となるものをその体から、取り除けば動きを止める。

 しかし、目の前のゴーレムの核はウルフの頭蓋骨によっておおわれていた。

 ゴーレムの胸の部分にウルフの頭蓋骨が取り込まれている。

 そして、その中で心臓のように紅色の鉱物が光っていた。

 しかも、両腕にはウルフの亡骸を鎧のようにまとっている。

 さらに、俺たちに不利な情報は続く。


「あの、紅色の鉱物は《大戦》前の世界では、魔法の研究に使われる高価なものだったらしい」


「マナの保持率が以上に高いらしい。ゴーレムの核にするにはもってこいだな」


 もってこいか。それってやばくないか?


「ローザ様、俺にできることって?」


 俺はローザ様に判断を仰ぐ。

 が、ローザ様もこの状況を対処しきれていないようだ。


「相手の出方を見る。お前は盾役だ。私は後方からゴーレムの核に攻撃を試みる」


 盾役ったってどうすれば。

 そんな曖昧な言葉だと動けない。

 俺の動きは固まってしまう。

 ゴーレムが怖いわけではない。

 ただ、自分が何をすればいいのかわからなくなったのだ。

 ローザ様のそばにいた方がいいのか? それともゴーレムに向かって突進か?


「何をぐずぐずしている。頼むぞ」


 ローザ様は俺のことを信頼しているようだが、申し訳ない。

 俺はそんなに期待できる奴じゃない。


「げふっ!!」


 立ち尽くしていた俺にゴーレムの攻撃が飛んでくる。

 その土でできた右腕で俺の顔を強打する。

 その剛腕で俺は数メートル横へ吹っ飛んだ。

 そのまま俺のことを補足したゴーレムはダッシュで俺を殴りに来る。

 ゴーレムのジャンピングパンチ。

 ダッシュの速度も乗ったその攻撃で、俺は壁に1mほどめり込む。


「結果オーライだ、ソウヤ」


 ローザ様は攻撃の対象から完全に外れている。

 今がチャンスだ。魔法がフリーで撃てる。


五月雨(レイン)


 ただ、そう簡単にうまくいかない。

 ローザ様がそう詠唱した次の瞬間、ローザ様とゴーレムの間に土の壁が形成される。

 べちっべちっ、と音を立てローザ様の水属性魔法がその壁に受け止められる。

 そして、ゴーレムの反撃。

 その壁が崩れると、崩れた土くれから、石のつぶてがふわりと浮いてくる。

 それらがすべてローザ様に向かってすごいスピードで飛んでくる。


「なんだ、こいつっ!」


 ローザ様は急いで正面に炎の被膜を展開するも、すべてのつぶてを防ぐことができたわけではなかった。

 石のつぶてが皮膚を裂き、あるいはめり込む。

 その初弾が終わると、新しい石のつぶてが生成される。

 そして、ゴーレムを守るようにローザ様とゴーレムの間に展開された。

 うまくゴーレムに近づくことしかできない。


「この空間自体がお前の支配下か、ゴーレム!」


 その間も俺はゴーレムにぼこぼこにされ続けていた。

 俺の遠のいた意識は、不死身の力で頭が治癒するたびに戻ってくる。

 ローザ様も苦戦している。

 俺が何とかしなければ。


 でも、


 何とかってどうやって。

 やはり、思考が停止する。

 俺は自分の判断を他人に任せてやってきた男だ。

 こんな土壇場になっても何一つ動くこともできない。

 何とかしなければという思いはあるのに。


 だが、潰れては再生する頭に響いてくる声があった。


「……を、…くを、」


 聞きなじみのある声、なんだこれ。

 なんだこの声。


「とりだ……して………れ!」


 そうだ、この声は、

 最近とっくに聞きなれた。

 ローザ様の声だ。


「核を、――核を取り出せ! ソウヤ!」


今朝の朝露の如く、(ウォーター)その静かな嵐を我に(アロー)


 たった一本。石のつぶてをかいくぐり、水の弾がゴーレムの心臓を撃ち抜く。

 周囲の土がはじけ飛び、ウルフの頭蓋骨を割る。

 ゴーレムは核の周りを瞬時に再生しようとする。

 ローザ様一人だったら、2発目を撃つ前に再生が完全に完了していただろう。

 ただ、ゴーレムのすぐ目の前には、俺がいた。

 一瞬むき出しになった核をわしづかみにする。

 手を伸ばすだけで届くんだな。


 そのままその核を高く掲げる。

 ゴーレムは核を戻そうと、必死に俺の腕を土で覆ってくる。

 もう少しで俺ごとゴーレムに取り込まれてしまう。

 そうなる前に、


「俺ごとやってくれ! ローザ様!!」


「ああ、そのつもりだ!」


第二砲台(アクアキャノン)


 放たれた高威力のどでかい水流は、ゴーレムの核どころか周囲一帯を丸ごと削り取る。

 ローザ様の言った通り、もちろん俺ごと。


 核を失ったゴーレムはその場で崩壊する。

 俺たちはゴーレムに勝つことができた。

 後は、この旧坑道を抜けるだけだ。


「よくやったな。ソウヤ」


 相変わらず、ローザ様は俺のことをほめてくれる。

 ほめて伸ばすが、師匠の教えらしい。

 俺だけではなにもできなかったが。


 俺が反省している横でローザ様は嬉しそうにぴょんぴょんしていた。

 今にも踊りだしそうだ。

 ローザ様は満身創痍だった。

 回復魔法は施したといっていたが、傷はふさがってすぐだし、疲労も見える。

 それでも、ゴーレムに勝てたことに体全身を使って喜びを表していた。


「見たか、今の砲台魔法!! やはり、水属性砲台三魔法の中でも、第二砲台は華があるな! ドカーンと一発が大きい!」


 いや、ゴーレムを倒したことではない。

 魔法を撃てたことを喜んでたみたいだ。


 俺たちはこうして、ロッタ―旧坑道を抜け、新ホルド帝国最北端、クインの町へ進むのだった。





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