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二話 旅の始まり

 農場を出てから、ローザに現状を説明させられた。


 ローザもとい、俺の(あるじ)、ローザ様は何者かに追われながら、旅を続けているらしい。

 俺はローザ様の従者としてその旅に同行しているのだ。

 ローザ様が行けと言われたら、行くし、戻れと言われたら、戻る。

 自分で一切考えなくていいと思ったら、気楽か?


「何を考えているんだ? いかにも上の空だが」


 ローザ様に心配をかけてしまった。反省、反省。

 あれから農場を出て、俺たちはろくに休まずに一番近くの町まで歩いてきた。

 夜だから気づくのが遅れたが、この町俺が売られた町じゃねえか。

 嫌な思い出を思い出す。

 早く忘れよう。


 そう思い前を見ると、ローザ様が町の外壁をよじ登っていた。


「お前も早く来い。衛兵に見つかるぞ」


 農場に追っ手が迫っていたことから、察してはいたが、この少女相当のお尋ね者なんじゃ。

 どんな極悪人でも、しもべの俺はついていくしかないんだがな。

 その間もローザ様はどんどん外壁を登っていく。

 やっぱすごいな、ローザ様。

 おてんばの域はとっくのとうに超えている。


「一応聞きますけど、僕たちってなんで、真夜中に町の外壁を登ってるんですか?」


「…私たちは主従だが、敬語はよせ。あまり好きじゃないんだ。年もそう変わらんだろ。」


 そうなのか。

 俺はてっきり、主従関係ははっきりしておいた方がいいと思っていた。


「何で登ってるかって、町に入りたいからに決まってるだろう? これから長旅になる。備えねばならないことがたくさんある」


 そうだよな。町に入りたかったら、壁をよじ登らないといけないよな。

 ってなるか。


「仕方ないだろう。お前も知っていると思うが、私は追っ手に追われている。公に町に入るわけにはいかない」


 じゃあもう、お尋ね者じゃん。

 何かしらの犯罪を犯しちゃってるじゃん。




ーーーーーーーーーー




 町に入ってからは、ローザ様はほとんど人前に姿を見せることはなかった。

 たまに、どこかに出かけてはいたみたいだが。

 旅の準備は、すべて俺のおつかいを通して行われた。

 おつかいのほとんどは食料品だった。

 その多くは保存の効き、たくさん持ってもかさばらないものだった。

 どれほどの長旅になるんだ?


「そういえば、ローザ様って魔法使いなのか?」


 俺はおつかいが終わった後、ローザ様が身を引それている宿屋でローザ様に聞いてみた。


「それ以外に何に見える? まあ、魔術師、魔法使い、魔法師、呼び方は人それぞれだが、私はれっきとした魔法使いだ。お前にもそう見えるだろう? あと、ローザ様呼びはよせ」


「そうだな、何に見えるかと聞かれると魔法使いに見える」


「そうだろう、そうだろう」


 ローザ様は得意げだった。



 町に来て、4日目の夜、俺たちは町を抜け出し、また歩き出した。




ーーーーーーーーーー




 町を出て、歩き始めたはいいものの、いまだ目的地はわからない。


「ロ、ローザ様、俺たちっていつまで歩き続けるんだ?」


 俺はしびれを切らして、ローザ様に聞いてみる。


「だから、“ローザ様”呼びはよせと言っているだろう? 私たちの主従契約魔法は、奴隷のそれほど厳しくはない」


 いや、敬語はやめても、ローザ様呼びはやめられないね。

 俺の癖だ。


「はあ。まあいい、いま私たちが向かっているのは、ここからずっと北の町、クインというところだ」


 ローザ様は基本優しい。奴隷の俺からの質問も基本的に答えてくれる。

 クインという町は新ホルド帝国の影響下にある最北端の町らしい。

 これより北は魔物がごまんといる、本物の魔境であるという。


「てことは、俺たちはあと、」


「あと、この道を一か月半ほど歩くことになる。」


 ローザ様は基本優しくない。この舗装もされていない、道とも呼べない山道をずっと歩かせる気だ。


「もっと、人里のほうに降りたらどうだ? 街道なり、なんなりは、」


「街道はあることにはあるが、私は少々訳があって、人目に付きたくはないのだ」


 なるほど、追っ手に追われるくらいだからな。

 従者の俺に拒否権はない。

 こんな少女にもそれなりの事情があるのか。

 俺が黙っていると、ローザ様が口を開く。


「私の方こそ、お前に質問なのだが、その不死身体質というのはなんなのだ? 見たところ、周囲のマナを使って肉体を再構築しているようだが、お前、魔法は全く使えんのだろう?」


 その通りだ。俺は、まったく魔法というものを使えない。

 ローザ様が言うには、低位の魔法なら、すぐに使えるようになるらしいが。


「俺にもわからない。氷の中で目覚めたときから、不死身だった」


 ローザ様は難しい顔をする。


「なんだその答えは。――ふん、氷の中か」


 いやに意味深な受け答えだな。

 ローザ様はそのままうつむきながら、何かを考えていた。

 山道だから危ないのに、ローザ様にはそんなの関係ないらしい。

 どんどんと、道を進んでいく。

 ちなみに、旅の荷物はほとんど俺が背負っているが容赦はなかった。

 それから、1時間ほどたった後だったころ。

 軽々と草をかき分け進んでいたローザだったが、突然立ち止まった。


「まて。ここから、魔物の領域のようだ」


「はあ、はあぁ、え、どういう?」


「見ろ、背の高い草がかき分けられて道ができてるだろう?」


 ローザ様は指をさす。確かにそこには、獣道があった。

 そしてローザ様から言わせると、ここら一帯はマナの濃度が濃く、魔物が住みやすい土地らしい。


「獣道でも、ここは山道なんだから、ほかに誰か通ったんじゃ?」


 俺はあえて楽観的な意見を出す。

 といっても、希望的観測でもないはずだ。

 俺たちが通ってきた道だ、ほかの人間が通っていたとしてもおかしくない。


「何を言っているんだ、ソウヤ。ここが道なわけないだろう」


 道じゃなかった。

 俺たちが通ってきたのは、道じゃなかったみたいだ。

 どうやら、俺たちは本当に道なきところを通っていたらしい。


 そして、それらは本題ではなかった。


「まあ、魔物の中でも、トロールだろうな。ほらここに足跡がある」


 ローザ様曰く、トロールというのは人間よりも一回り大きな魔物であり、30体ほどの群れを作り生活しているらしい。

 さらに、魔法を使うこともあり、人間には交戦的な種族であるようだ。


「できれば、交戦したくはないが。まあ、無理だろうな。奴ら鼻も効く」


 あきらめないでよ、ローザ様。

 ローザ様の魔法で何とかは、、

 ならないといわれた。

 魔法はそこまで便利ではないらしい。

 ローザ様が言うには、魔法を使えば、そこに痕跡が残る。

 そして、それをトロールたちは見つけることができる。


「トロールが出てきたら、お前は盾になってほしい。私が魔法を詠唱するまでの時間を稼ぐのが、役目になる」


「そして、もし、本当に危機的状況ならほんの一瞬でいい、隙を作ってくれ」


 盾役じゃなくて、盾そのものなのか。

 そんなことを思っていたのだが、ローザ様の雰囲気が変わる。

 一週間ほど、ローザ様と一緒に過ごしてきたが、こんなローザ様は初めて見た。

 神経をすべてあたりの警戒に回していた。

 俺を前にして、不意の遭遇を警戒する。

 そして、さらに山の奥へ進んでいく。

 歩く。

 さらに歩く。

 そして、

 俺の後ろを歩いていたローザ様が俺を呼び止める。


「よかったな。ソウヤ。私たちが先に奴らの居場所をつかんだぞ」


 ローザ様が指示した崖の下、かがみこむように覗いてみると、遠くの方にトロールたちが10体ほど生活している。

 あそこら、一帯がトロールの巣なのだという。

 ただ、トロールたちはどこか殺気立って見えた。


「ここが、風下でよかったな、ソウヤ。ただ、やはり部外者が自分たちの縄張りに入ったことには気づかれているな。私たちの姿が見えると、すぐに襲い掛かってくるぞ」


 ローザ様はそういうと、魔法の詠唱を始める。

 先制攻撃をして、トロールの巣を破壊するらしい。

 ほっといても、トロールたちは襲ってくるので、とりあえず巣を壊して相手の戦力をそいでいくのらしい。

 俺は周囲の警戒を任される。

 周囲の警戒たって、トロール見つけても俺、何もできないぞ。

 そんな俺を横目にローザ様は赤いペンダントに手をかける。


≪大爆発≫(フレア)


 これは、ローザ様お気に入りの魔法らしい。

 ローザ様が自慢していた。

 この世界でも、ここまでの魔法を使える人間は数えるほどしかいないのだとか。

 ローザ様って何者なんだ?


「終わったぞ」


 はやい。さすがです。

 必殺仕事人なローザ様は、その場で伸びをする。

 あとは、いち早くトロールの縄張りから抜けるだけだ。


「あぶない!」


 ローザ様がそう叫び終わる前に、俺の腹には、風穴があいていた。

 涼しい。

 おいおい、このまま平穏に終わらしてくれないのかよ。

 正面から、5体ほど。それぞれ、こん棒などの武器を持っていた。

 一番前にいる3体は俺がまだ死んでいないことが分かると、さらに追撃を加えてくる。


「あああ、痛ってえ!」


 次の攻撃で右腕が取れていた。

 自分の血で、全身が赤く染まる。

 右腕はすぐに再生したが、絶体絶命なことには変わりない。

 死ぬことはないにしろ、とにかく痛い。苦痛だ。

 ローザ様早く!


≪大爆……≫(フレ…)


 後ろに控えていたトロールの1体が動き出し、ローザ様の詠唱を阻む。

 振り降ろされたこん棒は、ローザ様に直撃する。


「ぐはっ!」


 ローザ様は赤い血を流し、その場にうずくまる。

 失神はしていない。


 ローザ様! 大丈夫か!? 

 まずい、まずいまずいまずいまずい。

 何か俺がトロールの気をひかないと。

 そうだ、石でも何でもいい。

 俺はそうして、近くにあった俺の右腕を手繰り寄せる。

 俺は右腕で、俺の右腕をトロールに向けて投げる。

 思いっきり。


「うぁぁあぁ」


 さっきまで、ローザ様に向いていたトロールの注意が俺に向く。

 こん棒を振り下ろされる。

 一瞬の出来事だった。

 だが、ローザ様にはその一瞬で事足りたらしい。


≪大爆発!!!≫(フレア!!!)


 ローザ様から発射された幾重もの火の玉は、トロールたちに当たると爆発し、トロールたちを焼き尽くす。

 ついでに俺も焼き尽くす。

 いやいい、ここで二人とも助かるんなら。

 ……やっぱ、熱い!!


「助かったぞ、ソウヤ。やはりお前は有優秀な盾だ」


 どうやら、盾としての役目は果たせたみたいだ。




ーーーーーーーーーー




 結局、トロールは昼間ので全員みたいだった。

 一応トロールの縄張りを抜け、野営している中、ローザ様はそう言っていた。

 それにしても、昼間みたいなのに今後も遭遇するのなら、困るな。

 あれでも、ぎりぎりだったぞ。

 ただ、いまだけは安らぎの時間だ。


 ローザ様は、夕食のスープを俺に差し出す。

 干し肉と豆類が具として入ったスープだ。

 俺はそれを断る。


「俺は、別に何にも食べなくても、死にはしないんだ。貴重な食料はローザ様の分だ」


「それはそうだが、確かにそっちの方が合理的ではあるが」


 ローザ様はまだぶつぶつ言っていたが、俺は丁重に断る。

 トロールを倒した記念だと言っていたが、危険な旅路の最中だ。

 俺も腹が減らないことはないが、不死身のおかげで死ぬことはない。

 少しでも、合理的な判断を取らねば。

 それに、俺のせいでローザ様が死んだなんて状況はいやだからな。

 責任を負いたくはない。


「いいやだめだ。お前も食え、ソウヤ。飯っていうのは、栄養補給以外にも大事な意味がある」


 主の命令なら仕方ない。俺は、そのスープを受け取る。このやり取りももう何度目だろう。

 もともと二人分の食事を準備しているから心配するなとローザ様は笑っている。

 ありがたくいただくことにした。


 この世界に来たばかりなら、弱音を吐いていたのかもしれない。

 しかし、もうこの世界に来て4年だ。

 多少の我慢はできるようになった。

 今では、知らない山深くで知り合ったばかりの少女とトロール狩りをするほどたくましくなった。


 そしてローザ様は、そうだと言って口を開く。


「ソウヤ、お前にも最低限の魔法が必要だな。お前も魔法を使ってみたかったんだろう?」


 まあ、そうですけど。

 何で知ってんだ。

 それから、ローザ様に魔法の簡単な説明をしてもらうことになった。




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