第7話 グリッター
星崎零華は、一ノ瀬美桜と並んで食堂を出た。
昼食が終わってから、まだ数分しか経っていなかったが、廊下には炊きたての米と、甘辛いタレと、揚げたての油の匂いが残っていた。
美桜が優雅に伸びをした。
「今日の唐揚げ、とても美味しかったですね」
零華はうなずいた。
「ええ。勧めてくれてありがとう」
美桜は微笑んだ。
「もちろんです。何でも、いつでも私に相談してくださいね」
中央庭園に面したガラス張りの廊下を通りかかった時、零華は足を止めた。
外では、噴水のそばのベンチに陽が当たっていた。
有沢凱斗が、いつもの場所に座っていた。少し背を丸め、硬い黒表紙のノートに何かを書いている。表紙の角は擦り切れていた。金属製の製図ペンが、紙に触れる前に彼の指の間で回り、速く、正確に動いていた。
美桜が彼女の視線を追った。
それから微笑んだ。
「あの古いノートに、何がそんなに特別なのでしょうね」
零華は見つめたままだった。
「私にも分かりません。ただ……」
言葉が止まった。
凱斗はページへ顔を近づけた。黒い前髪が目にかかる。完全に世界から切り離されているように見えた。
零華は視線を逸らし、歩調を速めた。
「興味もありません」
美桜は軽い足取りでついてきた。
「会長、一つ聞いてもいいですか?」
「駄目です」
「それでも聞きます」
零華はため息をついた。
「あの有沢くんへの関心は、純粋に学園のためですか。それとも、何か個人的な目的が?」
零華は廊下の真ん中で足を止めた。
顔に乗せた笑みは完璧だった。
完璧すぎて、危険だった。
「馬鹿げた質問ですね」
「私は、会長があそこまで誰かに揺さぶられるのを見たことがありません」
美桜は両手を背中の後ろで組んだ。
「もしかすると会長は、自分がどんな感情を抱いているのかを――」
「違います」
美桜は黙った。
零華の氷のような青い目には、もう舞台の上のような優雅な輝きはなかった。
清潔な切れ味。
冷たく。
まっすぐ。
丁寧に磨かれた刃のように、その美しさはほとんど居心地の悪いものになった。
「有沢くんは、有用な資源です。それ以上ではありません」
美桜はわずかに頭を下げた。
「承知しました」
庭では、凱斗がまだ計算を続けていた。
(ペットの回収で百クレジットを受け取った)
ペンが止まった。
(あれはペットに入るのか?)
それでも書いた。
前回残高:マイナス五十
事件解決ボーナス:プラス百
現在残高:プラス五十
承認はその日の朝に届いていた。星崎零華の署名入りで、短いメモがついていた。
「暫定支払い。慣れないように」
凱斗はその数字を見つめた。
プラス。
奇妙だった。
ほとんど疑わしい。
(あと百五十クレジットあれば、通話を買える)
ペン先が顎に触れた。
(過去の事件が再発しなければ)
記憶が罰のように蘇った。
まず、彼が生物部から借りた潜水服で観賞池から出てきたこと。肩には藻が絡まり、三匹の鯉が戦争状態になっていた。
マイナス八十クレジット:装飾生態系の攪乱。
次に、彼が蛍光粉まみれで清掃用具入れの中にいて、教師に、見えない足跡を追っていただけだと説明していたこと。
マイナス六十クレジット:化学物質の無断使用。
凱斗は目を閉じた。
(この学校では、科学的方法が迫害されている)
ページをめくった。
噂もあった。
一定数以上のクレジットがあれば、家庭の事情を理由に遠隔学習制度を申請できるらしい。
本当かどうかは分からない。
けれど、もし本当なら――
指の間でペンがきつく握られた。
(家に帰る)
その思考は短かった。
凱斗は一行を書いた。
最も効率の良いクレジット源:生徒会。
歯を食いしばった。
(認めるのは死ぬほど嫌だが、あいつが必要だ)
本館を見た。
生徒会の問題を解決することが、母さんに近づく一番速い道だった。
だからこそ、その結論が耐えがたかった。
凱斗は立ち上がった。
その頃、零華はすでに生徒会室へ着いていた。
扉を開けた。
そして、止まった。
部屋は箱でいっぱいだった。
ソファの上に箱。
会議用テーブルの上に箱。
机の横にも箱。
膨らんでいない風船。すでに膨らんだ風船。色とりどりのリボン。紙吹雪。本棚に立てかけられた巨大なグリッターの筒。
犬塚葵が、その惨状の真ん中に立ち、ほとんど見えない糸をドアノブに結びつけていた。
零華はゆっくり扉を閉めた。
「誰がこれを?」
葵は親指を立てた。
「私」
「なぜですか?」
「天才作戦!」
「言い換えます。なぜ私の部屋を破壊しようと思ったのですか?」
葵は、世界平和でも発明したみたいに笑った。
「有沢くん、まだ生徒会に入るのを断り続けてるでしょ。でも私たちには必要。だから考えたの。人間が絶対に断れないものって何だろうって」
零華は腕を組んだ。
「感情的脅迫」
すぐ後ろから入ってきた美桜が、首を傾げた。
「適切なタイミングで提示される情報」
陽葵が真剣に手を上げた。
「中に珍しい生き物が入った箱」
床に座って電卓を持っていた黒沢がつぶやいた。
「事務手数料なしの契約書」
葵が手を一つ叩いた。
「不正解! 歓迎会!」
零華は箱を見た。
それから糸を見た。
それからグリッターの筒を見た。
「それは奇襲攻撃です」
「愛情つき」
「もっと悪いです」
葵は入口を指さした。
「もう呼んであるよ。有沢くんが扉を通って糸に触れた瞬間、パーティー開始。風船、紙吹雪、グリッター、短いスピーチ、おやつ。彼が入る。私たちが叫ぶ。彼が感動する。承諾する」
黒沢は、家族の死を見届けているような顔で電卓を見ていた。
「メタリック風船、リボン、クッキー、ジュース、生分解性グリッター……これは高い。非常に高い。予算が出血している」
「チーム愛のためだよ!」
葵が言った。
「チーム愛にも税金はかかる」
陽葵が白い手袋を整えた。
「私は好きです。温かくて、少し暴力的です」
「社会的な待ち伏せです」
零華が言った。
扉が動いた。
葵が目を見開いた。
「来た!」
全員が固まった。
ドアノブが回った。
一年生の女子が、腕いっぱいにプリントを抱えて入ってきた。
「先輩、このプリントを忘れて――」
彼女の足が糸に触れた。
世界が爆発した。
風船が天井から跳ねた。紙吹雪が全方向へ発射された。グリッターの噴射が軍用兵器のような精度で部屋を横切り、訪問者に直撃した。
三秒間、輝きだけが存在した。
その女子は部屋の真ん中に立っていた。頭から靴まで金色に覆われていた。
まばたきをした。
一度。
二度。
それから、異様なほど丁寧にプリントを床に置いた。
「ここに置いておきます、先輩」
振り返った。
走って出ていった。
扉が閉まった。
誰も話さなかった。
葵が片手を上げた。
「リハーサル?」
零華は髪にも、肩にも、マントにも銀色のグリッターをかぶっていた。自分の意志に反して子ども向けの祭りに参加させられた天上の女帝みたいだった。
美桜は指で口元を隠していた。
陽葵は文字通り輝いていた。
黒沢は眼鏡にグリッターをつけ、電卓の前で震えていた。
「予算損失、確認」
扉がもう一度開いた。
凱斗が現れた。
止まった。
部屋を見た。
髪に紙吹雪をつけた葵を見た。
財政崩壊中の黒沢を見た。
幸せそうに輝く陽葵を見た。
それを将来の脅迫材料を見るみたいに微笑んでいる美桜を見た。
そして最後に、零華を見た。
零華は背筋を伸ばした。
「何も起きていません」
凱斗は床に倒れたグリッターの筒を見た。
「見えてる」
「関連性のあることは何も起きていません」
「そっちのほうがまだ納得できる」
零華は咳払いをした。
「それで? なぜ来たのですか?」
凱斗は胸ポケットに手をやった。
ペンはそこにあった。
それが助けになった。
「誘いを受ける。そう言いに来た」
部屋の空気が止まった。
葵が口を開けた。
陽葵が両手を合わせた。
黒沢が呼吸を止めた。
零華は一度まばたきをした。
「……受けるのですか?」
「ああ。じゃあ、明日から」
凱斗はもう出ていきかけていたが、扉の途中で止まった。
首だけを向けた。
「あ。会長」
零華は表情を崩さなかった。
「何ですか」
「グリッター、似合ってる」
部屋の沈黙に歯が生えた。
凱斗は、たった今一つの事実を提示しただけの人間のような、馬鹿みたいに真剣な顔で彼女を見ていた。
「性格に合ってる」
扉を閉めた。
二秒間、誰も動く勇気がなかった。
そのあと、零華のスマートフォンが震えた。
画面に、送信元不明の番号から通知が表示された。
メッセージ内容:写真一枚。




