光を生んだ女神 ティア
光を生んだ女神
世界にまだ夜明けがなかったころ、テイアは暗闇の底で、目を閉じていた。
何も見えない。けれど、何もないわけではなかった。
彼女の胸の奥には、まだ名もない光が眠っている。テイアはそれを両手で包み、長いあいだ温めていた。
やがて夫のヒュペリオンが、静かな声で尋ねた。
「いつまで、その光を抱いているのだ」
「生まれる時を待っているのです」
テイアが答えると、胸の中で光がかすかに震えた。
最初に生まれたのは、ヘリオスだった。黄金の髪を持つ子は、燃える戦車に乗って空を駆け、世界の隅々まで朝を運んだ。
次に、セレネが生まれた。銀色の光をまとった娘は、夜の道を静かに照らした。
最後に、エオスが現れた。彼女は夜明けの色を指先にすくい、暗い空の端へそっと塗り広げた。
三人の子どもたちは、それぞれ違う光を携えて空へ昇っていく。
ヘリオスが去ったあと、テイアは空を見上げた。朝も、夜も、夜明けも、もう彼女の腕の中にはいない。それでも、世界は光に満ちていた。
「寂しくはないのですか」
ヒュペリオンが問う。
テイアは微笑んだ。
「光は、手元にあるときだけ光るのではありません」
彼女は暗闇に残された星々へ手を伸ばした。触れることはできない。それでも、星はひとつ、またひとつと輝きはじめる。
テイアは、世界を照らす光の母だった。
そして、誰かの目に光が映るたび、彼女の名は、静かにその奥で輝いていた。




