表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

9  その言葉は胸に詰まるよ

グマ爺さんは人間で言うと40代の設定です。

「いっただっきまあす」て。


では、どうぞ。

 楽しいところを悪かったね、と三十おじさんは笑いを堪えながら言った。


「うん? ここはどこだ?」


 金髪お姉さんがかいつまんで説明をした。

 それで納得した頑丈おじさん。


「おお、朝か。いい朝だ。さっそくだが王都に向かおう。馬車の手配をまだしていなかったな。俺も間抜けだ」


 そう豪快に笑う頑丈おじさんは、昨日のバキバキ状態からは抜け出せていた。

 目を見れば、分かる。


「おお、嬢ちゃん。嬢ちゃんには本当に世話になりっぱなしだな。どうだ、俺と一緒に王都に行かねえか?」


 渡りに船、だ。


「行きます、行きます」

「よし、決まりだ。もちろんそれで借りを返しただなんて言わねえぞ。分割払いだ。大陸から来たなら、王都で羽を伸ばすのも、悪かねえだろ。俺が案内してやる。て言っても鍛冶師大会に出るのが俺の一番の目的だから、大会が終わってからになるが、それでもぐるっと回ってみるのもいいだろ。大陸にはねえ珍しい物もあると思うぜ」


 ことの急展開に三十おじさんと金髪お姉さんは目を白黒させていたけど、この町に留まるメリットがあるのかどうかも分からない。

 ここで私がやりたいことなんてないし、嘘をついて煙に巻き続ける自信もない。

 お世話になった二人には礼を言うことしかできないのが心残りだけど、私の直感が頑丈おじさんについて行ったほうがいいって言っているし。


「よし、朝飯前に、行ってくる。ラギュール、フィナ、鍛冶師大会で俺が優勝すればこの町にも箔がつくってもんだ。おらあやるぜ。嬢ちゃん、待っててくれ」


 言うが早いか、頑丈おじさんは飛び出た。

 見えるはずのない砂煙が、たしかに見えた。

 私たちは何だか笑った。笑うことはいい。

 したくもない暗い顔をせずにはいられない、例えば昨日みたいな状況なんかより、ずっといい。


 ご飯にしましょう、と金髪お姉さんは言った。

 はたと気付いた。

 私はよくよく考えれば無銭飲食の宿代踏み倒しのならず者だ。

 この世界のお金なんて当たり前だけど持ってはいない。

 支払いをしたくてもできないのだけど、断りもしないで礼の一つも言わないで、ご飯を食べて泊まらせてもらう。それは大変に心苦しい。断っても礼を言っても、苦しいことに変わりはないのだけど。


「オリハルコンのお代は、私からも少しだけだけど払わせてもらっているからっていうんじゃ、駄目かな? オリハルコン製のバトルアックスが優勝してもしなくても、それはこの町に住む私たちの希望なんだ。優勝すれば、もちろん、嬉しい。でもグマ爺が造ったバトルアックスが優勝できなかったら、この町の誰が造ったって優勝は無理だ。だから優勝できなくても、ミ・ユ・キが悪いわけじゃない。むしろこの町のみんなに希望をくれた、オリハルコンなんて貴重なものを提供してくれた、恩人だ。恩人から金なんてもらえないよ。ミ・ユ・キだって私の立場になったらそう思うんじゃないかい?」


 胸が詰まって何も言えなかった。

 頑丈おじさんの足音が近づいてきて、金髪お姉さんが料理を運んできて、四人で食べる朝ご飯の美味しいことといったら。

 せめてものお返しに皿洗いを手伝っている間に、頑丈おじさんは自分の家に帰って馬車に乗せる荷物を抱えてきた。


「皿洗いが終わったら、行くぞ、嬢ちゃん」

「はい。分かりました」

「皿洗いはもう充分に手伝ってもらったわ。ミ・ユ・キ、行ってらっしゃい」

「でも……、いいんですか?」

「いいから、いいから。グマ爺を待たせるのも悪いでしょう?」


 たしかに、と私は思い、お言葉に甘えさせてもらうことにした。

 なんてあったかい人たちなんだ。

 私の荷物はアコースティック・ギターとトートバッグだけだ。

 支度はすぐできる。

 あっと思ったことがあったけど、気になんてしていられない。


「ラギュールさん、フィナさん、感謝してもしきれません。ありがとうございました」


 深々と頭を下げた。


「こっちこそ、ありがとう」

「戻ってきたら、土産話、聞かせてね」


 三十おじさんが、そして金髪お姉さんが見送ってくれた。

 私は行くのだ、王都に。


「おい、嬢ちゃん」

「はい! 何ですか?」

「その喋り方、なんとかなんねえかな?」

「変、ですか?」

「いや、堅っ苦しくていけねえ。嬢ちゃんは俺の大恩人だ。本当なら、オリハルコンなんて貴重なものをもらった俺のほうが敬語を使わなきゃいけねえくらいだ。それがそんな喋り方をされたら、俺だって『お嬢様、馬車で王都まで参りましょう』なんて痒くなる喋り方をしなきゃいけなくなる。それ、どうだ? 痒いだろ?」

「たしかに」

「だから、せめてもう少し、砕けた言葉使いっての、してくれよ」

「うん、分かった」

「そうそう」

「グマ爺さん」

「何だい、嬢ちゃん」

「グマ爺さん」

「ほい、きた」


 私が笑うと、頑丈おじさんも笑った。

 これから一緒に旅をするのだ。

 気を使いあいながらだったら、たしかに余計に疲れてしまう。


「そこの角を曲がれば門が見えて、すぐそばに馬車屋がある。馬車で一泊して、二日後の、遅くても夕方には王都に着く。宿は鍛冶師優先の宿屋が、特別に用意してあるらしいが、俺たちが着く時には全部埋まってる可能性もある。まあ、二日は野宿だと思っておいたほうがいい」

「お風呂は?」

「二日くらい入らなかったって死にゃしねえよ」

「いや、死活問題だから!」


 私はこの春から女子高生になる十五歳の女の子なのだ。

 二日もお風呂に入れないなんてありえない。

 必死に抗議した。


「分かった、分かった。一日目は川の近くで野営する。二日目は、王都に風呂屋があったはずだ。そこに行こう」


 今度日本に戻れた時は、シャンプーとコンディショナーにボディシャンプーも持ってくる。

 マストだ。


王都とクリミネンの間に山の宿屋はある設定ですが、

グマ爺さんはお金を節約するためにキャンプを選んだのです。

美優姫には初めてのキャンプです。はっきり言うと野宿ですから、

そりゃあ抵抗があって当然ですよね?


では、また。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ