表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

8  認めよう

今も昔も、権力を笠に着た悪党というものは、確実に存在するのです。


では、どうぞ。

「女、おい、女」


 遠くから声がして、

 何だ?

 何を言っているんだ?

 と耳を澄ませたら、頬をぶたれた痛みが走った。


「お、目が覚めたか」


 私はカウンターの上に寝かされていた。

 店の中は好き放題暴れられたせいで、壊滅状態だった。状況が分からなかった。


「おい、女と言っているであろう」


 もう一度頬をぶたれた。


「痛い」

「うむ。意識はあるか。私はこの町に駐留する騎士団の長、支部長だ。モンスターは私たちが追い払った。安心したまえ。店を壊されたのは災難だったが、人に被害が出なかったのは何よりだ。モンスターのしたことだ。恨むならモンスターを恨みたまえ。領主様がいらっしゃったなら、労いの言葉もかけていただけたであろうが、今はいらっしゃらない。まあ、命があっただけ儲けものと思って、店を再建するがよい。何か質問はあるか?」

「いいえ。ありがとうございました」

 三十おじさんが答えた。

「うむ。では、帰らせてもらう。他にも被害が出ないようにするのが、我々の務めだからな」


 私はずっと目を見ていた。

 支部長と、その後ろに並び立つ五人の騎士団員の目を。

 そして声を聴いていた。

 つらつらと話す騎士団支部長の声を。


(嘘つき!)


 点と点が線になって、すべて分かった。

 モンスターをけしかけたのはあいつらだ。

 さっきのことを恨みに思ってのことだ。

 モンスターを虐待したのもあいつらで、モンスターを操ってこのお店をこんなにしたのもあいつら。

 この町の実権を握るため、牛耳るために。


(なんてひどい)


 腹が立った。

 腹が立ちすぎて、泣きそうになった。

 私がよっぽどひどい顔をしていたのだろう、


「蓄えがあるから何とかなるさ。さっきの金貨もあるしね」


 と三十おじさんが笑ってくれた。

 金髪お姉さんは私の頬に手を触れてくれた。

 慰めてくれるのだろうと思ったら、頬が温かくなり、痛みが引いた。

 え?

 と声が出た。


「魔法よ。私は僧侶。クレリックなの。傷を治すのなんて、朝飯前。フフ」


 え!

 と声が出た。


「あれ、知らないのかい? 大陸にも、魔法はあるでしょう?」

「いや、お姉さんが魔法を使えるとは思ってもいなかったので……」


 驚いた三十おじさんに、私は誤魔化すために嘘らしき言い訳をした。

 私がこの世界の人間ではないと知られるのは、いけない気がするから。


「フィナは僧侶で、私はシーフ。盗賊なんだけど、何も盗んだりはしないよ。正義の盗賊さ。でも盗賊って言ったら聞こえが悪いから、シーフって、そう名乗ってる」


 僧侶、シーフ、ドワーフ、鍛冶師、武器、王都、領主、王国騎士団、モンスター、冒険者、魔法……。

 私は知識を総動員して考えた。

 そして結論を出した。


 ここはファンタジーな世界だ。

(いやいや、ありえないよ)


 自分で出した結論を、自分で否定した。

 でも、完全には否定しきれなかった。

 いや、これだけの現実が目の前にそろっているのだから、ありえないと言いながら、筋の通った考えだと、否定した自分を否定した。


(認めよう。ここはファンタジーな世界だ。こんなことならもっとゲームやったりラノベ読んだりしとけばよかった)


 私がそう思ったのは、立て続けにいろんなことが起こったせいだ。

 ドアを壊されたせいで風がダイレクトに入ってきた。

 日本は四月で、夜はまだ冷え込むけど、この世界でも寒いのは同じで、でも周到なことにドアのスペアがあると、三十おじさんが新しいドアを取り付けた。

 もちろん、私と金髪お姉さんは手伝った。


 そこで私は、初めて店の外に出た。

 道に等間隔に灯りがあった。

 夜だからかもしれないけど、人気はなくて、どこか寒々しくて、寂れているんですか?

 と口を滑らせた私のあの発言は、悲しいかな、やっぱり当たってしまっていたのだ。


「さあ、終わったよ。寒いから中に入ろう、ミ・ユ・キ」


 とても笑える心境じゃなかったのだけど、私の前で暗い顔をしない三十おじさんに、精一杯の笑顔で答えた。

 スマートフォンをいじってみたのは、晩ご飯を御馳走になり、部屋をあてがってもらって、眠るまでの間だ。

 うんともすんとも言わなかった。

 異世界なのだから、当然、圏外なのだろう(つまり私はこの時点で『ここは異世界だ』と認めたのだ)。

 ベッドに入っても眠れそうにないとは思ったのだけど、ベッドに入り

(こないだは一泊しても帰ったらものの数秒後だったんだから、今回だって、大丈夫、だよね……そうだよね)

 と考えているうちに、眠りに落ちた。


 自分が眠っていたのだと気付いたのは、朝になって金髪お姉さんに起こされたからだ。

「さあ、ミ・ユ・キ、起きて。朝も早くに悪いけど、私たちは王都にいかないとけないから。ミ・ユ・キも巻き添えよ」

「頑丈……、グマ爺さんは起きたんですか?」

 と私はあくびをしながら訊いた。

「ううん。だからやっぱり私たちが連れて行くことになったの。ミ・ユ・キはどうする? 何かやることとか、そもそもこの町に来た目的も、聞いてはいなかったわね。あれ、私たち、名乗ったっけ?」

「いえ、でも会話の中で聞きました。ラギュールさんとフィナさん」

「何か用があって大陸から来たんでしょう? あなたはあなたでやりたいことをやって、私たちは王都へ、ということにしましょうか?」


 眠気が吹っ飛んだ。

 異世界(一度認めてしまったら案外簡単に受け入れられるものだ)に一人ぼっちなんて、絶対に避けなければならないことの一つだ。

 でも本当のことを言うわけにもいかない。

 大陸から来たという向こうの勘違いを、真実として押し通さなければいけない。

 いけないのだけど、うまい考えが浮かばない。


「あの、私思ったんですけど、グマ爺さんは私の歌で眠ったんだから、私の歌で起こすことって、できませんか?」


 金髪お姉さんは胸の前でパンと手を合わせた。


「そうか。言われてみればその通りね。何で思いつかなかったのかな。一度試させてもらってもいいかしら?」


 私は宝物兼相棒を抱えて、頑丈おじさんが寝ている部屋に向かった。

 金髪お姉さんは三十おじさんを呼んでから来た。

 三人がそろった時には、チューニングを終えていた。


「じゃあ」


 と私は歌った。


 四分八秒。


「いっただっきまあす」


 と頑丈おじさんは目を覚ました。


マグマはどんな夢を見ていたのでしょうね(笑)

でも、これは後から明らかになる話の例外です。


では、また。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ