30 悲しい
予告はなしだったのですが、気付いてくださった方に投げキッスを。
では、どうぞ。
前線を突破してきたモンスターが、王様に狙いを定める。
近衛兵が迎え撃つ。
見ると、人間側はかなり後退している。
頑丈おじさんとオルガの姿が確認できて、安心するのも束の間、二の矢、三の矢と、次々にモンスターが王様に襲いかかってくる。
近衛兵の一人に危機が迫って
(あ、危ない)
と思った私の胸を撫で下ろさせたのは、シンガだ。
横から弾丸のように飛んで、モンスターの喉を噛み、戦闘不能にしたのだ。
「ミユキ。ぼくがまもるよ」
ありがとう。
準備が整ったようだ。
今度の今度は、正真正銘、私の番だ。
私は歌う。
声色も声量も、さっきとは違う。
よし、歌える。
キャンメルさんもアンダレスさんも笑顔だ。
キャンメルさんの拡声の魔法によって、この騒然としている戦場で、人間の全員に、私の歌声が届く。
四分三十三秒。
やりきった。
最高だ。
戦場を見てみる。
人間側のほうが立っている人は少ないけど、動きの速度や運動量は、人間のほうが上回っているように見える。
その証拠に、モンスターの表情が驚きになっている。
でも、まだだ。
私はさらに歌いたい。
「キャンメルさん、もう一曲、いっていい?」
「もちろんです」
次に歌う歌は『愛の歌』だ。
癒しの力がある光属性の歌だと言われた曲だ。
アンダレスさんが言うには『神の慈愛』という魔法と同じ効果があるのかもしれないらしい。
それがどれだけすごいのかは分からないけど、倒れた騎士さんたちが、そのまま倒れたままでいいわけはない。癒しの効果があるのなら、傷ついた騎士さんたちを癒したい。
届いて。
空を飛べるモンスターは、上空から槍や剣を振るったり、背後に回りこんで挟み撃ちにしようとしたりしている。
背中を取られた騎士さんをかばうように冒険者さんが回り込んで、何とかその危機は回避された。
先端部分が三つに分かれている、あれも槍なのだろうか?
それで胸を突かれた騎士さんが目に入って、反射的に目を逸らした。
でも、よく見てみると、刺さってはいないようだ。
あんなに尖っているものであんな力で突かれたら、普通は胸を貫かれて死ぬものだ。
それとも距離が離れすぎていて怪我の具合をよく確認できていないだけだろうか?
……あ、風の防御膜。
守りの風魔法を、キャンメルさんや使える人たちが唱えたから。
きっとそうだ!
後で言われるまで思い至らなかったのだけど、私のまっさらな夢も、一役、いや、六役買っていたらしい。
その時、私は照れくさいような嬉しいような、そして何だか誇らしいような、そんな気持ちになった。
一人、また一人と、倒し倒されている。
これが戦争か。
目の前で仲間が倒れても、敵を倒すために戦い続けなくてはならない。
そうしなければ、自分の愛する人、愛する国を守れないからだ。
戦争って、悲しい。
五分三十三秒。
私は見る。
倒れていた人たちを、淡い光が包む。
もしくは倒れていた人たちが、淡く発光する。
千切れた腕や足が、元あった場所に戻り怪我する前の健康な状態になり、斬られた突き刺された傷が、修復されて塞がり意識を取り戻した。
そして、すっくと立ち上がったのだ。
それでも寝たままの人も、ぱっと数えて十人はいる。
だけど、モンスターたちは動きを止めた。
白目まで真っ黒になった目で、立ち上がった人間たちを、自分たちで戦闘不能になるダメージを与えたはずの、立てるはずのない人間たちが立ち上がり、また武器を取った様を見て、幾許かの恐怖を覚えたのだ。
そのモンスターたちの中で、一人冷静だったのは、ボス、ガルマオンだった。
「恐れるな皆よ。何度立ち上がろうと、雑兵であることに変わりはない。二度立ち上がったら二度叩き、三度立ち上がったら三度叩けばよい。我も、出陣する」
持っていた片刃の巨大な斧を掲げると、刃が太陽の光を反射する。
モンスターたちの士気が、明らかに上がっていく。
でも、人間の側だって、負ける気なんてない。
人間もモンスターも、自分と仲間を奮い立たせるように、叫んだ。
まだ、戦いは続行される。
モンスターの最後尾に陣取っていたガルマオンが、戦線に参加する。
やばそうだと思った。
強いと怖いに『危険』を合わせたような嫌な感じがする。
他のモンスターとは格が違うと、私にでさえ分かった。
私にでさえ分かったのだから、頑丈おじさんやオルガレベルになれば、確信を持って分かったのだろう。
二人がガルマオンの前に立った。
「同じ斧使い同士、仲よくやろうや」
「同じモンスター同士、力比べをしよう」
「二対一でか?」
「いや、まずは俺からだ」
頑丈おじさんが一歩出て、オルガが一歩引く。
でも、この状況でなぜ声が聞こえたのかは分からない。
分からないのだけど、頑丈おじさんとオルガは一番強いモンスターを戦争に参加させないために、一番危険な役回りを引き受けたのは分かる。
私は思わずにはいられない。
(頑張れ。頑張れ。頑張れ)
「ミ・ユ・キさん」
その呼びかけに、私ははっとなる。
キャンメルさんだ。
そうか、そういうことか。
「もう一度、まっさらな夢を歌いましょう。立ち上がった騎士たちには、補助効果が見受けられませんから」
一度意識を失うと、騎士さん魔術師さん冒険者さんにかかっていた歌の効果が切れてしまうらしい。
それはいけない。
キャンメルさんと呼吸を合わせて、また歌う。
歌いながら、頑丈おじさんとガルマオンの戦いを見ていた。
速くて目で追えない。
いや、まったく見えないとか、消えて見えるとかじゃないけど、私では、打撃を受ける瞬間だけ風の防御膜を張っての援護射撃は、できそうにもない。
あっと思った。
また歌の効果が発揮されなかったら、が頭をよぎったからだ。
それじゃいけないと歌に集中した。
キャンメルさんを見ると、頷かれた。
大丈夫という意味のようだ。
戦っている人間側を一人一人、確認する。
モンスターだって決して弱くなんてないだろに、必死に剣を振るっている。
やられても、やられても、向かっていく。
その勇敢さに、ぐっとこみ上げてくる。
四分三十三秒。
効果が切れた人たちには再度効果が現れたけど、効果が切れていなかった人たちには、二重に効果が発現されはしないみたいだ。
一つ学んだ。
一回目の効果時間が二回目の歌を聴いた時点から、また上書きされるようだ。
「声が聞こえたのは、キャンメルさんの風魔法ですね?」
「はい」
私が確信を持って尋ねて、キャンメルさんは簡潔に答えた。
再び目を戦場にやると、ガルマオンとばっちり目が合った。
次回が中断前の最後となります。
必ず続きを書きます。死なない限りは。
頑張ります。
では、また。




