31 尾を引く黒い煙
中断は、やっぱりちょっと寂しいです。
では、どうぞ。
三十メートルか四十メートルか、それとも二十メートルか。
それくらい離れていて、私の視力は両目とも一・二。
悪くはないけどそんなにいいと言うほどよくもない。
そんな私の目が、脳が、ガルマオンとたしかに目が合っていると、言っている。
頑丈おじさんも、戦いの手を止めて私に振り返った。
(それがガルマオンの作戦で、振り返った頑丈おじさんに攻撃をするための『ひっかけ』だったら……)
頭に浮かんで怖くなった。
でも、モンスターにも誇りがあるらしい。
そんな卑怯な真似はしないで、口を開きかけたそこに、戦っていた冒険者さんとモンスターが割って入ってくる。
冒険者さんは倒れて苦痛に顔を歪める。
とどめとばかりにモンスターが爪を振り下ろそうとしたところで、私は叫んだ。
「やめて!」
モンスターは爪を振り下ろすのをやめて、私を見た。
その向こうに、私を見ているガルマオンが見える。
興味深そうに、口元に笑みを浮かべている。
「娘、お前、モンスターの言葉が話せるのか」
頑丈おじさんとの戦いを中断して、訊いてくる。
私は目で助言を仰ぐ。
オルガが頷く。
どうやら正直に話したほうがいいみたいだ。
「そうみたいなの……なんです」
ガルマオンの目が、目だけが、何十メートルかの距離を詰めてきたように錯覚した。
「面白い娘だ。……人間よ、試したいことがある。ここで一つ、我らと人間とで一騎打ちをせんか?」
「それをして我々に何の得があるのだ」
「何もない。だから『試し』なのだ」
「それでは了承できぬ。一度お互いに兵を引いて、陣を組み直せるのなら、飲もう」
「分かった」
ガルマオンの決断は早かった。
モンスターたちに指示を出して、五から十メートル、離れる。
その間に、私たち人間も、倒れた仲間を担いで、集まる。
物知り博士が尋ねる。
「王よ、いかがなさるおつもりで?」
「まず大切なのは命。何を考えての一騎打ちかは分からぬが、倒れている我らの仲間の命を優先したのだ。魔法で、回復させてやってくれ」
「さあ、人間よ。我らは約束通り引いたぞ。今度はそちらが約束を守る番だ。一騎打ち、我らは我の右腕を出す。そちらは、そうだな、その男。その男を出せ」
指名されたのは、頑丈おじさんでもオルガでもなく、王国騎士団の団長、マーセッツさんだった。
正直、拍子抜けだ。
指名された本人が、一番驚いている。
「どうだ」
「分かった。こちらからはマーセッツを出す」
「引き受けました」
マーセッツさんは腐っても(腐ってはいないけど)ビニッシュ王国騎士団の団長。
これも名誉であるのだろう、部下や仲間の熱い視線を受けて、歩みを進める。
ガルマオンの右腕と言われたモンスターも、のっしのっしと歩いてくる。
マーセッツさんの武器は騎士の命、剣。
対する右腕モンスターの武器は、槍。
マーセッツさんも百八十以上はある。
立派な体格だ。
そのマーセッツさんが小さく見えてしまうくらい、右腕モンスターはでかい。
その分、右腕モンスターに分がありそうな気がしてならない。
この一騎打ちで勝ったら、もしくは負けたら、どうなるのか、どうするのがこの世界のルールなのかも分からない。
でも、人間側に勝ってほしい。
負けたら何か不利な条件でも突き付けられそうな雰囲気だ。
いや、不利な条件なんてなくても、勝ってほしい。
この国の運命をともに掴まんとする仲間だから。
「双方、よいか?」
頷くマーセッツさん。
ボスに頭を下げる右腕モンスター。
「人間の王も、よいな?」
「よろしい」
「では、はじめ!」
先手を取ったのは右腕モンスターだ。
槍で突いてきた。
その穂先を剣で払い、マーセッツさんは懐に飛び込……もうとして、くるりと反転させた持つ方の部分を剣で受けた。
マーセッツさんの反撃を避けるため、また次の自分の攻撃のため、後ろに跳び距離を取る右腕モンスター。
剣より長い槍と、槍より短い剣の戦いだから、必然、そうなる。
どちらが距離を制するか?
みんなが見ていた。
時にマーセッツさんの有利になるけど、六対四で右腕モンスターが押している。
長い(ように感じられたけど、実際は短かったのかもしれない)時間の後、槍の穂先がマーセッツさんの腹部を捉えた。
返す刀(槍だけど)でマーセッツさんの兜に一撃を加える。
脳震盪を起こして倒れるマーセッツさん。
でもそこで勝負ありとはならなかった。
「娘よ。先ほどの歌を歌ってみよ。死の淵から蘇らせた、先ほどの歌だ」
ガルマオンに言われて、わけも分からないまま『愛の歌』を歌う。
意識を取り戻すマーセッツさん。
「第二ラウンドだ」
また一騎打ちが始まる。
でも、今度は右腕モンスターが一方的に攻めて、あっという間に決着がついてしまった。
守りの風魔法のおかげで致命傷にはならなかったものの、これじゃあ命がいくつあっても足りない。
でものでも、またのまた、そこで勝負ありとは、ならなかったのだ。
「さあ、娘よ。最初に歌った歌を、また歌ってくれ。それこそがこの一騎打ちの真の目的なのだ」
私の歌の効果に、気が付いたのか!
その先に何が待っているのかは分からなかったけど、歌ってみた。
王様も頷いたし。
一日に何度も能力上昇効果のある歌を聴いたら、逆に害になったりはしないのだろうかと危ぶみはしたけど、少なくとも現時点では、マーセッツさんに異変はない。
右腕モンスターはガルマオンの指示を受けて、また槍を振るう。
マーセッツさんの動きが、明らかに違う。
それを見て、何だか嬉しそうなガルマオン。
また目が合って、何だか怖さを感じる。
先ほど倒れた時と同じような攻撃を受けて、それでもマーセッツさんは反撃する。
私の歌で能力が上昇していると言っても、やっぱりさっきと同じ六対四。
軍配は右腕モンスターに上がった。
三度も倒されたマーセッツさん。
ご愁傷様。
ガルマオンは笑っていたけど、右腕モンスターが勝ったからではないらしい。
ガルマオンは側近に何事か言って、アイテムらしきものを受け取った。
そして叫んだ。
「魔王様、魔王様!」
すぐに空が真っ暗になって、雷鳴の後、こんな声がした。
「聞こえておるぞ、ガルマオンよ」
「人間をいたぶるのも愉快ですが、珍しき人間を見つけましたゆえ、ご報告した次第でございます」
「珍しきか。わざわざ我を呼ぶほどの人間なのであろうな」
「はっ。小さき娘なのですが、その娘が歌うと千切れた手足が元の通りに治り、その娘の歌はか弱き人間を我々魔族に匹敵するほどの強者に変えるのです」
「ほう……、少し、興味が湧いたぞ」
「戦を続けましょうか? それとも、その娘、連れて行きましょうか?」
「人間をいたぶるのはまたできる。その娘、連れてまいれ」
魔王もガルマオンも知性のあるモンスター、人間の言葉も話せる。
でも二人はモンスターの言葉で話していた。
だから、その場にいた人間側では、私とオルガとシンガしか理解できてはいなかった。
黒い煙の尾を引いてガルマオンが私に飛びかかり、阻止しようとしたオルガを跳ね飛ばす。
煙が私をとり囲み、息を吸った私は気が遠くなった。
最後に見たのは、ガルマオンの腕と、上空何十メートルからの頑丈おじさんの姿だった。
これからどうなるのか? ってところで中断です。
次の章から〇〇編が始まります。
楽しみにしていただいている方、もしもいるなら、いなくてもですけど、
続きを待っていただけたら嬉しいです。
では、また。
お会いできる日までお元気で。元気が一番!




