27 一曲で六つはすごいらしい
優柔不断と思われてしまうかもしれませんが、ちょっと迷っています。何をか?
31話で、この物語を中断させていただこうかと思っおります。
楽しみにしてくださっていた皆様、すみません。
でも、この物語を楽しみにしていただけて、とても嬉しいです。ありがとうございます。
では、どうぞ。
「そのために、まずミ・ユ・キが知っている『歌』を教えてほしいのだが」
「あ、私、歌は独学なので、正式な吟遊詩人の歌は知らないんです」
「何と!」
そりゃ、まあ、驚くよね……。
「王からは歌えると聞いていたのだが……。どうしようか? でも、歌うことによって魔法とも呼べる特殊効果を発動させた事はあるのであろう? 分かった。では、まずは歌える歌を聴かせてもらって、それが吟遊詩人の何の歌に相当するか、まずはそれを明らかにしていこう」
では、歌ってもらえるか?
とアンダレスさんに促されて、宝物兼相棒を抱えた。
チューニングはもうすませてある。
だけど、歌う前にアンダレスさんに喰いつかれた。
「ちょっと待て。その楽器は、初めて見たのだが。……それは何という楽器だ?」
「アコースティック・ギターです」
「アコースティック・ギター……。どんな音色か、聴かせてもらおう。楽しみだ」
アンダレスさんの少し表情が砕けて、私はうれしくなる。
『まっさらな夢』を、気分良く歌わせてもらう。
四分三十三秒。
歌い終えて、アンダレスさんの顔を見る。
歌っている時以上にひん剥かれている目玉を見て、私は驚く。
(何で? 何か不味った?)
アンダレスさんは一つ咳払いをして、
「戦意高揚極大、精神覚醒極大、筋力上昇長時間持続、守備力上昇長時間持続、魔力上昇長時間持続、痛覚耐性まである」
とまるで呆けたようだ。
「……それってすごいことなんですか?」
「すごいなんてものじゃない。一つの曲で六つの効果。それも最上位に匹敵する。そんな歌は、私にも歌えない。それをミュ……ミ・ユ・キは歌って見せた。素晴らしい。素晴らしすぎて、該当する誉め言葉が見つからない。それを独学で? 信じられない……。そうだ、おい、キャンメルを呼んできてくれ。明日、コンビを組むのはミ・ユ・キのほうがいい。絶対にだ。ミ・ユ・キ、キャンメルが来るまでの間に、もう一曲……と言わず、何曲でも、聴かせてくれないか?」
もちろん、と私は引き受けて、『愛の歌』を歌った。
五分三十三秒。
アンダレスさん、号泣。
「その歌は光属性だ。どこまでかは分からないが癒しの効果がある。もしかしたら、欠損部位までをも癒す『神の慈愛』と同じ効果があるかもしれない。ミ・ユ・キ、いや、ミ・ユ・キさん。あなたは素晴らしい。私なんかよりも優れた吟遊詩人です。ビニッシュ王国一とは、とんだ思い上がりだった。恥ずかしい。ぞんざいな態度を取って申し訳ありませんでした」
そう片膝をつかれる始末だ。
「やめてください。アンダレスさんはずっと年上で、ずっと先輩で、国に対する貢献度も千とゼロじゃないですか。謝る事なんてないですよ。頭を上げてください」
「しかしそれでは私の気がすみません」
「ああ、もう。じゃあ、命令します。立ち上がりなさい」
「はい」
すっと立ち上がるアンダレスさん。
これからずっとこうなの?
困るなあ。
そんなやり取りをしていると、キャンメルさんが走ってきた。
「どうしました? アンダレスさん」
「キャンメルよ、明日の戦い、私とではなく、ミ・ユ・キと組んでくれないか?」
「それはなぜ? そして、それを決めるのは私ではなく王やマーセッツ殿ではありませんか。私にその権限はないではないですか」
「ああ、そうであった。王は何処か?」
「今頃マーセッツ殿やドーマス大臣たちと、明日の戦いでの布陣や戦法などを話し合われているはずですが」
「行こう」
私の手を強く引いて、アンダレスさんは急ぎ足で歩き出す。
「どうしたのですか? アンダレスさん」
「私が見た光は紛い物ではなかったということだ。明日の戦いの趨勢を変えるだけの力がある。一刻も早くお知らせしなくては」
アンダレスさんと並んで走るように歩くキャンメルさんが訊いて、アンダレスさんはかなりの興奮状態にあるようだ。
私の手を引く手の力強さといったら。
「そなたも聴いてみるといいぞ、キャンメル。ミ・ユ・キさんの歌で、明日そなたは涙する。それは感激の涙であり、勝利の涙となるであろう」
軍議が行われている部屋の前まで行くと、兵士に急ぎの用だと告げて扉を開けさせて、アンダレスさんは王に進言した。
中には六人いたのだけど、そのうち五人はアンダレスさんの勢いに目を白黒させていて、一回目では理解するに至らない。
それではともう一度繰り返して、やっと言葉が脳に届く。
「王よ。明日の戦い、勝利を確固たるものにしたければ、ミ・ユ・キさんの歌をキャンメルの拡声の魔法に乗せる事、これを強く、強くお勧めいたします」
「アンダレス殿、落ちついてください。あなたには思うところがあるのでしょうが、それで『それならば作戦を変更しよう』と、なるわけがないではありませんか」
「いや、マーセッツよ、お主は知らないのだ。ミ・ユ・キの歌にそこまでの力があるとアンダレスが言うのなら、私は信じよう」
「王!」
「そうか、マーセッツは見ては聴いてはおらぬのか」
王に賛同したのは古参に見える神官と魔法使いの二人と、いかにも大臣ことドーマスさん。
そう言えば、神官と魔法使いの二人は鍛冶師大会の時に見た覚えがある。
神官さんは女性なので年齢は伏せるけど、地球なら孫がいても不思議じゃないくらい。
背や体格は座っているし、前に見た時を詳しく覚えているわけではないので何とも言えない。
髪は艶やかな黒のストレートでロングだ。
婦人会の会長みたい。
魔法使いさんは首の血管が浮き出ていて、でも血色はよく、物知り博士っぽい感じだ。
そうやってぐるりと見回して、初めて頑丈おじさんがいることに気付いた。
冒険者隊の隊長だもんね。
一人だけ置いてきぼりのマーセッツさん。
この状況にあたふたしている。
でもほかの五人は、合点がいく、という顔だ。
何か照れる。
「アンダレスよ。お主がそう言うのには、何か確固たる理由があるのであろう?」
「はい。ございます、王よ。先ほど私は奇跡を見ました。いえ、聴きました。ミ・ユ・キさんは一曲で六つの補助効果のある歌を歌ったのです。それもその六つすべてが最上位に匹敵するのです。これが驚かずにいられますか?」
「六つ? 馬鹿な!」
「それがマーセッツ、にわかには信じられないだろうが、本当なのだ。私は今さっき、この耳でたしかに聴いたのだよ」
それでも信じられないという顔をしていたけど、アンダレスさんの発言を受けたうえでそれでも否定するのは、無礼だからだろう、何も言わなかった。
王様の判断は速かった。
中断は確定ではないので、皆様のお声によっては覆るかもしれません。
……覆らないかもしれませんが。
では、また。




