26 幾千、幾万と
予告の通り、日曜の今日も投稿します。
ミ・ユ・キでは初めてのはずです。反響をください。
では、どうぞ。
「それはたしかにそうですが、言うのと行うのとでは難易度が違いますよ」
「私にはまだ早いですか?」
「……いえ、そうとも限りません。人が来たら、試してみましょう。まったく、あなたには驚かされてばっかりだ」
あれ?
怒られた?
と思ったのだけど、キャンメルさんは苦い感じだけども笑っていた。
だから私も、笑うというほどじゃないけど、口角を上げた。
そうしているうちに、十人ほどの騎士さんたちが来た。
十人同時に守りの魔法をかける、
それも強弱をつけながら。
これは難しかった。
キャンメルさんは、この子も人の子、というように、安心したように鼻から息を吐いた。
私が少し慣れてきたところで
「では、騎士の皆さん。横一列になってください。ミューキーさん、いや、ミ・ユ・キさん、偶数の人には強く、奇数の人には弱く、守りの魔法をかけてみてください」
と難易度を上げてきた。
次に偶数と奇数の強弱を逆に、そして一と四と八を強く、それ以外は弱く、とか、いろいろとコンビネーションを変えてきた。
指示通りにできるように私は苦心した。
これを千人以上にしたキャンメルさんの師匠は、どれだけすごい魔法使いだったんだ。
少しだけだけど、その偉大さに触れた気がした。
「ミ・ユ・キさん。いやあ、なんて飲み込みが早いんだ。あなたは本当に素晴らしい魔法使いだ。吟遊詩人はやめて、風魔法使いになりませんか?」
冗談も交えてはいるのだろうけど、キャンメルさんにそう言われて悪い気はしない。
「では、試してみましょう。打撃を受ける時にだけ守りの魔法を発生させる、それを」
そう言うと、騎士さんたちを五対五で向かい合わせて、剣を寸止めで振るように指示した。
キャンメルさんは柔らかな物腰とは違ってかなりの地位にいると証明するように、騎士さんたちは素直に指示に従った。
キャンメルさんが言った通り、難易度が違った。
キャンメルさんが止めるまでの数分間、風の膜を張らなければならない剣戟は千を超えていて、でもきちんと風の膜を張れたのは、まぐれを抜かしたら一度もなかった。
「キャンメルさん、無理です」
「でしょう。ミ・ユ・キさんでも、難しいでしょう。私も完璧にはできません。目で追っていては間に合わないのです。こればかりは、慣れ、です。数え切れなくなるほどに戦場に立ち、幾千、幾万と剣や弓、斧や槍の振るわれるところを見て、学んで、それでやっと少しずつ、少しずつ、できるようになるものなのです」
幾千、幾万と聞いて、身に染みた途方もなさ。
「でも、そんなに気に病むことはありません。ミ・ユ・キさんに足りないのは経験であって才能ではないのです。逆ならそれは問題です。でも、経験は場数を踏めば自ずと身に付くもの、場数を踏まなければ身に付かないもの、なのです。続けますか?」
「いえ、十人に強弱をつける練習のほうが、今の私には必要だと思います」
「賢い。では、そうしましょう」
そうしてまた、一、四、八に戻って、練習を重ねた。
当然、その間も時間は過ぎる。
気が付くと、魔力が切れかかっていた。
「キャンメルさん、魔力が……」
「底をつきそうですか? そうですね。もう二時間は経ちます。ちょっと休憩をしましょう。MP回復用のポーションもあります。飲んでみますか? ただ少し不味いですよ」
「そうなんですか? でも、飲んでみます」
イヤリングの自動MP回復の効果は、実践でなければ発揮されないようだ。
でもイヤリングとかの装備品の魔力については、あんまり大っぴらに話すものではなさそうなので、キャンメルさんにも秘密にしておこう。
キャンメルさんの部下?
弟子?
の人が持ってきてくれたMP回復用ポーションは、メロン味のような緑色で、匂いはなく、少し不味いと言われて確かめるためにちょびっとだけ口に含んでみたら、そんなことはなく、難なく飲めた。
「からかいましたね」
「はい」
私とキャンメルさんだけじゃなく、その場にいた人はみんな笑った。
休憩を終えたら、ゲイル・ブレイクもささっと習って、そして晩ご飯になった。
「ミユキ、ミユキ、ミユキ。ミユキがかぜまほうをおそわってるあいだに、ぼくもとっくんしたんだよ」
「そう。偉いね、シンガ」
シンガが尻尾を振って飛び跳ねてそう報告してきたので、抱き上げて褒めた。
シンガの愛情表現は、心の底からだ。
目をキラキラさせて私の頬を舐めてくる。
可愛い。
「ぶきとぼうぐもね、もらったんだよ。ぼくもあした、まおうぐんとたたかって、ミユキをまもるよ」
「ありがとう」
ああ、なんて可愛い!
「嬢ちゃんのほうの特訓は、どうだったい?」
「上々ね。褒められちゃった。グマ爺さんたちは、何してたの?」
「俺もオルガも王国騎士団とは戦い方が違うだろ。俺は冒険者たちの軍隊の隊長になってくれって、頼まれてな。オルガはマーセッツと手合わせしてな、覚えてるか? 鍛冶師大会の時の、あいつだ。マーセッツも弱くはねえんだが、オルガは実力の半分も出してはいなかったな。それで、コテン、よ。わっはっはっは」
「私は冒険者隊で先陣を任された。死に一番近いポジションだ。私に死ねと言っているんだろう。冗談だ。私の言葉は通じないからな。隊長や兵士との連携は難しいからこその判断なのだろう」
「だって」
「モンスターや人間との小競り合いは何回かあっただろうけど、こういう本格的な戦い、戦争って言えるこういう戦いは、ほとんどの奴らが初めてだから、緊張して気後れしてる奴も、いるこたあ、いた。まあ、無理もねえが。だから嬢ちゃんの『まっさらな夢』でも聴かせて、弱気なんてぱあっと吹っ飛ばしたらいいんじゃねえかな」
「ああ、明日の戦いでは、拡声の魔法を使えるキャンメルさんは、これから歌を教わるアンダレスさんとコンビを組むから、私の歌はキャンメルさんの弟子が拡声を受け持つの。だから、戦場で私の歌を全員に聴かせる事は、無理みたい。代わりに守りの風魔法を教わったから、そっちで役に立とうと思ってるの。あ、MP回復用ポーションも飲んだわ」
「それは、意外とすげえことだぞ、嬢ちゃん」
不味いって嘘つかれたって私が続ける前に、頑丈おじさんが割って入ってきた。
聞くと、ポーションはHP回復もMP回復も、そこそこ貴重なものらしい。
「それを明日でなくて練習の時に飲ませたのは、王様も嬢ちゃんを気に入ってるんだな」
そうしているうちに晩ご飯がテーブルに並んだ。
待ってましたと手を伸ばした。
みんな空腹だったのだ。
腹を満たした後。
「ミユキはこれからも特訓なんだな」
「うん。吟遊詩人の歌を、教わるの。この国唯一の吟遊詩人によ。贅沢ね」
オルガは微笑んで頷いた。
私はそれを、その通りだな、という意味で受け取った。
そして。
「これからの三時間という短い時間で、ミュ……ミュ……ミ・ユ・キが、何曲覚えられるのかは定かではないので、戦いで優先順位の高いものから教えて行こうと思う」
私にとっては『本職』の勉強の始まりだ。
八月が、終わろうとしている。大ショック!
では、また。




