24 人の顔色が紫になる時は
今回はいつもより早い時間に投稿させていただきます。
前回はいつもの時間より遅れてしまったので。
その代わりというわけではないのですが、この連載では初めて(だと思うのですが)
土日にも投稿しようと思っています。
よほどのことがない限りは。どうなるでしょうか?
楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。
ふうむ、と頑丈おじさんは顎に手を当てて考えた。
「嬢ちゃんは今、風魔法を習いはじめたばっかりだけど、それと並行して吟遊詩人としての歌のほうも学んだほうがいいのかもな。今の嬢ちゃんの歌は、どんな効果かはっきりと分かっている歌のほうが少ねえもんな。王道の吟遊詩人の歌ってやつも、勉強しといたほうがいいのかもしれねえな」
「うん。でも、二兎を追う者は一兎をも得ず、みたいなことにならないかなあと思って」
「ああ、たしかに、そりゃそうだ」
「ミ・ユ・キは歌をどこで学んだのだ?」
私の返事に頑丈おじさんは納得して、王様が質問してきた。
困った。
嘘をつかざるを得ない状況だ。
でも、嘘はあんまりつきたくないんだよなあ。
「あんなにも素晴らしい歌なら、我が国でならば、私の耳に届かぬわけがないし……。そうか、大陸から来たのか。そうであろう?」
得意げな王様の目から目を逸らして
「……はい。……でも、いろいろと事情があって……、あんまり話せないのです。すみません、王様」
としどろもどろに私は答えた。
「よい。人にはそれぞれ事情がある。私も深くは訊くまい」
王様はやっぱり得意げだ。
私がはいと返事をした事で、自分の憶測が正解だと思っているようだ。
もちろん、それを正しはしなかった。
本当の事を言えない私も悪いのだから。
「王様に隠しごとをして、それはとても申し訳ないので、お詫びの代わりにもう一曲、歌いましょうか?」
「おお、それはいい。歌ってくれ」
こうして、夜は更けていった。
それから二日後の昼。
王様の顔色を分かりやすく表現するなら、『紫』だ。
「むうう」
と唸らずにはいられない王様。
千体と聞いてはいたけど、その数のモンスターに囲まれている王都ビナッツの、その様は死神が高笑いをしているかのようだ。
モンスターたちが、王都に向かうこの馬車に襲いかかることはないみたい。
挑発するように並走されたり、武器を投げる真似をされたりはしたけれど、実害はない。
モンスターたちも魔王の言いつけは守るようだ。
みんな、白目が真っ黒になっている。
自我は保てているのだろうか?
馬車が王様のものだと理解すると、門が開けられた。
一番に出迎えてくれたのは、いかにも大臣、ドーマスさんだ。
「王よ。お待ちしておりました」
「難儀であった。今の状況は?」
「魔王が発言を翻さなければ、攻めてくるのは明日。騎士たち、魔術師たち、冒険者たちは意気軒昂です」
「民はどうしておる」
「皆、我々の勝利を信じております」
「恐慌状態にはなっておらぬのだな?」
「はい」
「うむ。魔王にも誇りというものがあるはずだ。百のモンスター、正確には、百を超えるモンスターをここに送り込むと言った。ならば、王都の周囲にいる千のモンスターは、戦いには参加しないと、させないと、そういう意味だ。これを違えれば、魔王は自分の顔に泥を塗ると同義。それは魔王の誇りが許すまい。明朝まで、戦士たちに休息を取らせよ。王国騎士団、王国魔術師団、冒険者が万全でモンスターと戦えるようにな。精鋭はそれまでの警備に回さずに明日の戦いに臨ませよ。序列の低い者の中から警護を割り振るのだ。それは万が一に備えてだ。明朝から、城壁の前で陣を組もう。都を戦火にさらすわけにはいかぬゆえ。まさか陣を組む我らを素通りして都を襲ったりはすまい。今から緊張していては体が持たぬ。まずすべきことは心身をほぐすことじゃ」
「陣を組むと申しますと、王も出陣なさると?」
「もちろんじゃ。私が戦力としては勘定できぬことは充分自覚しておる。しかし王であるがゆえ、襲いかかる魔王軍との戦いに参加せぬのは面目が立たん。この国の主として、戦場に立つ。もちろん、指揮は王国騎士団長に任せる。飾りでも王は王。皆に、私を守ってくれと、頼りにいていると、伝えてくれるか?」
「仰せのままに」
いかにも大臣は跪いてから、部下に指示を出した。
王様の発言は即座に伝えられて、実行されるのだろう。
「さて」
と王様は私を見た。
子どものようなくりくりした目で。
「ミ・ユ・キよ。そなたに紹介したい者たちがおるのじゃ。ドーマスよ、キャンメルとアンダレスはいずこか?」
「は。二人とも、戦士たちとともに戦いに備えているかと思われます。直ちに呼んで参ります」
「私は城に向かう故、そこにおるのなら先に待たせておいてくれ」
「は」
体感で十分くらい経ってからキャンメルさん、アンダレスさんの二人と顔を合わせるのだけど、その間に王様は説明してくれた。
キャンメルさんはビニッシュ王国一の風魔法使いなのだそうだ。
前の鍛冶師大会の時の風魔法も、このキャンメルさんによるものだったそうだ。
それだけですごさが分かる。
私は風魔法に乗せて歌を歌うところをイメージする時、必ずあの時を思い出す。
一万を超える人の喝采を受けた、あの時だ。
あれができたらと思いながら、でもあれに辿り着くまでにはいくつもの山をハードルを越えていかなければならないんだろうなと、ぼんやりと思っていたのだ。
そしてアンダレスさん。アンダレスさんはビニッシュ王国では唯一の、戦闘に参加可能な吟遊詩人なのだと教わり、吟遊詩人ってレアなんだ!
同じ吟遊詩人の私の価値も希少なんだ!
と、何だかワンランク上がったような気分になった。
後継者がなかなか育たないのを悩みにしていて、こないだの晩餐会(?)での私の歌を聴いて、光を見た、とまで言ってくれていたと聞いた。
お抱え吟遊詩人とはまた別人なのだとも聞いた。
そしてその二人を呼んだということは……期待していいんだね、王様。
王様は吟遊詩人として、私にも戦闘に加わってほしいと願った。
私はハナからそのつもりだったので、二つ返事で引き受けた。
それとも私にしっかりと断る事で、成り行き的なものではなく、正式なものとして広めたかったのだろうか?
契約、みたいな感じで。
まあ、私もギルドに登録している冒険者(の端くれ)なのだから……あ、私、ギルドで段取り踏んで依頼を受けたわけじゃない!
私、ただ働きになるところだった。
救ってくれた王様の機転に、感謝だ。
それを言うと、返答の代わりにウインクをくれた。
……全然似合ってないけどね。
「王よ。お呼びにあずかり、光栄です」
馬車を降りた王様に、二人は跪いた。
「うむ。早速だが、お主らの風魔法のいくつかと、そして歌を、このミ・ユ・キに教えてやってほしいのだ」
王様、グッジョブ!




