21 こぼれる涙
今年はまだ蚊に食われていません。
このままひと夏こせるでしょうか?
こしたいです。
では、どうぞ。
「ただいま」
「おかえり」
玄関で言うと、リビングから返ってきた。おばさんはキッチンのようだ。
靴を脱いでいると、おばさんがキッチンから出てきて
「おかえり」
と微笑んだ。
「ただいま。またちょっとお客さん、増えたよ」
「そう」
おばさんの笑顔を見て、私の心も軽くなった。
うがいと手洗いをしてから、階段を上がって部屋のドアを開ける時、私は小さな覚悟をした。
このパターンが、一番多いんだよな。
気合いを入れて開けた。
何のことはない、私の部屋だ。
時計は五時十分を回っていた。
モエコさんと少し長めに話したからだ。
二時間ほどを歌った時の消費カロリーは知らない。
でも、何だか疲れた。
このままクッションで横になったら眠れそうだ……いや、いけない。
私は眠気覚ましにストレッチをする。
血行をよくして、それでおじさんと話をしよう。
勉強は晩ご飯の後だ。
うんっと背伸びをした私は、明かりを消して部屋を出た。
出て、スマホを忘れていると気が付いた。
あ、いけない。
振り返ると、何かが飛んできた。
「うわあああああ!」
私はもんどりをうった。
飛んできた何かは、倒れた私の顔を舐めてきた。
寒気がしそうなその行為の主は、白くて小さな尻尾をちぎれんばかりに振った。
「ミユキだ。ミユキだ。ミユキだ」
そう飛び跳ねる何かがシンガだと分かったのは、二度見をしたのちによく確認して状況を整理してからだった。
私はまた、異世界に来たのだ。
「嬢ちゃん。まったく、タイミングがいいのか悪いのか」
「え⁉ 何が?」
頑丈おじさんが嘆息するので、私は訊いた。
見回すと、そこは例のごとく三十おじさんと金髪お姉さんのお店、ユニコーンの泉亭で、でも何だかばたついているようだった。
あんなににぎわっていたのに今はお客さんはいないようだし、まさか、またモンスターが襲ってきたの?
「いいや、襲ってくるのはこれからで、今度は狒々王と狒々たちなんて可愛いもんじゃねえんだ。魔王直属のモンスターが、百を超えるモンスターを引き連れて、王都ビナッツに攻めてくるんだとよ」
「ええ!」
誰がどう楽観的に受け止めようとも、まごうかたなき一大事だ。
頑丈おじさんの発言を受けて、三十おじさんが説明をしてくれた。
ほんの二時間ほど前、平和と活気を取り戻したこのクリミネンから見渡す限り一面に黒い雲が広がり、轟音とともに雷が鳴り響いたそうだ。
魔王の仕業だ。
魔王はこう宣告した。
「人間よ。汝らの恐れ戦くさま、実に愉快であった。だからまた、汝らで楽しませてもらおうと思う。三日後、ンガル大陸にあるビニッシュ王国の王都ビナッツに、我の配下を送り込む。数は百を超える。人間どもよ、抗え。そして己の無力さを怨め。全員を殺しはせん。汝らの苦しみが、汝らの流す苦悶の涙が、我を楽しませる。逃げようなどとは思わないことだ。もうすでに魔王の呪縛によってンガル大陸のモンスターたちをビナッツの周りに集結させている。千は超えているだろう。逃げて千のモンスターに殺されるか、逃げずに百のモンスターに殺されるか、好きなほうを選ぶがよい。汝らが兵を募り勝つも一興。見事抗ってみせたなら、汝らをアンデッドにして我の配下に入れてやろう。ハッハッハッハッハッハ」
命を何だと思っているんだ。恐怖より先に怒りがたった。
「それで今から馬を飛ばしてビナッツに行こうって、そういう状況だ」
「みんなで?」
「いや、俺とオルガだけだ。もしも魔王の奴が手薄になったクリミネンに攻めてきたら、どうする? 何人か戦える奴を残しておかなきゃいけねえ。ラギュールとフィナは、王国騎士団の何人かと一緒にここの守りを受け持って、俺は行く。弟子たちは置いていく。悪いが足手まといだ。……嬢ちゃんは、どうする?」
どうするもこうするも……、何を選択するのが正解かなんて、分からないよ。
ゲイル・スラッシュ七回くらいで戦力になれるのか?
そもそも戦えるのか?
私も足手まといになりはしないか?
怖いか怖くないかで言ったら、怖いし……。
私がビナッツを守る理由というのも、よくよく考えれば、ないわけで。
そんな弱気が勢力を伸ばすのを吹き飛ばすのは、いつだってもう一人の自分だ。
困っている人がいるのに、助けに行かないの?
私には物理攻撃も魔法攻撃も跳ね返すタオの羽があるじゃない。
人間を殺すのが面白いなんて、そんな暴論、通して堪るか。
私は私を好きでいたい。
ここで尻込みして戦わなかったら、きっと後悔する。
見逃し三振より空振り三振のほうが悔いは残らない。
でも、三振するって事は、きっと、死ぬって意味だ。
それが重くのしかかる。
どれくらい沈黙していたのだろう、その沈黙を破ったのは、オルガだ。
「ミユキがここに残るのなら、私もここに残る。マグマが言った通り、ここに戦火が及ぶ危険性があるのなら、私はここでミユキを守る事を選択する。最初に言っただろう、私はミユキに仕えさせていただきたいのだ、と」
私は通訳せずに返事をした。
「でも、それじゃあ……」
オルガは立派な戦力だ。
魔王が送ってきたモンスターなんて、ちぎっては投げ、ちぎっては投げできるだろう。
それが絶対に襲われるビナッツではなく、かもしれないクリミネンに残るなんて、大幅な戦力ダウンだ。
「でも、それじゃあ……」
その後が続かなかった。
「ミユキ、ぼくもミユキをまもるよ」
シンガが私のそばで私を見上げて言った。
その目は私の弱気を見透かしているようだった。
私の目から、涙がこぼれた。
このままいくとストックがなくなり、毎週の決まった日ではなく
書いて出し、書いて出しすることになってしまうのですが、
それと、三か月くらい休んで書き溜めるのと、どちらがいいですか?
ほかの人たちはどうしているとか、いろいろ意見をいただけると嬉しいです。
では、また。




