19 愛の歌を
戦い。もちろん、負けよりは勝ちのほうがいいですけど、
いいですけど、いいですけど……。
そんなに割り切れるん人間だけじゃないんです。だから。
では、どうぞ。
ユニコーンの泉亭で頑丈おじさんたちと合流した。
頑丈おじさんとオルガは、休みもせずに警護の仕事を続けていたのだ。
自炊できない鍛冶師は鍛冶師じゃない、という頑丈おじさんの考えの元、弟子たちは町で食材を買ってまた持ち場に戻った。
まるでキャンプみたいだと思った。
でも、冒険者には、たしかに必要なスキルだものね。
「シンガ、お座りはできるか?」
噛まれる頑丈おじさん。
「ぼくはいぬじゃなくてまめっしばだい」
「だって」
「そうか。肉、食べるか?」
噛まれる頑丈おじさん。
「ぼくはペットじゃなくてミユキのなかまなんだい」
「だって」
「そうか、そうか」
何度噛まれても、頑丈おじさんの笑顔は崩れない。
ある意味、鉄だ。
「そうだ、訊きたいことがあるの。王様に今日は休んでいいって言われたけど、食べ終わったらまた警護に行こうと思うの。だけど、王様が休んでいいって言ってくれたのに警護に行ったら、王様に逆らった、なんて怒られたりするのかな?」
「はっはっは。しねえさ。もちろん、無理はしちゃいけねえ。それで、今は無理をする場合じゃねえ。だから、体が問題ねえなら、やったらいい」
「うん。体に問題はないわ。寧ろ、戦いたいくらい。いや、戦わないに越した事はないんだけど、もっと強くなりたいって、思うの。ゲイル・スラッシュはあと二回くらいしか打てないけど、足手まといにならないようにするから」
「ミユキに戻ったな」
「え⁉」
「いや、何でもない」
オルガの呟きを聞き返して、何でもなくはないだろうと思いはしたけど、飲み込んだ。
ちなみに、今お店にいるのは、三十おじさんと頑丈おじさんとオルガとシンガと私だけだ。
金髪お姉さんは、傷は治ったけど血を流しすぎたという理由で、寝室で休んでいる。
三十おじさんの左肩の怪我もひどかったのだけど、軽い料理なら作れると、フライパンを振るっている。
でも、左肩をかばうような仕草をしているので、全快ではないのだろう。
つまり、お店は臨時休業だ。
「ねえ、ラギュールさん。フィナさんの分のご飯、私が持って行きましょうか?」
「……じゃあ、お願いしようかな」
私にトレイを渡した三十おじさんは、ゆっくりと椅子に座った。
やっぱり痛むんだ。
もう何度も泊まらせてもらっているから、教わらなくてもフィナさんの寝室は分かる。
ひっくり返さないようにと気を付けながら、ドアをノックする。
返事はない。
もう一度ノックしてみる。
やっぱり同じだ。
そっとドアを開ける。
鍵はかかってはいない。
金髪お姉さんは、ぐっすりと眠っている。
この場合にどうするのが正解なのか、私は知らない。
起こして食べさせた方がいいのだろうか?
このまま眠らせておいた方がいいのだろうか?
じっと考える。
とりあえずはと、そっと近づいてみる。
金髪お姉さんの胸は上下していて、死んではいないと確認できる。
だいぶ日が沈んでいるので、顔色をうかがうことはできない。
ベッドの横のランプをどけてトレイを置こうとランプに手を触れたら、光らせてしまった。
慌てて消そうとしたのだけど、消し方が分からない。
焦る私。
眠っている金髪お姉さん。
その目がぱちりと開いてしまった。
私のせいだ。
「ごめんなさい。起こしちゃった」
「ううん、いいの。今は何時?」
「六時になる前です」
「ああ、ご飯を持ってきてくれたのね。ありがとう、ミ・ユ・キ」
「体、どうですか?」
「うん。楽になったわ。明日からまた、働かないとね」
魔光石で見えるようになった金髪お姉さんの顔は、まだ少し白っぽかった。
「食欲、ありますか?」
「うん。食べないと元気になれないからね」
体を起こした金髪お姉さんはベッドに腰かけて、ご飯を食べ始めた。
「食べ終わったら自分でトレイを運ぶから、ミ・ユ・キはもう戻っても大丈夫よ」
そう言われたら、戻らないわけにはいかない。
去ろうとする私の背中に
「ああ、ミ・ユ・キ。イヤリング、ありがとう」
そう言葉をかけられて
「役に立ててよかったです」
と返した。
そして部屋を出た。
振り返るとそこは、私の部屋の前だった。
帰ってきたのだ。
帰ってきたことを確認するために、ドアを開けた。
私の部屋だ。
ギターもある。
着替えもすんでいて、おじいさんからもらった服は、たたんでおいてある。
前回とほぼ同じだ。
スマホを見る。
百均から帰ってきた時間から一分も経ってはいない。
その一分も、私が確認している間に経過した時間だと思われる。
あっちは夜の六時前。
こっちは午前の十時三十七分。私はどえらいことに気が付いた。
このままいったら私、一日六食食べることになっちゃう!
己の体重の増減に敏感でない女子はいない。
階段を駆け下りて、脱衣所にある体重計に乗った。
〇十〇キロちょうど。
よかった、増えてない。
でも、後から来るパターンなのかもしれないし……。
こめかみを抑えながら、部屋に戻った。
あっと思ったのだけど、私の部屋だ。
異世界ではない。
少しほっとして、少し残念に思い、それに驚いた。
お昼までの時間を、どうしようか?
考えてながら、ギターを抱えていた。
何か意図があったわけではない。
自然と体が動いたのだ。
ストリート・ミュージシャン活動を始めてから、俄然と曲作りの意欲が湧いてきている。
そして、もう一つ、湧き上がらせる、その理由が、ある。
十人も死んだのだ。
私の歌が、なんぼのもんかは知らない。
私が歌ったって、誰が歌ったって、死者を生き返らせる事は無理だろう。
でも『まっさらな夢』は、魔法とも呼べる奇跡を、何回か起こしたという事実がある。
もう一度言う。
私の歌がなんぼのもんかは知らない。
だったらそれを、なんぼのもんかにしなくては、いけないんじゃないのだろうか?
そのための努力を惜しむのは、私の流儀じゃない。
歌おう。
もっと曲を作って。
人も、モンスターも、どちらも癒せる歌を作ろう。
誰かに害を与えたい気持ちが霧散するような、穏やかな気持ちになれるような、ともに平和を祈れるような、そんな歌を。
(魔法って、こっちでも使えるのかな?)
ふと、思った。
そして、試してみた。
頭から、腹と胸、腕と足と、全身を巡ったエネルギーを掌から放出するイメージ。
ハンカチの代わりにティッシュを乗せて。
呼吸を整えて集中する。
……何度やっても、できない。
ティッシュが浮き上がらない。
魔法の力が弱いのか、こっちではできないのか?
ま、いっか。
その一言で片づけて、私は曲作りを再開した。
何をテーマにするかは決まっている。
『愛』だ。
でも『ラブ・ソング』とはちと違う。
「男女間の愛じゃなくて、命を持つ者としての、愛、なんだなあ」
と独りごちる。
サビから始まる。
この曲には合うだろう。
歌詞がメロディーを連れてくる。
作っているうちに、これはメッセージ・ソングだと気付く。
私としては初めての曲だ。
曲作りをしていると、おばさんがノックをしてきた。
珍しいなと思いながら返事をすると、ご飯できたわよ、と言われた。
階下から言っても返事がないから、わざわざ部屋に来て教えてくれたのだ。
自分の集中力に、少しびっくりした。
ギターを置いて、部屋を出た。
このままいくとストックがなくなり、毎週の決まった日ではなく
書いて出し、書いて出しすることになってしまうのですが、
それと、三か月くらい休んで書き溜めるのと、どちらがいいですか?
ほかの人たちはどうしているとか、いろいろ意見をいただけると嬉しいです。
では、また。




