17 モンスターにも救いの手を
気が付いたら八月……。なんか怖いです。
同じ思いの方は、きっと大勢いらっしゃるでしょう。
では、どうぞ。
へたり込む私。
駆け寄る頑丈おじさんとオルガ。
シンガは私に飛びついてぺろぺろと顔を舐めてくる。
「やったなあ、嬢ちゃん」
「心配したぞ」
「すごいよ、ミユキ。すごい、すごい」
「上手くいってよかったあ」
みんな、笑顔だ。
そりゃそうだ。
私の周りに仲間が駆けつけてくれたように、狒々王の周りには狒々たちが集まった。
私は思う。
彼らは彼らで被害者なのだ。
魔王の呪縛の。
でなければきっと人間を襲ったりなんてしないで、森で平穏に暮らしていたのかもしれない。
近くで何かの物音がして、そちらを見る。
それと同時か少し早くに、三十おじさんが叫ぶ。
「フィナ!」
金髪お姉さんが倒れた音だったのだ。
自動HP回復も間に合わないくらいのダメージを負いながら、自分の回復よりも人の回復を優先させたのだ。
頑丈おじさんを見た。
頑丈おじさんも、私を見た。
そして、指笛を拭いた。
先ほどの馬が、私のギター・ケースを乗せて、やってくる。
何を言わんとしているのか、私には、分かる。
利口な馬に礼を言って、受け取ったギター・ケースから相棒兼宝物を取り出す。
チューニングを合わせる。
ギターを初めて見る狒々たちが、首をひねり合う。
三十おじさんは馬に常備されている(らしい)ポーションを金髪お姉さんにかけてから、ことの次第を見守っている。
いい緊張感だ。
私は、歌う。
もちろん、まだ風魔法で声を遠くにまで響かせるなんて芸当は、できない。
でも、だから、私の声の届く範囲のみであっても、魔法という奇跡を、起こしたい。
歌うのは『まっさらな夢』だ。
四分三十三秒。
三十おじさんは金髪お姉さんの上体を起こして、歌を聴かせていた。
果たして、変化はあるのか?
「……ミ・ユ・キが歌っている夢を見ていて、目が覚めたら本当にその人が歌っていたって、不思議な感覚ね」
「フィナ」
三十おじさんは喜んだ。
当たり前だ。
倒れていた人たちのうちで、比較的に軽傷だった人たちの中にも、起き上がる人が出てきていた。
私の歌が、そうしたのだ。
また積み重ねられたその事実に、私は身震いした。
ただ、起き上がったのは仲間、人間たちだけじゃなかった。
狒々王も、意識を取り戻したのだ。
場に緊張が走る。
が。
真っ黒だった白目が、真っ白な白目に戻っていた。
魔王の呪縛から解放されたのだ。
「親分!」
そう狒々たちは喜んだ。
喜んでいる狒々たちの目にも、真っ白な白目が戻っている。
シンガが仲間になった時は、私は歌ってはいなかった。
でも魔王の呪縛から解放して正気に戻すことができた。
だから、どういう条件が整えば、魔王の呪縛から解放させられるのかは、未だ不透明だ。
でも一つ、私の歌で解放させられる場合もあるのだと、証明された。
狒々王はダメージが残っているせいか、魔王の呪縛から解放されたショックからか、しばらく呆けていたけど、状況を飲み込むと、起き上がった。
起き上がると、人間が反省している時にそうするように、頭を下げた。
子分たちの前で、頭を下げたのだ。
「悪かった。許してくれ」
そう謝罪した。
魔王の呪縛によって凶暴になっている時も、意識を失って操られているわけではないようだ。
自分の犯した罪を、ちゃんと覚えていたからこその、謝罪だ。
「俺はいい。でも、こいつらの命は、勘弁してくれ」
胸にぐっときて、通訳が遅れた。
いくら魔王の呪縛の影響下にあったとはいえ、町の防壁を破壊して、町を守ろうとした騎士さんや魔術師さん、冒険者さんを三、四十人も倒したという事実は、謝罪一つでは許されない。
だから、ボスである自分の命一つで、仲間は助けてほしいと、そう言っているのだ。
私は顔色を窺った。
頑丈おじさんや、騎士さんたちや、魔術師さんたちや冒険者さんたちの。
手打ちにするために、みんなはこの狒々王の首を、刎ねる、という選択をするのだろうか?
この世界では、それが当たり前なのかもしれない。
地球でも、そういう責任のとらせ方をしてきた歴史が、ある。
でも。
「命を取るなんてやめようよ。この狒々たちだって、魔王の呪縛の被害者なんだよ。だって、こんなことしたの、これが初めてでしょ? 悪いモンスターじゃないのよ。森に帰そうよ。ね、そうしよう」
「この二年間で、この狒々たちが町を襲った事件が、たしかにある」
「それは前領主とそのお父さんが悪いって明るみになったじゃない」
「この戦いで、死んだ人間もいる」
騎士さんの一人に言われて、一度は反論できたけれど、二言目のは、言葉に詰まった。
胸が痛んだ。
反論したのは、オルガだ。
「この戦いで、死んだモンスターもいる。人とモンスターは、そのほとんどが、殺し殺される関係だ」
「だから今からは、共存共栄の関係になろうよ。そうなれるように、努力しようよ。ね、そうしよう」
通訳してから、訴えた。
やっぱり私は、殺せない。
殺したくない。
人間はもちろん、モンスターも。
私の言っていることは綺麗事かもしれない。
ただ自分の弱さを理屈をこねて正当化しているだけかもしれない。
私の発言が正しかったとしても、そう受け止める人は、いる。
確実に。
どうすればそういう人たちの考えを翻させられるかは、分からない。
でも、今、狒々王の命が消えようとしている今、黙っていることは、正義ではない。
場は沈黙している。
その沈黙を破ったのは、狒々の一体だ。
キイと叫んだ目の先を見ると、防壁の向こうで倒れていた騎士さんの一人が矢を放ったのだ。
放たれた矢は、狒々王めがけて飛んできた。
頭で考えるより先に、体が動いた。
私は、矢と狒々王の間に立った。
ビュンと飛んでくる矢は、ひどくゆっくりだった。
私の胸に刺さる。
あ、私、死ぬんだ。
そう思った。
でも、そこで物理攻撃反射の効果が現れた。
矢の攻撃によるダメージが反射されて、ものの一秒も経たない間隔で、矢を放った騎士さんが吹っ飛んだ。
「嬢ちゃん、無茶するなや」
頑丈おじさんが、安堵のため息をぶはあっと盛大にはき出した。
みんなの表情が、柔らかくなった。
とんとんと肩を叩かれて、振り向くと。
このままいくとストックがなくなり、毎週の決まった日ではなく
書いて出し、書いて出しすることになってしまうのですが、
それと、三か月くらい休んで書き溜めるのと、どちらがいいですか?
ほかの人たちはどうしているとか、いろいろ意見をいただけると嬉しいです。
では、また。




