14 守るための戦い
私の力は本当に微々たるものですが、
熊本の皆様に届いてほしいです。
では、どうぞ。
悲鳴が聞こえる。
怒声が聞こえる。
モンスターが言う。
壊せ、殺せ。
騎士さんたち、冒険者さんたちも抵抗している。
でも、止められない。
壊された町の防壁から、モンスターたちが侵入していく。
「やめてえー」
私は声の限り叫んだ。
馬は走る。
ぐんぐんと距離を詰める。
近づくと、倒された、あるいは殺された、騎士さんや冒険者さん、モンスターたちの姿が、生々しい。
これが殺し合いなのか。
怖い。
でも、助けたい。
人も、モンスターも。
だからこそ、町へのこれ以上の侵入は、防がなければならない。
地形がそうなっているからなのだろう、私たちは壊れた防壁に向かって、侵入しているモンスターの背後から、回りこむように到着した。
「私もモンスターだ。聞け、同胞よ」
オルガも叫ぶ。
でも、わずかに振り向いたモンスターたちも、まるで興味もないと足を進める。
馬を降りて、頑丈おじさんの後について私も走る。
人やモンスターを避けて、飛び越えて。
最後尾のモンスターは、私たちに襲いかかってきた。
「嬢ちゃん、こいつらには構うな。先頭のモンスター、そいつの前に立って、とにかく進行を止めるんだ」
私の足が軽くなった。
十五歳の何の変哲もない女子がただ走っているだけなのに、頑丈おじさんもオルガもシンガも置き去りにして、先頭のモンスターまでの何十メートルを、ものの数歩で駆け抜けた。
先頭のモンスターと対峙した私は思った。
(どないせえっちゅうねん)
ゲイル・スラッシュ七回で、何とかなるのかな?
「ミ・ユ・キ」
聞いた声だ。
振り向くと、三十おじさんと金髪お姉さんがいた。
それだけで救われた気持ちになった。
「ラギュールさん。フィナさん」
王国騎士団員さんと冒険者さんが何人かいて、町人はもう避難しているようだ。
「さあ、町を守るための戦いだ。気を引き締めよう」
前衛に三十おじさんと騎士さんたち。
後衛は金髪お姉さんと私と、宮廷魔術師さんが三人と。
それに冒険者さんが三人。
死の気配が感じられる、命のやり取りをする戦いは、きっとこれが初めてだ。
あ、違うな。
前にもあった。
モンスターに殺されそうになったこと。
うん。
気持ちが少しだけ軽くなる。
でも、手の震えや体の委縮は止まらない。
前に立った私を、品定めするように見ていた先頭のモンスターがまた一歩歩みを進めると、ずしんと響いた。
その時に、タオの羽が、優しく光った。
光ると、私の心の九十パーセント以上を占めていた恐怖が、綺麗になくなった。
これがタオの羽が持つ状態異常無効の効果なのだろう。
後ろにいたモンスターたちに、指示を出した先頭のモンスターが、リーダーで間違いはない。
姿も他のモンスターの上位種って見た目だし。
私たちが十二人、モンスターは十以上はいる。
ああ、頑丈おじさんとオルガにシンガで十五人だ。
襲ってくるモンスターの一体に向かって、気が大きくなった私は、ものは試しと、呪文を唱えた。
「ゲイル・スラッシュ」
リーダーのモンスターが狒々王、子分たちが狒々というモンスターだ。
運転おじさんと一緒に見たモンスターの中には狒々のほうしかいなかったけど、話には聞いていたから、奴が狒々王だと、分かる。
私が放ったゲイル・スラッシュを食らった狒々は後ろに倒れたけれども、戦闘不能になるほどのダメージではなかったようで、よろよろとしながら上体を起こす。
私の魔法じゃ一撃で倒すほどの威力はまだ無理らしい。
そこに頑丈おじさんたちが駆けつけてくれた。
なんて心強い。
頑丈おじさんの強さは、見る人が見れば戦わなくても分かる。
狒々王にも分かったらしい。
つまり狒々王は、敵の強さを量り知ることのできる、強いモンスターだということだ。
狒々王が身構えて、頑丈おじさんは『紫熊の咆哮』で迎え撃った。
周りの狒々たちにも飛び火して、狒々たちは尻尾を丸めた。
頭を抱えたり悲鳴を上げたりしている狒々もいる。
逆に頑丈おじさんの仲間、味方の私たちは勇気がみなぎる。
アドレナリンが出て、実力以上の力を発揮できる、あの状態だ。
狒々王は、ゴリラではないんだけど、ドラミングをしてグオオオと叫んだ。
それはモンスターの言葉ではない。
でも、子分たちに戦意を取り戻させるための行為であることは、狒々たちの顔、振る舞いを見れば分かる。
中央で狒々王と頑丈おじさんの一対一。
その左と右で、狒々五体五体と私たち七人七人の戦いが、始まる。
私は一人一人、正確には一体一体、確認した。
五体とも、白目が真っ黒だ。
「みんな、聞いて。狒々たちは悪いことをした凶悪なモンスターだけど、それは魔王のせいなの。本当は悪い子じゃないかもしれないの。私に試したいことがあるから、できるだけ殺さないようにしてあげて」
「自分が何を言っているのか分かっているのか、娘よ。人間に危害を加えたモンスターは死刑と決まっているだろうが」
「私はグマ爺さんの仲間よ。私をぞんざいに扱ったことを王様に言ったら、あなたはどうなるのかなあ?」
「ぬぐっ」
「騎士さん、ミ・ユ・キには不思議な力があるんだ。信じてみよう」
と三十おじさん。
「……ぬぐぐ。……分かった。しかし、それで誰かに危害が及んだ時は、責任を取ってもらうぞ」
いくぞと同時に、五体の狒々が飛びかかってきた。
七人パーティーではあるのだけど、後衛が私と金髪お姉さん。
前衛は三十おじさんと王国騎士団員三人に、シンガだ。
悪いけど、実質四人。
飛びかかってきた狒々の一撃で、シンガは戦闘不能になった。
慌てて金髪お姉さんが癒しの呪文をかける。
死んではいない。よかった。
「シンガ、無理はしないで、できることだけをして。そこで見ていて。そしてピンチになった人がいたらすぐに助けてあげて」
「うん、わかった。ぼく、がんばるよ」
穢れのない目に、少し心が痛んだ。
狒々はモンスターだ。
人間以上の身体能力を持っているうえに、爪が発達していた。
それで騎士さんの振るう剣の攻撃を防げるくらいに。
でも騎士さんたちだって、日頃から鍛錬は欠かしていないはずだ。
モンスターと同等かそれ以上に鍛えられている、と思ったのだけど、何だか、怪しい。
冷静に考えて答えを出した。
戦いっぷりを見て、答えが導かれた。
腕が立つ騎士さんを、町の中で万が一の事態に備えさせるだろうか?
否。
腕が立つ騎士さんは、モンスターを町に侵入させないために外で戦っているはずだ。
然り。
この騎士さんたち、言っちゃ悪いけど、下っ端だ。
おそらくだけどまず間違いなく、見習い騎士みたいな、騎士のひよっこだ。
でなかったら、前領主時代の腐敗した政治にどっぷりつかって、鍛錬を怠った騎士の風上にも置けない輩だ。
騎士さんは剣を、三十おじさんはナイフを、狒々は爪を振り回して戦っている。
私はゲイル・スラッシュで援護したいのだけど、どちらの動きも目まぐるしくて、何もできない状態だ。
まったくの役立たずだ。
どんな効果があるのかは分からないけど、金髪お姉さんは呪文を唱えている。
(あ!)
狒々と狒々王。どんな姿を想像なさっていますか?
狒々は120センチくらい、狒々王は180センチ以上160キロくらいと
設定させていただきます。
……想像と、違いましたか?
では、また。




