13 葛藤と襲来
「エピソードタイトル12 命名」ですが、
『読んでしまった』ではなく『詠んでしまった』の間違いです。
何回もチェックはしたつもりなのに……。悔しいです!
では、どうぞ。
町や町人の警護の昼番を担当する人は、お昼がお弁当で夜に休憩をもらって町に食べに戻る人と、お昼に町に戻ってご飯を食べて夜はお弁当ですます人とがいる。
私たちは前者だ。
そのお弁当は、王国騎士団や冒険者を手配して警護の仕事に従事させている国側が用意してくれている。
町に戻ってお店で食べる時は、さすがに自腹だ。
お弁当は町にいくつかあるご飯屋さんで均等に作られている。
当然、利益も平等だ。
一週間のうち(つまりこっちでも一週間とか一か月とか一年とかと日にちを数えるのだ)に七通りの弁当が用意されていて、それのローテーションでみんな食べる。
あそこの弁当がいいから取り換えろなどと子どもの好き嫌いみたいに我が儘を言う人はいない。
朝ご飯を食べた三十おじさんと金髪お姉さんは、少しのティータイムの後で、朝八時の開店前にお弁当を作り始める。
私もできることを手伝う。
皿洗いやテーブル拭きにモップ掛け。
サンドイッチやホットドッグなどの携帯食なら、私にだって作れるし。
できることは、ある。
最初は断った二人だけども、寝食代をただにしてもらったうえに、二人が働いてるのに何にもしないでいられないからと、手伝わせてくれないなら明日から野宿すると言ったら、笑って、じゃあ、と役目をくれた。
だから三人で並んでキッチンに立ち、二人と比べたら少し不格好なサンドイッチを作っている。
「ミ・ユ・キはもう慣れた? モンスターと戦うこと」
「いやあ、やっぱりまだ怖いって思っちゃいますね」
「最初のうちはみんなそうさ。そればっかりは場数を踏むしか、解消方法はないな」
「……あのう、場数を踏んだら……」
「何だい?」
「私でも強くなれますか?」
私は取り繕うために嘘をついた。
「それはもちろん、なれるさ」
「もうなっているわ。魔法だって、使えるようになったじゃない」
「そうですね。そうですよね」
私の嘘に気付かなかった二人は、笑顔でお弁当を作る手を動かした。
心が痛みはしたけど、きっとこれは言っちゃいけない。
だから言わない。
言う度胸もない。
八時前にギルドの者だと名乗る人がお弁当を取りに来て、そしたら間もなく開店だ。
私はまた警護の仕事が入っているので、頑丈おじさんが朝食兼迎えに来るまで、短い時間だけど、お手伝いをする。
私が本当に訊きたかったこと、それは
『場数を踏んだら、モンスターを殺しても平気になるんですか?』
だった。
そう、まだ私は、一体のモンスターも、殺せてはいない。
頑丈おじさんが来て、頑丈おじさん以外のお客さんも来て、店はすこぶる賑やかだ。
活気がある。
笑顔がある。
嬉しそうに忙しく働いている二人を見るのは、嬉しい。
「じゃあ、嬢ちゃん、行こうか」
「はい」
「気をつけて」
「ミ・ユ・キが怪我をしないように、見張っててね、グマ爺」
「任せとけい」
「じゃあ、ラギュールさん、フィナさん、行ってきます」
私は私の仕事場へ、向かった。
田んぼや畑は、わざわざ言うまでもないことかもしれないけど、町の外にある。
米、野菜に果物、牛、豚、鳥などの飼育と、馬車や騎士さんの足代わりの馬の牧場も見られる。
私は町の西側、つまり動物系の畜産をしている場所の警護に来ている。
ここが一番、モンスターに狙われるところなのだそうだ。
まあ、当たり前っちゃ当たり前だけど。
北、東、南、西と警護の仕事はローテーションされていて、私はここの警護をするのは初めてだ。
生で馬を見るのも初めてで、まあ、それを言ったら生で牛を見るのも豚を見るのも初めては初めてなんだけど、乗馬をさせてもらえることになって、テンションは上がった。
でも、ふと気付いたのだけど、私はモンスターの言葉は理解できるけど、動物の言葉は理解できなかった。
それらがまったく別であるとは思うのだけど、じゃあ具体的にどう違うのか説明をしろと言われても、上手くはできない。
動物より高度な知性を持っているから、だろうか?
でも動物にだって人間の言葉を解するくらいの知性を持った生き物がいる。
その子の言葉なら私は分かるのだろうか?
だからやっぱり上手くはできない。
警護を頑丈おじさんの弟子たちに任せて、私は乗馬をした。
鞍をつけた乗馬用の馬だ。
ちゃんと訓練をしてあるそうで、私が乗っても暴れたりはしなかった。
もちろん乗馬は初めてだ。
目線の高さや、風を切る感じが心地いい。
言葉は理解できなかったけど。
冒険者として生きるなら、乗馬は覚えておいたほうが絶対にいい。
なんて力説した頑丈おじさんは、乗馬が苦手だという。
でも笑わない、笑えない。
だって、難しいんだもん。
調教師さんに訊いたら、一朝一夕で乗れるようになるものではないらしい。
私が悪戦苦闘している間にも時間は過ぎる。
気が付いたらお昼になっていた。
教訓、乗馬は思いの外、疲れる。
頑丈おじさんの弟子たちと合流して、お弁当を食べた。
モンスターの襲撃率が一番高いと言っても、一度も警鐘はならなかったじゃない。
そう思っていたけど、弟子たちは二度ほど戦ったそうだ。
どうやら私は乗馬に夢中になりすぎて、警鐘が聞こえていなかったようだ。
大変だったんですよ、と弟子の一人が言った。
たぶん(全員の顔と名前が一致してなくてごめんなさい)アテンさんだ。
テンサさんはやっぱりまだ戦いは苦手なようで、シンパシーを感じる。
ところで、ギターはしっかりと持って警護に来ている。
風属性の魔法使いとして修行中の身ではあるけれど、本職は吟遊詩人なのだ。
食後に一曲、歌った。
ミディアムテンポの邦楽だ。
シンガが一番の特等席に座っていて、歌の合間に、愛の手を入れているつもりなのだろうか、遠吠えのように声を上げて、笑うような曲じゃないのに、みんなで笑った。
私も歌いながら笑った。
そうしていると、遠くから聞こえる声が近づいてきて、気のせいではないとみんなで声のしたほうを見ると、一人の騎士さんが馬に乗って走ってきていた。
頑丈おじさんが一番に立ち上がって、どうした、と叫んだ。
騎士さんはこう言った。
「町の東からモンスター襲来です。現在戦闘中。しかし戦況劣勢により、援軍をお願いします」
この町を襲う人間はいない。
でも襲ってくるのは人間だけじゃない。
魔王の呪縛の悪影響によって凶暴になったモンスターたちが、たとえ正気を失っているにしても、襲ってくるなら排除しなければいけない。
その時が、来てしまった。
「この馬をお使いください」
その騎士さんは、引いて連れてきた馬二頭を差し出した。
一頭に頑丈おじさんと私が乗り、もう一頭にオルガが乗って、弟子たちは引き続き警護を続けるよう頑丈おじさんが指示を出し、私たちは従った。
背中にギター、右手に杖、お腹の前には、シンガ。
迷った。
でも迷っている時間すら惜しい。連れて行けというのなら、連れて行こう。
それが仲間ってもんだ。
馬は走る。
騎士さんは頑丈おじさんとオルガを助っ人として呼びに来たらしい。
私とシンガを場違いだという目で見ている。
もっと言うと、邪魔だと思っている、そんな目だ。
町の東側に着いた時、平和な町に、戦火が及ぶ、まさに瞬間だった。
美優姫の、実質初めての戦いが始まります。
では、また。




