12 命名
仲間になったモンスターにすること。
それは……。
では、どうぞ。
「だあかあらあ、こいつは危険なモンスターじゃねえんだよ。分かんねえ奴だな」
「しかし、マグマさん。モンスターを町に入れて、怪我人でも出たらどうするんですか。私が責任を問われるんですよ」
「こいつの目を見てみろ。魔王の呪縛によって危険になったモンスターは白目も黒いだろうが。見ろ、真っ白だ」
「それでも、人を襲わないという保証にはなりません」
「じゃあオルガはどうだ。オルガはよくてこいつが駄目なんてのは、筋が通らねえんじゃねえのか? どうだ」
「タオジオルガさんはモンスターでも知性があります。国賓でもあります。でも、このモンスターは魔滅死刃じゃないですか」
「でも俺たちの仲間だ」
「駄目です」
「どうしてもか」
「はい」
「この顔を見ても、か」
真っ白にじっと見つめられる門番の王国騎士団員。
真っ白に小首を傾げられる門番の王国騎士団員。
「何でえ。型にはまった考え方しやがって。少しは融通ってもんを利かせろってんだ」
「たしかにその通りだが、騎士という人種は、教えを忠実に守るものだ」
「だって」
「そりゃ分かっちゃいるが、だよ。分かっちゃいるが。きっと今、あいつは一人で、寂しそうにしてるんだぞ」
午後九時を回って仕事を終えた私たちは、三十おじさんと金髪お姉さんに愚痴をこぼしていた。
お客さんでいっぱいで、以前の閑古鳥はどこ吹く風だ。
忙しく働く二人はとてもいい笑顔をしている。
「王様の許可を取らないと、その騎士は絶対に許可しないでしょうね」
「王様だって忙しいんだ。これ以上仕事を増やしてやりたくはねえさ」
三十おじさんが答えて、頑丈おじさんが返した。
今は弟子たちはいない。
私と頑丈おじさんとオルガだけだ。
ちなみにお店は十時閉店。
九時半ラスト・オーダーだ。
そして、私はお店の二階の一室を貸してもらい、そこで寝泊まりさせてもらっている。
お金は無料だ。
頑丈おじさんが寝食代として代わりにお金を払うと言ったのだけど
「ミ・ユ・キは私たちにとっても恩人だし、友達だから」
とお金を受け取りはしなかったのだ。
私も人に優しくできる人間でありたい。
その厚意に甘えて、私は十一時過ぎにベッドに入った。
当たり前だけど、魔滅死刃以外にもモンスターと遭遇して、戦っている。
魔法を唱えるのも案外と疲れるものなのだ。
すぐに眠りに落ちた。
そして、目覚まし時計のアラームで目が覚めた。
(え⁉ 目覚まし時計?)
朝に弱い私だけど、一遍に目が覚めた。
そう、私は戻ってきたのだ、こっちに。
金髪お姉さんが用意してくれたパジャマ替わりの服ではなく、こっちで私が使っているパジャマを着ていた。
ギターもある。
魔法使いのおじいさんからもらった服も、綺麗にたたまれた状態で、机の上にちゃんとある。
しばらく考えて、日曜日であることを思い出した。
スマホで確認したけど、日曜で合っていた。
やっぱり、向こうで何日過ごそうと、こっちでは、もしかしたら、一秒も経ってはいないのかもしれないという仮説が、真実味を増した。
今日こそは絶対にすべきこと、しなければならないことがある。
起きておじさんとおばさんに挨拶をして朝ご飯を食べてシャワーを浴びてギターの練習をして十時になったら向かうところ、それは百均だ。
シャンプー、コンディショナー、ボディシャンプー。
私は十五歳の女の子なんだ。
今度こそ、持って行く。
百均は駅前に行けばある。
天気も悪くはない。
私を阻むものはない。
出陣だ。
行ってきますと言い残して、私は家を出る。
詰め替え用のボトルには、何日分が入るのか、それによってまた必要になる大きさも変わってくるな、と考えながら歩いているうちに、もう百均に到着だ。
大きさの異なる三種類の詰め替え用ボトルがあったのだけど、迷った私は、大は小を兼ねるで、一番大きいのを選んだ。
そう、私の中では、あっちに行くのはもう確定事項なのだ。
家に帰る道すがら、私は思い出していた。
昨日(と言うのが正解か否かは分からないけど)の昼前を。
こみあげてくる笑いを、ぐっと堪えずにはいられない。
あの時、頑丈おじさんは、名前は、どうする?
と訊いてきた。
もちろん、仲間になった魔滅死刃のだ。
私も気になっていた。
魔滅死刃のまんまじゃ、可哀そうな感じもするし、親しみ感がない。
仲間なのだから、仲間になった魔滅死刃に相応しい新しい名前が必要だ。
せっかくパーティーでいるのに私一人で決めるのもどうかと思ったので、頑丈おじさんの弟子たちに、何かいい名前はないか、訊いてみた。
ボゲボゲ、ニュルリ、メダック、ズーミン、キキン、サンダル。
全部却下。
当たり前だ。
なのにショックを受けられたことにショックを受けた。
頑丈おじさんは、ミユキが仲間にしたのだからミユキが名前を付けるべきだというオルガの意見に賛成した。
だから私は、どうしたもんかと、考えた。
一生懸命に考えていたから、モンスターが現れてみんなが戦闘態勢に入っている間も歩き続け、モンスターの格好の的になってしまった。
物理攻撃反射で全員やっつけたんだけどね。
お昼が近づいてきて、農作業をしている町人の警護のために、田んぼや畑のある辺りに場所を移した。
モンスターが来たら、見張り台にいる騎士が警鐘を鳴らすことになっているので、ならないうちは仕事がない。
だからその時間を考える時間にした。
私の隣でお座りをしている真っ白。
でも、便宜上真っ白と呼んでいるだけで、それを名前にする気はない。
何かいい名前はないか……。
頑丈おじさんが弟子たちに稽古をつけている様を、オルガと並んで観ながら、考えた。
綺麗な青空だから『ソラ』。
もう一つこない。
強くなってほしいから『キョウ』。
違う。
剛と書いて『ゴウ』。
これも違う。
犬型のモンスターだから『ポチ』もしくは『タロー』。
しっくりこない。
寝そべって、見上げた空に、浮かぶ雲。
一句読んでしまった。
何かないかなあ?
閃きとは、唐突なものだ。
あっと私は思った。
私は歌手志望。
歌手、英語でシンガー。
ガーと伸ばさずに『シンガ』って、いいんじゃない?
心の牙と書いて『シンガ』って当てるのもなかなかどうして悪くないじゃん。
オルガに訊いたら、いいんじゃないかと返ってきた。
だから、私のそばから離れずに、キラキラした目で私を見ている真っ白に、シンガ、そう呼び掛けてみた。
ワンと一吠えして、尻尾を振ってきた。
そのワンを言葉にすると、それが僕の新しい名前なの?
嬉しいな、もっと呼んで、という意味だ。
稽古を終えた頑丈おじさんたちに名前を発表するのは、そのもう少し後になる。
家に帰って鍵を閉めた。
バッグを置いたら、さあ、ボトルにインだ。
階段を上がり、私の部屋のドアを開けた。
「あら、ミ・ユ・キ。今、起こしに行こうとしたところなのよ。朝ご飯の準備ができたから、食べましょう」
まさかの金髪お姉さんの登場だ。
また遠のくシャンプーライフ。
がっくり。
どうでしょうか? シンガ。
あんまりぴんとこないなあ……。なんて言われたら結構ショックです。
そんなこんなもひっくるめて、感想をいただけたら嬉しいです。
では、また。




