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11  美優姫の特殊能力、解放される

魔滅死刃というモンスターは……。


では、どうぞ。

 そして一時間後。


「いたぞ」


 一番に頑丈おじさんが発見した。

 身を低くして、八人(厳密には七人と一体のモンスターだけど)で這うようにして、できるだけ気配を殺して近づく。


 ごくりと唾を飲む頑丈おじさん。


 十メートルくらいの距離で止まるように指示する。

 私たちは指示に従う。

 十五体から二十体くらいの魔滅死刃の群れがいる。

 私は思った。


(魔滅死刃って、豆柴やん!)


 東京生まれの東京育ちの私でも、思わず大阪弁を使わずにはいられなかった。


 例えばポイズンスネークは、地球の一般的な蛇よりも大きい。

 ウイング・アリゲーターは、鰐なのに翼が生えていた。

 でも魔滅死刃は、そのまんま、豆柴だ。


 頑丈おじさんのしまりのない顔を、初めて見ることになる。

 私とオルガ以外は、戯れる魔滅死刃たちを見て、頬を赤くしてにやにやとしている。

 いや、たしかに可愛いけれど。


「おらあ行ってくるぜ」


 堪らず頑丈おじさんは駆けて行った。

 その二分後。


「いやあ、やっぱり勝てねえわ」

「いや、グマ爺さん、噛まれとる、噛まれとる」


 五体の魔滅死刃に噛まれて血を流しがら、頑丈おじさんは、一遍の悔いなし、と言うように笑っている。


「師匠!」


 言葉上ではすごい、というニュアンスだけど、その表情は羨ましい、という感じだ。

 尊敬と羨望の眼差しで頑丈おじさんを見ていた弟子たち六人も、勢い、俺もっと、魔滅死刃に向かって行った。

 やっぱり二分後。


「勝てないっすねえ」


 六人で合計二十体の魔滅死刃の牙痕をつけて帰ってきた。

 痛いのは痛いのだろうけど、顔は満足そうだ。


 こっちが十メートル以上離れると、魔滅死刃の臨戦態勢は解かれる。


 私は見ていて気付いた。

 十五体からニ十体だと見ていた魔滅死刃の群れに、二十一体目がいたのだ。

 まだ子どもなのか、小さな豆柴の中でも一回り小さい、そして真っ白な毛が一際目を引く、一体がいることに。


 その子は群れから少し離れたところで、もじもじとしながらじゃれている群れの仲間を見ていた。

 でも近づくことはできないようだ。

 ただ見ているだけ。


 さすがに二度も臨戦距離に入られたからなのか、魔滅死刃たちは私たちから離れるために群れで移動を始めた。

 でも、最後尾で一生懸命ついていことするその真っ白の子に、群れの一人、茶色魔滅死刃が威嚇をした。


(え? 何で? 群れじゃないの? 仲間なんじゃないの?)


 グルルルルという唸り声の後で、モンスターの言葉で喋った。


「お前は疫病神だ。いや、神なんて立派な者じゃない。単なる疫病だ。いつもいつも足を引っ張りやがって。お前がとろいから、お気に入りの草原にまで行けず、お前が疫病だから、あんな奴らを呼び寄せたんだ。群れから出ていけ。いいか、群れから、出ていけ!」


 そう言って離れていく魔滅死刃の群れに、それでも真っ白はついていこうとした。


「出ていけと言っただろうが」


 痛い。

 見ていて思った。

 茶色魔滅死刃が、真っ白の首に、がぶりと噛みついたのだ。

 ギャンと悲鳴を上げた真っ白。

 手加減もしなかったらしく、真っ白は一度倒れた。

 茶色魔滅死刃は


「お前は邪魔なんだよ。次は殺すぞ。まあ、お前みたいな奴は、餌も取れずに野垂れ死にだろうがな」


 そう吐き捨てて、走り去った。

 クウン,クウン、と鳴いた真っ白は、本当に群れから捨てられた。


 一部始終を見ていた私は胸が切なくなった。

 可哀そうだ。

 遠ざかっていく群れの(元)仲間に、クウウン、クウウンと絞り出した声は、届くことはなかった。

 切なさは増す。


 立ち上がったのだけど、ダメージが大きいのか、ふらりとした後で、倒れた。

 気が付くと、私は駆け寄っていた。


「大丈夫?」


 私の言葉は、モンスターの言葉となって伝わっているはずだ。

 なのに真っ白は、近づいた私に唸り声を上げて威嚇する。

 血が出てて痛くて、立つこともできないのに、私を危険視して、身を守ろうとしているのだ。


「大丈夫だよ。怖くないよ。私は敵じゃないよ。怪我、痛いでしょ? ポーションがあるから、それで傷を治させて。お願い」


 腰をかがめて一歩近づくと、真っ白は一歩下がり、飛びかかるような姿勢をして、やっぱり唸った。

 こんなにも剥き出しの敵意をぶつけられたのは、たぶん初めてだ。


 豆柴でも、私を怖がらせるには充分だ。

 その間にも、真っ白の首から血が垂れている。

 痛くないはずがない。


 私は傷を治したい、近づきたい。

 でも真っ白は敵意を持っている、近づけない。

 いや、近づけないのは、私に勇気が足りないからだ。

 近づこう。


 タオの羽をつけていたら、真っ白が私に攻撃してきた時に怪我をさせてしまう。

 扱い方を一番よく知っているであろうオルガにタオの羽を手渡して、また一歩、近づく。


「怖くないよ」


 私はなるだけ優しく言った。

 それでも身構え、吠えてくる真っ白。

 言葉が通じていないのだろうかと、オルガに確認を取る。

 通じているはずだと返事が来る。

 通じているのに攻撃姿勢を崩さないということは、このまま説得を続けても無意味だということ。

 

 なら、私がとるべき行動は。


 それでもなるだけ不安にさせないように身を屈めて、そろりそろりと距離を詰める。

 吠えられても、唸られても、距離を詰める。

 無駄だと分かっているけど、何にもしないよ、大丈夫だよ、怪我を治すだけだよ、と話しかけながら。


 そして、手の届く距離にまで近づくと。

 ガブリ。

 案の定だ。

 想像の倍は痛い。漫画なら痛みに耐えて噛まれるがままなのだけど、私は反射的に、痛い、と手を引っ込めてしまった。

 すると、見間違いじゃない。

 そして、聞き間違いでもない。

 こんなリアクションが返ってきた。


「いたかったの? ぼくがかんだせいで、いたいおもいをしちゃったの?」


 さっきまでの唸りは消えて、悪いことをしちゃった、どうしよう、と戸惑っている目や態度になった。

 真っ白の目も、例に漏れず白目が真っ黒になっていて、だから見づらかったのだけど、黒目がぐりんと上を向いて、ふらりとした後で、倒れた。私が慌てて手を伸ばすと、まだ意識はあるようで、怯えはしたけど、噛まれはしなかった。

 私は真っ白を抱き上げて膝に乗せ、首の傷跡にポーションをかけた。

 見る間に傷は塞がって。

 流れ出る血も止まる。

 私の膝からぴょんと跳ねて、どこも痛くなくなったと理解すると、小さな尻尾をぶんぶんと振り出した。


 真っ黒だった白目が、いつの間にか真っ白になっていると気付いた。

 ワンと吠えたその顔は、嬉しい、ありがとうと如実に物語っている。

 そして、こう言った。


「ぼくもなかまにいれてください」


 オルガと目を合わせた後で、頑丈おじさんに通訳する。


「仲間? いいんじゃねえか、別に。嬢ちゃんが嫌じゃねえならよう」


 この場合は違うけれど、私はペットを飼ったことはない。

 だけど、可愛いものは好きだ。

 真っ白なこの魔滅死刃も、可愛い。

 仲間にしたことによってどんな弊害が起きるのかは分からない。

 もしかしたら、後で仲間にしなきゃよかったなんて思うことになるのかもしれない。

 その可能性はゼロじゃない。

 でも、私に好意を寄せてくれているこの無垢な魔滅死刃の気持ちを、無碍にはしたくない。

 それに、真っ白が望んでいるのは『ペット』ではなく『仲間』だ。

 真っ白もれっきとしたモンスターなのだ。


 私は数舜答えに迷ったのだけど、そっと真っ白を抱き上げた。


仲間になりました。


では、また。

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