9 こうして経験値は上がる
無銭飲食になっちゃうの? なっちゃわないの? どっち?
では、どうぞ。
そして。
「三戦目、行ってみるか?」
「いやもう無理。ゲイル・スラッシュを五回唱えたから、もう魔力切れよ」
もちろん、こっちのそんな都合なんて、モンスターが忖度してくれるはずもない。
三体目が現れてしまった。
三体目は運転おじさんに教わった、ポイズンスネークが二体だ。
夫婦なのか、親子なのか、兄弟なのか、友達なのか。
頑丈おじさんは、五人の弟子に戦うように指示した。
そこで分かった。
一人だけ、見るからに及び腰の弟子がいたのだ。
間違いなく、モンスターと戦うのは初めてなのだ。
顔も青いし。
他の四人は、きっともう鍛冶師として素材を集めるためにダンジョンに潜ったことがあって、つまりはそこにいるモンスターと戦ったりもしていて、経験済みなのだろう。
推測ではあるけど、高い確率で当たっている。
鎌首をもたげたポイズンスネークは、全長百二、三十センチといったところだ。
蛇だけあって細長い。
でもモンスターだけあって、地球人が蛇と聞いて連想するよりは太い。
シャーシャーと威嚇してくる。
目はやっぱり本来白目のところが真っ黒で、魔王の呪縛の影響なのね。
この子たちも、倒しても可哀そうじゃない外見だ。
よかった。
いや、よくはないのか……。
頑丈おじさんは、その及び腰の弟子に、一番に戦いに行くように指示した。
「テンサ、お前が先頭に立って、まず一人で戦え。アキン、ルキン、トーゼ、フォーリ、お前らはテンサが危なくなるまでは、待て。危なくなったら、怪我する前に助けに入ってやれ」
そんなあ、と言いたげな顔をしたテンサさんは、それでも頑張って一歩二歩と踏み出した。
腹というものは、そう簡単にくくれるものじゃないけど、半ばやけくそっぽい感じでテンサさんは剣を構えた。
バトル、開始だ。
必死に戦うテンサさんを、のんびり見ている私たち。
だって、ポイズンスネークに毒はないって教わったんだもん。
木の実や果物が主食なために牙も退化していて、噛まれてもそんなに痛くはないらしいし。
剣を振るってかわされて、噛みつかれそうになって避けて。
あ、当たった。
でもまだ倒すには至らない。
二対一ということもあって、悪戦苦闘している。
頑丈おじさんの、そいつぁ縦より横に振りまわしたほうがいいんだぞ、アドバイスに従って、テンサさんはまた剣を振るう。
そうしているうちに一体が倒れた。
テンサさんは振り返ってにっこりだ。
それがいけなかった。
その隙を逃さずに、ポイズンスネークは体当たりをして、倒れたテンサさんに巻き付いて締め上げた。
「それ、助けに行ってやれ」
四人がかりで引き剥がして袋叩きにすると、倒れた仲間(?)を置いて、ポイズンスネークは去っていった。
「師匠。あいつはどうしますか?」
「放っておけ。あいつも魔王の呪縛の被害者だ。気が付いたら森に帰るだろうし、これに懲りたら人間を襲おうとも思わんだろ」
背負っていた鞄から液体の入った瓶を取り出して、それを倒れているポイズンスネークに少量だけかけた。
あ、ポーションか、優しいな。
見ると、弟子のみんなも尊敬の眼差しをしていた。
「今が夕方近くで、昼行性と夜行性のモンスターが入れ替わる時間だったってのも、作用しているんだ。今日勝てたモンスターだからって、次に油断したら倒されるのは自分たちだって、ようく憶えておきな」
「はい」
みんなに倣って私も返事をして、その日の訓練は終わった。
平原から町に向かって歩いていくと川があって、そこに五メートルほどの橋が架かっている。
昼にそこを通った時に川魚を獲っていた大人一人と子ども一人(モンスターの凶暴化に伴い、一時的に子どもは大人同伴でなければ町の外には出られない)が、まだいた。
でも、どうやら帰り支度をしているようだ。
頑丈おじさんに気付くと、遠くから手を振ってきた。
頑丈おじさんも振り返した。
橋の袂で合流した。
「マグマさん、帰り、ご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「ああ、もちろん、いいぜ。大漁かい?」
「はい。モンスターに襲われることもなく、二十匹、獲れましたよ。これから食堂に仕入れて、それで今日の仕事は終わりです」
「父ちゃんに漁の仕方、教わったのかい?」
「はい。今じゃお父さんより僕のほうが上手に獲れるんですよ」
「ワハハハハ。そうか、そりゃいい。親孝行はしないとな。じゃあ、行こうか」
漁師父が腰につけていた魚籠では、まだ息のある魚が何匹かビチビチと身を動かしていた。
魚は美味しい。
でもそれも命だ。
私たち人間は、沢山の生き物の命を食べて生きているのだ。
感謝しなければならない。
でも、魚を食べるのは人間に限ったことではない。
モンスターだって、食べる。
「ミユキ、マグマに敵が来たと伝えてくれ」
そう言ったのはオルガだ。
敵という言葉に素早く反応して、私は伝えた。
「どこだ?」
「空だ」
上空を見ても何もいない。
でもオルガは森のほうの空を見ていた。
目を凝らすと、黒い点のようなものがすごいスピードで近づいてくる。
私は訊いた。
「あれは何?」
「ウイング・アリゲーターだ」
頑丈おじさんはシグマを構えた。
それほどのモンスターということだ。
「みんな下がってろ。もちろん嬢ちゃんもだ。ありゃあ俺が戦う。魚を横取りしに来たんだ。オルガはその親子を守ってやってくれ」
黒い点がぐんぐんと近づいてきて、目視できるほどに迫ってきた、たしかに翼の生えた鰐だ。
さっきのポイズンスネークよりは小さいけど、威圧感というか、迫力は十倍って言っても言い過ぎじゃないくらいにある。
ウイング・アリゲーターは空を旋回している。
頑丈おじさん相手に地上で戦うのは得策じゃないと分かっているようだ。
そして、空腹に耐えられないのか、私たちが憎いのか、ウイング・アリゲーターは頑丈おじさんに襲いかかる。
「やめろ。森に帰ってくれ。このままじゃ俺はお前を殺さなきゃいけなくなる。大人しく言うことを聞いてくれ」
でも、ウイング・アリゲータ―はその鋭い牙で、頑丈おじさんを噛み殺そうとする。
「ああ、もう、分かんねえ奴だな」
「なんで紫熊の咆哮は使わないの?」
「ありゃあこいつには効きすぎる。気絶して動けなくなって、そしたら通りかかった町人に二次災害が起きる可能性ができちまう。紫熊の咆哮は使えねえ」
頑丈おじさんは防御一辺倒だ。
何とか無傷で帰したいらしい。
私は閃いた。
「ねえ、オルガ。あなたならモンスターの言葉を話せるでしょ。あのモンスターに、森に帰るように言ってみたら、駄目かな?」
返事を聞く前に、はっとした。戦っている頑丈おじさんがいて、弟子と私がいて、オルガがいて、そして漁師の親子がいる。
私がオルガに話しかけたということは、後ろを振り返ったということだ。
私は見た。
五、六十センチくらいの蛙のモンスターが、漁師子どもに向かって飛びかかる瞬間を。
「危ない」
と私が言うより早く、オルガ四匹倒した。
わたしの目の色で、危険を察知したみたいだ。
でも、後の五匹は、恐怖でしゃがみ込んだ漁師子どもの眼前に迫っていた。
私は教わった。
だから知っている。
でも、そうせずにはいられなかった。
「ゲイル・スラッシュ」
その日、六回目のゲイル・スラッシュだ。
魔力切れになると魔法が発動しない上に気を失ってしまう。
分かっていても、思わず呪文を唱えてしまった。
……なのに、気を失わないどころか、その日一番の効果のゲイル・スラッシュを放つことができた。
私のゲイル・スラッシュは五匹の蛙モンスターをぶっ飛ばしたのだ。
もやもやしてるでしょう。
いや、でも主人公に無銭飲食なんて、させませんよ。
この先で書くかもしれませんし、書かないかもしれません。
だからここに書いておきます。
ノーモア無銭飲食!
では、また。




