8 一歩一歩
もう完全に『夏』ですね。
暑すぎなければいいんですけど。
今年は何日くらい35℃以上を記録するのでしょうか?
では、どうぞ。
ちなみに、生きとし生ける者はすべて、火、水、風、土の四つの属性に分類される。
光と闇は、後々なるもの、身につくもの、なのだ。
光を求めるか、闇に落ちるか。
光属性と闇属性の魔法両方を使える人がいるのはいるけれど、それは稀なケースだ。
全部リズ先生からの受け売りだ。
「じゃあ、どうします? ギルドからは魔法の授業ということで依頼を受けたので、ミ・ユ・キさんの都合がよければ、これから魔法の授業に移りたいのですけど」
「もちろん、お願いするぜ、リズ先生。なあ、嬢ちゃん」
私も二つ返事で同意した。
ここで頑丈おじさんは弟子を連れて仕事場に行くからと、オルガも一緒にギルドを後にした。
弟子のリアクションからすると、初めてらしい。
嬉しそうだから。
町の警護はお休みするようだ。
私はリズ先生に案内されて、中庭のような訓練場のようなところに行った。
外から見るよりも、クリミネンのギルドの敷地面積は大きいらしい。
さあ、とリズ先生は私と向き合った。
「これから魔法を使うための第一歩目を教えます。これは第一歩目にして、S級魔法使いになっても決して疎かにしてはいけない、とても大切なことです。よく覚えて、何度も反復して、心に留めておいてください。では、まずあなたに眠っている魔力を、呼び起こします。そのために使うのは、これです」
そう言って、リズ先生はハンカチを取り出した。
「これをミ・ユ・キさんの手に乗せます。あなたはこれを宙に浮かせる、ただそれだけ。それが第一歩目です」
私は水晶玉の時と同じく手を差し出して、リズ先生は水晶玉の時と同じく、私の手にハンカチを乗せた。
「これを掌から出した風で浮かび上がらせるイメージ。頭、腹と胸、腕と足と、全身を駆け巡ったエネルギーを掌から放出するところをイメージして、意識を集中させるのです」
普通の地球人なら、んなことできるわけねえじゃん、で終わりだろう。
でも私はほんの少しも疑わずに
(言う通りにすれば、できる)
と受け入れた。
そして実践した。
実践したからといって、すぐにできるわけもない。
ちらっとリズ先生を見ると頷いて、頑張ってと微笑んだ。
何分経ったのか?
私はずっとイメージし続けた。
目を閉じてみたり、深呼吸をしてみたりしながら。
全身をエネルギーが駆け巡るイメージ。
全身をエネルギーが駆け巡るイメージ。
そしてそのエネルギーを掌から放出するイメージ。
心の中で繰り返しながら、そしてその通りにイメージしながら、掌から風を出そう出そうとした。
当たり前だけど、時間が経っているのだから、太陽はその分高くなっている。
風は自然のものなのか魔法によるものなのか、肌に感じられる。
気が付くと、額に汗が噴き出ていた。
手が塞がっていて拭えず、胸の前にある手を、ハンカチを注視している姿勢なので、汗は頬を伝わずにぽとりと落ちる。
駄目だ、全然集中できてない。
汗も日差しも疲労も忘れて一心に念じるくらいじゃなくちゃ、きっと駄目なんだ。
ハンカチを、その下にある手を見た。
エネルギーが全身を駆け巡っているところを強く思い描いた。
また一つ、深呼吸をして、ハンカチを浮かせるほどの風が掌から放たれるところをイメージした。
掌が、熱くなった気がした。
ハンカチが、一ミリくらい、浮いた気がした。
私は呟いた。
「浮け」
手から風が吹き出すところを、その風によってハンカチが浮くどころか飛ぶところを、イメージした。
三階建てのギルドの屋根に届こうかというくらいに、びゅうっとハンカチは舞った。
「やった。できましたよ、リズ先生! あれでいいんですよね?」
「はい。第一の課題、見事クリア、です」
「やったあああああ!」
図らずも、宙に舞ったハンカチが私の頭に落ちてきて、ぱさりという擬音が似合う感じで乗った。
特に何かを思ったわけじゃないけど、もう一度やってみた。
一回は成功できても、次はどうか?
手に乗せた時に、不安になった。
でも、できた。私はフンと鼻を鳴らさずにはいられなかった。
「コツを掴めたようですね。それが基本で、神髄です。優れた魔法使いほど、大切にしています。もちろん、魔法を使うことに慣れたら、無意識のうちにできることではあるのですが、日々の鍛錬で、魔法使いはみな、基本であったり、応用であったりを繰り返して、自らを鍛え、高めるのです」
「はい。私も基本を繰り返して、もっと上達できるように励みます」
「じゃあ、休憩しましょうか。お昼休みを挿んで、午後は二歩目に行きますよ」
「はい。……リズ先生、一ついいですか? 何だか、すごく疲れたんですけど」
「それが『魔力を使う』ということです。見たところまだ魔力切れにはなってはいないようなので、大丈夫です。午後は、手から放出した風魔法を、的に当てる、というものをやってみます。手から風を発生させられたのですから、大丈夫、できます」
お昼休みなのだから、お昼ご飯を食べるのだろう。
でも私、お金持ってない。
どうしよう。
中庭か訓練場か分からないところから、リズ先生の後について歩きながら、そんなことを考えていると、何やらパタパタと足音が近づいてきた。
誰だ?
王様だ!
「おお、ミ・ユ・キ、ここに居ったか。グマ兄ちゃんに聞いたぞ。吟遊詩人として冒険者になって、今は風魔法の修行をしているのだな。私からの贈り物だ。受け取るがよい」
護衛の王国騎士団二人のうちの一人が、布にくるまれた何かを私に手渡した。
何だろう?
礼を言ってから開けてみた。
杖だ。
何、この痒い所に手が届くような、渡りに船みたいな、この感じ。
しかも可愛いし、強そうだ。
わあ、嬉しい、得しちゃった。
「これは『姿隠しの杖』と言ってな、呪文を唱えれば透明になれるのだ」
「え⁉ 透明⁉ すごい! いいんですか? 高価なんじゃないですか? でも今からやっぱりあげないって言われても返しませんよ。うわあ、魔法使いみたいだ。どうですか? 似合ってますか?」
「いや、まだ話は終わってはおらぬのだが……」
王様そっちのけで浮かれた私は王様を困らせてしまって、見ると護衛の二人に睨まれていた。
そりゃそうだ。
その後で透明になる呪文と、杖を手放してしまうと魔法の効果が消えてしまうこと、効果のある時間は短く五分前後であること、透明になっている間は、声も足音も衣擦れの音もせず、匂いも気配も殺気でさえも遮断されることを教わった。
声がしないってことは会話ができないってことだけど、それを差し引いてもすごい杖だ。
王様はそれだけ言うと、私も忙しくてな、また会おうぞ、ミ・ユ・キ。
とまたパタパタと走っていった。
クリミネンの町の復興は、まだまだこれからなのだ。
忙しくしてる王様には悪いけど、いっぱい仕事してもらわなきゃ。
お金がないと言いだせないまま食堂に着いてしまった。
冒険者としてデビューする前に、無銭飲食デビューになっちゃうの?
美優姫の装備品が、豪華になっていきます。
今度は姿隠しの杖を手に入れました。
いえいえ、何かの伏線ではないですよ。
では、また。




