6 ギルドへ
ついに来ましたね。35度を超えた地域もあったみたいです。知ってましたか?
7月になって梅雨ももうすぐ終わって、そしたら夏ですね。
本文とは何も関係ないですけど、なんか言いたくて。
では、どうぞ。
「邪魔するぜ、ラギュール、フィナ」
私に気付くのに一拍あった。
「おお、嬢ちゃん。嬢ちゃんか。まったくどうして、妖精みたいに消えて、妖精みたいに現れるな」
ドタドタと駆け寄ってきて、私の手を握った。
笑顔だ。
釣られて笑顔になった。
私の隣にどっかりと座って
「まあ、食べちまいな」
と、やっぱり笑顔で言い、金髪お姉さんに二人分の料理を注文した。
頑丈おじさんと、タオジオルガの分だ。
弟子たちはもう朝ご飯はすませているらしい。
「久しぶりだなミユキ」
「ほんと。連絡くれてもよかったのに。なんで連絡してくれなかったの?」
「ミユキにも都合があるだろうし、いつ頃、どういうタイミングで連絡を入れればいいのか、分からなかったしな。羽、光っただろう? そちらの世界ではそれは奇異なことで、人に見られたら不味いんじゃないかと、最初の通話の後で気付いて、私は大きな失敗をしてしまったんじゃないかと、そう思ったんだ。それで次に会って尋ねて確認するまで、通話はやめておこうと判断したのだが、逆に不味かったか?」
「ううん。そういう事情なら、いいの。たしかに光ったわ。それもわたしを包むようにぐるぐるって。たしかにあれは、人には見せられないわ」
「だろう?」
「ああ、みんなは初めてか。嬢ちゃんはな、オルガの言っていることが、モンスターの言葉が、分かるんだ。すげえ特技だろ」
「オルガ?」
「ああ、タオジオルガ、じゃ長いから、略してオルガ、だ」
「私もそう呼んでもいい?」
「ああ、もちろんだ」
頑丈おじさんは料理が運ばれてくる前も、来てからも、弟子をそっちのけで私にこの一週間の出来事を話してくれた。
運転おじさんの馬車にとりあえずの荷物を積み込み、自分は専用の馬車に乗って、頑丈おじさんも同乗させて、翌日、私が帰ってきた次の日には、クリミネンの町に向かったのだそうだ。
意外と行動力はあるらしい。
町に着いた時にはすでに、頑丈おじさんの弟子一号が、頑丈おじさんの帰りを待っていたそうだ。
町の人たちも、早馬の知らせによって頑丈おじさんが最優秀鍛冶師に選ばれたことを知っていて、王様の馬車にやんやと人だかりができて大変だったんだと、頑丈おじさんは笑った。
「それからが速かった。王様は補佐役の文官とあれこれ決めて、パパっと取りかかってよお。この一週間で、出ていった奴らも少しずつだが戻ってきて、これからもっと戻ってくるな、ああ。町に活気が町人に笑顔が戻ってきて、よかったよ」
「あれ? その鎧は」
「ああ、これは鍛冶師大会の時の、例のあれだ。盾もある。冒険者に戻ると決めた時に、まあ、半分は馬車の中で強引に決めさせられたんだがな、王様が、俺にくれるってよ。シグマに刃砕きに火竜鱗。一揃いそろってるし、どれも魔力を持った武具だ。文句はねえわな」
「今日は何かの準備をするんでしょ?」
「そのつもりだったが、せっかく嬢ちゃんが来たんだ。ギルドに連れて行ってやろう。吟遊詩人になりたいって気持ちは、変わってはねえんだろ? しっかり相棒も持ってきてるしな」
「ううんとね、どうしても、是が非でも、天地がひっくり返っても、吟遊詩人になりたいってわけじゃないの。でも、私ができることは歌うことだけだから、となると、私のすることは吟遊詩人かなって。モンスターと戦うのも、人と戦うのも、なんか怖いし。こんな気持ちじゃ、失礼かな?」
「そんなことはねえさ。十人いたら十通りの考えがある。いいじゃねえか。どうしてもなりたい、でも、なるとしたら吟遊詩人、でも、志望の動機はどうだってよ。ようは結果。何を成すか、だ。嬢ちゃんの歌での一万人を超える観客の歓声、俺は覚えてるぜ」
そう、過度の興奮でまるで夢のようではあったのだけど、頑丈おじさんが言ったことによって、やっぱりあれは現実だったのだ、と再確認できた。
でも、夢のようとしか記憶できていないことは、なんだかもったいないような気がした。
一万を超える観客を、思い出してみた。
つまり、私は黙った。
それを見た頑丈おじさんが、まるで落ち込んだ人を励ますように
「いい歌だったぜ」
と私の背中を軽く叩いた。
そうじゃないんだけど、私はその優しさに応えるために
「ありがとう」
と笑い返した。
「ところで嬢ちゃん、その服と靴、イヤリングも、どこで手に入れたんだい?」
「これ? もらったの。グマ爺さんにあげたオリハルコンをくれた人と同じ人から。可愛いでしょ」
「ん? ああ、女の子のファッションのこたあよくは分からんが、魔力のこもった服なんだぜ、その服」
「魔力?」
「ああ、どんな魔法かは分からんが、嬢ちゃんがこれから吟遊詩人として生きていくのなら、必ず助けになる。おらあそう思うな」
私は改めて服を見た。
魔法か。
この服に、シグマみたいな魔力があるとは思えなかったけど、頑丈おじさんが言うのだ、あるのだろう、確実に。
「そら、見えてきた。あれがギルドだ」
「おおお」
角を曲がって通りに出たら、クリミネンの町の中では指折りの大きさの建物があった。
ここだけがそうなのか、ギルドはみんなそうなのか、黒塗りのがっしりとした建物で、何かごつい……というのが第一印象だ。
迫力というのか貫禄というのか、そういうのがある店構えで、初見時に圧倒されたのは私だけじゃないはずだ。
「弟子志望の奴らも覚えておけよ。鍛冶に必要な素材の依頼をする時があるからな。鍛冶師も世話になる場所だ。きちんと挨拶はするんだぞ」
「はい」
と五人が声をそろえた。
朝から腹から声を出して。
「じゃあ、行こうか」
心霊スポットか夜の墓地、とまでは言わないけど、私は足を踏み出すのを躊躇った。
だって怖いんだもん。
でも、入ってみると恐怖心は吹き飛んだ。
中にはたぶん冒険者なのだと思うけど、十五から二十人くらいの男女がいて、頑丈おじさんと認めた途端、ぱっと笑顔になったのだ。
「おはようございます」
と一人が挨拶をすると、その周りの人たちも続けざまに挨拶をしてきた。
あとで知ったのだけど、シャンデリアの光は、魔光石というアイテムによってもたらされるものだそうだ。
異世界、すごすぎ。
何なのそのシステム。
外観の怖さに反して、内装はフレンドリーだ。
清潔感もある。
私、ギルドに対して偏見を持っていたのかもしれない。
ここは素直にごめんなさい。
頑丈おじさんの後についていくと、ずいずいと一直線に受付の前に足を進めた。
異界に来た十五歳の女性が、
ついに冒険者へと、
一歩、
踏み出すのです。
では、また。




