4 吟遊詩人として
ちょっと時間を飛ばします。
美優姫がだんだんと冒険者になっていきます。
これからです。
では、どうぞ。
ここで一旦、それから二日経った現在の話をする。
私はクリミネンの町近くにある平原で、魔王の呪縛によって凶暴になってしまったモンスターと、戦っている真っ最中だ。
モンスターは一体。
私も一人。
ギャラリーは、七人。
二日間、みっちりってほどではないけど、風属性の呪文を教わった。
私は一つだけ呪文を覚えることができた。
でも、今の私じゃ一日に唱えられる呪文は、五回が限度だ。
五回呪文を唱えると、精神力に限界が来る。
魔力切れになった魔法使いがみんなそうなるのかと尋ねると、みんなそうだと返事がきた。
意識を保つので精一杯になるのだ。
そこで無理をすると、呪文が発動しないだけでなく、気を失ってしまうから、限界の手前で魔力を残さなければならないと、それは魔法を使う者が一番初めに教わる、一番重要なことなのだと、そう教わった。
モンスターとの戦い方超初級編を教わって、早速とばかりに、こうして実践をしている。
「ゲイル・スラッシュ」
教わった通りに、練習と同じように、呪文を発する。
これがこの日一回目の魔法だ。
「嬢ちゃん、離れすぎだ。もう少し近づいてからだ。焦るこたあねえ。よおく見て」
頑丈おじさんの指導を受けて、杖を構え直した。
この杖も貰いものだ。
何と、クリミネンの領主を兼任するようになった王様から拝領したのだ。
私は、わあ、嬉しい、得しちゃった、くらいにしか思わなかったのだけど、王様から物をもらうのは『拝領』といって、とてもありがたいことなのだ、と頑丈おじさんの弟子にこそっと言われた。
よくよく考えれば分かるのだが、気前いいじゃん、みたいなリアクションをしてしまってごめんなさい。
ちなみに、これも魔力を持った武具だ。
それもかなり強いもので、魔法を使う才能のない人でも、呪文を唱えれば、なんと短い時間ではあるけど姿を消せる、透明になれるのだそうだ。
魔法使いの使う呪文の力を増幅させる力も備わっているらしい。
私の身長と同じくらいの長さで、見た目硬そうな素材なのに、これも魔力なのだろう、まったく重さを感じない。
上部には魔法石(と後で説明を受けた)が浮いている。
モンスターは昔の人がイメージする火星人みたいなのの緑色バージョン。
モリクラゲという名前らしい。
言っちゃ悪いけど、倒しても可哀そうじゃない外見でよかった。
(でも、ゲイル・スラッシュで倒したら、緑色の体液が飛び散るんじゃ……)
「ほら、嬢ちゃん、余所見はするな」
モリクラゲを見ると、八本の足で勢いをつけて私に飛びかかってきた、まさに瞬間だった。
怖い、と体が強張った次に、私は震える足で、逃げようとした。
するとどうだろう。
ほんの少し後退っただけなのに、びよよおんと跳んだように五メートルは動いた。
バランスを崩してしゃがみ込む私に、容赦なく第二撃を放つべくモリクラゲは攻めてくる。
「ゲイル・スラッシュ」
二発目のゲイル・スラッシュは、焦ったせいか、上手く発動できずに、体から一メートルも飛ばずに消えてなくなった。
モリクラゲは敵意を剥き出しにして襲いかかってくる。
「嬢ちゃん、防御だ」
そう言われても、私の体は言うことを聞かなかった。
モリクラゲの八本足のうちの二本が、私の頭部に振り下ろされる。
(あ、やられる)
向こうだって戦っているんだ。
そりゃ当然、勝ちに来る。
倒しに来る。
攻撃を、してくる。
かわせない。
私は目をつむった。
だから、何が起こったのかを見ることはできなかった。
強い衝撃音がして、でも痛みはなく、
あれ?
これ、死んだパターン?
などと思って目を開けてみると、モリクラゲが倒れていた。
「嬢ちゃん、とにかく、魔法だ、魔法。じゃなきゃ杖で殴れ」
緑色の体液よりはと、私は杖で殴った。
ありがたいことに、体液は出なかった。
こうして私は初陣を勝利で飾った。
「グマ爺さん、一体何がどうなったの?」
「……こりゃたまげた。物理攻撃反射だ」
初めて聞いた言葉だけど、そのまんま、物理攻撃を反射する、跳ね返す、そしてそのダメージを物理攻撃をしてきた相手に与える、って意味で間違いはないと思う。
「それは私が説明しよう」
オルガだ。
「ミユキはタオの羽に認められたのだ。タオの恩恵を受けるに足る人物だと。前にも言ったな、タオの羽の力で離れていても会話ができると。でも、タオの羽の持つ力がそれだけではないのだ。物理攻撃反射、魔法攻撃反射、他にも、状態異常無効という効果があるのだが、それはまだ発動してはいないようだ。魔法攻撃反射が有効になっているか否かも分からないが、物理攻撃反射は実証されたな。魔法攻撃反射、試してみるか?」
「いやいやいや」
「何だって?」
頑丈おじさんに訊かれて、言われたまんまを繰り返した。
私の通訳で、頑丈おじさんはオルガと話をした。
「タオの一族ってのは、すげえんだな。魔法まで反射できるのか」
「いや、誤解のないように付け加えるが、我々とてそうそう作れるものではないのだ。母様がよほどミユキを気に入った証拠だ。でも、その力をミユキが引き出せるかどうかは分からなかったので、言って駄目だった場合に傷つくだろうから、伏せておいたのだ」
「鍛冶みたいなことをするのか?」
「鍛冶というよりは錬金術なのではないかと思われるのだが」
「錬金術か。鍛冶だって言われなくてよかったよ。あんなすげえ魔力を持ったアイテムを鍛冶で造られたら、おらあもうハンマーを置くぜ」
「落ち込むな、マグマ。マグマの鍛冶による武具も、素晴らしい武具だ。誇っていい」
「ありがとよ」
オルガは頷いて答えた。
こっちの言葉の意味は分かるのだ。
いつ話せるようになるのかな?
「嬢ちゃん、まだ魔力は残っているだろ? もう一戦、行ってみようぜ。なあに、物理攻撃反射があれば、怖いこたあねえ。ゲイル・スラッシュで真っ二つだ」
いくらモンスターでも、真っ二つは抵抗があるんですけど……。
でも、今の私の魔力では、やろうと思っても真っ二つは無理なのだ。
衝撃によってダメージを与える、がいいところ。
スラッシュの意味もよく分からないし(それを言ったらゲイルの意味はもっと知らないけど)。
望むと望まざるとに関わらず、モンスターは向こうからやってきた。
第二戦目だ。
タオの羽、チート過ぎるでしょうか?
いや、そんなことはない!
と強気に出たりプシューとなったりです。
では、また。




