3 イコール
第二章になってやっと美優姫の高校生活が始まります。
いや、悪いことじゃないんですけどね。
書いていて、ふと気づいた次第です。
では、どうぞ。
入学式を終えて、高校生活が始まった。
部活のオリエンテーションでは、軽音楽部に一番興味を引かれた。
でも入る気はなかったのだけど、うちの高校は必ず何かの部に入らないといけない学校だったので、それならばと入部することにした。
でも入部したからといって、絶対に部活動をしなければならないわけではなく、俗に言う幽霊部員でも全然問題はないということだったので、気が楽ではあったのだけど。
入学するまで考えもしなかったのだけど、校則ではストリート・ミュージシャン活動を禁止してはいなかった。
もし禁止されていたらと思ってぞっとした。
入部のために集まった新一年生と先輩たちとの顔合わせの自己紹介の後で、顧問の先生が教えてくれたのだ。
「まあ、だからって夜の八時とか九時とかまで街で歌ってたら、それはさすがに注意されるけどね」
と笑った。
顧問の先生は女性で、音楽の科目の担当だった。
見たところは三十代前半で、大学時代にはバンド活動もしていたそうだ。
何か芯が強そうな感じというのが第一印象で、外見も女性としては高身長の部類で、それもあっての第一印象というわけだ。
「この中で、もうすでにストリート・ミュージシャンデビューしてるって子、いる?」
そう訊かれて、一拍置いてから、私は名乗り出た。
こんな感じで高校生活は始まった。
土曜日。
午後。
晴れ。
イコールストリート・ミュージシャン活動。
二時頃始まりで四時頃に終了する。
まだたったの三回目だ。
少しはするけど、緊張もほぐれてきた。
観客には、約束通り、先生の引率で(かどうかは知らないけれど)軽音楽部一同の十七人が観に来てくれていた。足して十八人だ。
素直に嬉しい。
発声練習と同時にギターの指使いの準備運動をして、さあ、本番だ。
こなれてきてしまったのが災いした。
アドリブでフェイクをしたのだけど、満足のいくものはできなかったのだ。
まあ、これも経験だ。
糧にしよう。
歌いながら、ちらちらとあのおじいさんを探したのだけど、やっぱりというか、現れなかった。
きっと、こないだうちに来たから、その分ってことなのだろう。
まだ三回目なのだけど、足を止めて聴いてくれる人が増えたんじゃないかな?
軽音楽部の人を除いても。
歌いながら、そんなことを思った。
およそ二時間が、またあっという間に過ぎて、最後の曲はオリジナルで締めた。
オリジナルを歌うのは、まだ恥ずかしさは拭えないけど、モエコさん曰く
「大事なのよ」
私はそのアドバイスを真摯に受け止めて、受け止めた結果が、これだ。
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると、拍手が降ってきた。
歌って拍手をもらえるのはとても幸せなことだと、三回やって三回とも思った。
「すごいじゃない、小鳥さん。歌、上手かったわ。驚いた」
人がはけた公園の一角で、先生も、軽音楽部一同も笑顔だった。
「いや、フェイクが上手くできなかったのが課題です」
「意識が高過ぎよ、小鳥ちゃん。私より全然上手いし。かっこよかったよ」
「ありがとうございます」
三年生のARISAさんが褒めてくれて、私は礼を言った。
目を見れば、嘘ではないことが、心からの言葉であることが分かる。
優しい先輩でよかった。
ARISAさんだけじゃない。
軽音楽部一同の誰の目を見ても、すごいと称賛してくれていた。
尊敬の眼差しと言っても過言じゃないくらいの人だっていたくらいだ。
する気なんてさらさらなかった部活動だったけど、入ってよかった。
駅まで歩きながら話し、先生の号令もあって、そこで軽音楽部は解散、帰宅となる。
まあ、言われなくても私は直帰するつもりだったのだけど。
同じ電車に乗る三人と一緒に、改札口で手を振ってみんなと別れた。
男、三年生、ギターの影山さん。
女、一年生、ピアノの美和。
女、一年生、ヴォーカルのハル。
ハルは『晴子』なのだけど、『子』がどうしても可愛いとは思えないのだそうだ。
人それぞれだ。
電車は混んでいて、四人だけど私の荷物で五人分のスペースが必要で、私たちはドア前の隅っこに肩を寄せて立った。
「小鳥、ギターはどこで覚えたんだ?」
「中学の時から音楽教室に通って、そこで覚えました」
「その頃からストリート・ライブってやってたの?」
「ううん。その時は教わってただけ。歌も、ギターと並行してレッスン受けてて」
「だからか。何か、堂にいってたって言うか、様になってたって言うか、かっこよかったよ。私も歌いたくなってきた」
影山さんに問われ、美和の疑問に答え、ハルに褒められて嬉しくなった。
「音楽っていいよな。俺、ギタリストだけど、小鳥が歌ってるの見てたら、今すんげえシャウトしてえ」
「ですよね。私も刺激受けました。ああ、歌いたい。でもこの状況で歌う度胸はない」
「いや、ハルちゃん。それは度胸じゃないから、歌い出さない自分を褒めるべきだよ」
美和は大人しそうな外見で、元々はクラシック畑だったのだけど、話してみると結構ロックン・ローラーだ。
でもとんがってるんじゃなくて、優しいほうの強さを持った、いい人だ。
まだ知り合って一週間も経ってはいないのだけど、もう美和もハルも、さっき別れた明日香もREINAもチッチも、友達だ。
私が一番に下車して、ホームで手を振って見送ってから、夕方になって気温が下がってきた東京の駅のホームから、家族の待つ家に向かって歩き出した。
豪いことに気が付いた。
我が軽音楽部。
三年生、六人。
二年生、六人、一年生、六人。
六、六、六、なのだ。
獣の数字だ。
仏教ではいい数字だと博識な司会者が言っていたけど、キリスト教では不吉な数字、六六六だ。
偶然なのは分かっている。
気にすることではないのも、分かっている(そして私はキリスト教徒じゃない)。
でもなんか、幸先悪い感は拭えない。
これがこのまま災いをもたらすのか、転じて福となるのか。
私は結構こういうのは気にはする人だ。
でも、気が付いたらこないだは十三日の金曜日だった、でも悪いことなんて何にもなかった、なんてことは誰にでもあることだ。
私にもある。
しかも結構頻繁に。
そんなもんなのだ。
寝て起きたら忘れてる。
それでいい。
「じゃあ、おやすみなさい」
と私は部屋に戻って、ベッドに入った。
タオの羽は、寝ている時と、お風呂の時以外はつけている。
学校へは、どうするかとても迷ったのだけど、部活で使う小道具です、と言えば通るんじゃないかと思って、着けていった。
普段はブレザーやスクールシャツで隠すように着けて、体育の着替えの際には見られたら不味いので、トイレで外して素知らぬ顔で授業を受けた。
でも、万が一盗まれたらと思うと怖くもあった。
夏になったらどうしようか?
あれ以来向こうからの通信はないし、こちらからの通信方法は分からないしで、何の音沙汰もない。
(本当に、綺麗なんだよなあ)
まだ眠気が来る前、ベッドに入って間もなくに、タオの羽を手に取って宙にぶらんとした。
暗闇の中で揺れるタオの羽。
たぶんだけどまず間違いなく何かの宝石でできている。
もしかしたらこっちにはない素材かもしれない。
こっちにはない(あるはずもない)魔力のこもったネックレス。
昼間に着けて行った時に、服の下に入れておいて正解だったのかも、とタオの羽を枕元に置いた。
しばらくして、眠った。
夢を見た。
夢の中で私はステージに立ち、何千何万という観客の前で歌っている。
お客さんはノリノリで、私も気分よく歌っている。
そして気付く。
この衣装、魔法使いのおじいさんからもらったあの服だ。
するとどうだろう、途端に音程は外れ、声は汚いガサガサ声になり、さっきまであんなに笑顔だったお客さんたちが醒めた顔になり、バックバンドは演奏を止めて、私は思わず楽屋まで全速力で走って逃げた。
楽屋のドアを開けて、楽屋に入って、閉めた。
青ざめて、青ざめて、青ざめた。
もう泣く寸前だった。
そんな時に誰かが私の名前を呼んだ。
それはとても小さな、もしくは遠くからの声だった。
あれ?
何だろう?
今、呼ばれたような……。
私は意識を集中する。
すると、うすぼんやりとした声が徐々に大きくなっていって、やっぱり気のせいじゃない。
そう思った次に
「ミ・ユ・キ」
と、今度ははっきりと聞きとれる声で名を呼ばれ、私は目を覚ました。
瞼を開けると、金髪お姉さんことフィナさんがいた。
瞼を開けたらフィナがいた……という夢? 現実?
どっちでしょうね、フフッ。
では、また。




