27 生きてるんだぜ
これにて、第一章はお終いとなります。
では、どうぞ。
王様に夕食に誘われたのだ。
これも晩餐会と言うのだろうか?
でも私たちの服装はそれに相応しいものではなかった。
頑丈おじさんと運転おじさんは村人の服。
頑丈おじさんはプラス軽めの鎧だ。
タオジオルガは半裸で、私の服なんて、モンスターの返り血を浴びて青い染みができていたくらいだから。
だから、メイドさんが用意しれくれたドレスに着替えた。
「可愛い」
ドレスと聞いて、私はヨーロッパの貴族が社交界で着るようなデザインのを想像したのだけど、渡された服は女性シンガーのライブ衣装みたいなデザインだった。
テンションぐいぐいアガる。
頑丈おじさんたちは、ディスイズ貴族みたいな衣装だった。
「何だか痒いな」
とは、頑丈おじさんの弁。
美味しい食事。
上品な会話。
私はテーブルマナーなんて碌に知らないけれど、そんなには緊張しないでいられた。
頑丈おじさんは普段飲めない高級なお酒を、煽るように飲んでいた。
運転おじさんはカチカチで、タオジオルガが一番テーブルマナーがなっていた。
どこで覚えたんだか。
食事を終えると、王様が手を叩いて吟遊詩人を呼んだ。
歓迎の意なんだろう
ドワーフの王が竜と戦って勝利を収めた歌が歌われた。
曲が終わると拍手が飛んだ。
社交辞令なんかではない、ビニッシュ王国お抱えの吟遊詩人に対する賛辞だ。
「時にミューキー、ではなくて、ミ・ユ・キよ。そなたも歌を歌ったな。よければ一曲、歌ってはもらえぬか?」
断るなんてできない状況だったし、断る気もなかったし。
私のギター・ケースを持ったメイドさんがいつの間にか、いた。
王の願いは決定事項であるらしい。
それでも私は、お抱え吟遊詩人が勧めてくれた椅子に座った。
さて、何を歌おうか?
考えた私は、クラシックの合唱で一番日本人になじみのある、あの曲を選んだ。
一分とちょっと。
音楽は、世界を超える。
この異世界でも、優れた芸術は優れた芸術なのだ。
王様もお抱え吟遊詩人も、いかにも大臣もメイドさんたちも、言葉を失った。
当然、いい意味で、だ。
王様が立ち上がって拍手をする。
感激して泣いている者もいた。
しかも多数。
私の歌で泣いている人がいる。
もちろん、原曲の素晴らしさが最もだろう。
でも、初めてのことだ。
何だか私まで泣きそうだ。
やっぱり私は歌うことが好きだ。
「素晴らしいぞ、ミ・ユ・キ」
「ありがとうございます。王様」
「本当に素晴らしい。驚いた」
とお抱え吟遊詩人が握手を求めてくる。
この後で、アンコールに応えてさらに一曲、歌った。
拍手喝采。
興奮冷めやらぬと王様は躍り出し、みんなが笑顔になった。
そんなふうにして食事会も終わりを告げて、私たちは部屋に戻る段になった。
でも、頑丈おじさんはいかにも大臣に呼び止められていた。
何の話だろう?
私は女子なので、運転おじさんやタオジオルガとは別の部屋で着替える。
私の服についていた染みは、綺麗に消えていた。
聞くと、メイドさんやこの世界のお母さんたちの一部が使える魔法なのだそうだ。
服や何かの汚れを落とす魔法。
何も攻撃したり傷を治したりするのだけが魔法ではなく、日常の中でも使える魔法があるのだと知って、私は一つ、利口になった。
私が着替えを終えて部屋に戻ると、男たち三人は難しい顔をしていた。
「どうしたの?」
と私は訊いた。
「ああ。魔王が復活しただろ。俺にもう一度冒険者に戻ってほしいって、ドーマス大臣がな」
「言っちゃうんですか?」
「ああ。いいだろ、嬢ちゃんにだって聞く権利はあるだろ」
「まあ、そうですけど」
どうやら運転おじさんには運転おじさんの考えがあって、私には伏せたほうがいいと思っていたようだ。
「魔王か……。いろいろありすぎて忘れてたけど、世界の危機ってやつよね」
「魔王はすべての人間と歯向かうモンスターを魔王の奴隷とするつもりだ。そしてそれは誰かがなんとかしなきゃ、現実になる」
「そしてその誰かの中には、私やマグマも含まれる」とタオジオルガが言った。当然、私が通訳した。
この世界で『人間が奴隷になる』が、強い確率であるのだ。
私はそれをわかってはいなくて、もっと軽く考えていた。
反省しなければならない。
『奴隷』だ。
「グマ爺さん、また戦うの?」
「さあて、どうしようかね」
頑丈おじさんが答えをぼやかすので、私は視線をさまよわせた。
すると、盾と鎧が目に留まった。
「あれ? それって」
「ん? ああ、鍛冶師大会の優秀武具だ。装備してたやつはモンスターに吹っ飛ばされたけど、盾も鎧も無傷だったってよ。それどころか、誰でも持っている魔力を使いこなせるわけじゃないからな。これを造った鍛冶師も、具体的にどんな魔力を持っているのかは、知らないままで大会に出たらしい。何かの魔力が備わっているとは、かろうじて分かったって聞いたがな」
「なんか、冒険に出る方向に持っていこうとしてるみたいね」
「みたいじゃなくて、してるんだ」
「でも、綺麗な盾と鎧ね」
「ああ。腕のいい鍛冶師でも、百に一つ、造れるかどうかって代物だ」
「なんか、変な言い方かもしれないけど、生きてるみたい」
「おお! よく分かったな。いい武具ってのは、生きてるんだぜ」
頑丈おじさんは目を輝かせて、ぐいっと身を乗り出して、いい武器や防具について語り出した。
おかげで暗いムードはどこかへ行き、みんなに笑顔が戻る。
頑丈おじさんは身振り手振りを交えて、武具の素晴らしさや、鍛冶の醍醐味を、何にも分かってない私に説明してくれた。
それはお城を出て宿屋に戻っても続くことになる。
「とまあ、こんなもんだ。まだまだ鍛冶ってのは奥深いんだけども、それはまた別の機会に話すとするぜ。時間も時間だしな」
「マグマさんが空気の読める人で良かった。ああ、そうだ、ミ・ユ・キさん、ずっと気になっていたんです。ギルドに登録するとかしないとかって話は、マグマさんには、まだしてはいませんよね?」
「ああ、そのこともすっかり忘れちゃってた。いや、したのはしたんですけど。どうしよう? どうしたらいいと思う? 私、歌うしか能がないでしょ? だから吟遊詩人としてギルドに登録してみるのも面白いんじゃないかと思ったんだけど。危険かな?」
「危険なことも、そりゃある。冒険者として生きるのならな。まあ、さっきの吟遊詩人だって、権力争いに巻き込まれたりして、気苦労は絶えないだろうけどな」
「……私、半端な覚悟で言ってたかもしれない」
「まあ、寝て起きて、また考えてみればいい。とりあえず明日、王都を観光がてら、ギルドに行ってみるかい? 危険なこと悪いこと、ばかりってわけでもねえぜ」
「うん。そうする。じゃあ、そろそろ、私は寝るね」
と私は寝室に向かった。
この世界でも寝る時は『おやすみ』と言うのだ。
私も振り返っておやすみを言い、ドアを閉めた。
なんだかんだでヘビーな一日だったから、ぐっすりと眠れるだろうな、なんて思いながらベッドを目視しようとしたら、そこは私の部屋の前だった。
帰ってきたのだ。
スマホで時間を確認した。
時間も日付も私が異世界に飛んだ時から十秒も経ってはいない(と思われる。飛ぶ前に時刻を確認したわけじゃないから分からないけど)。
私はやっぱりさっき閉めたドアを開けた。
そこは私の部屋だ。
なぜだか、少しだけ寂しくなった。
そうしていると、玄関の鍵が開く音がした。
おじさんとおばさんが帰ってきたのだ。
声もする。
私は階段を下りて迎えに行った。
エコバッグをキッチンまで運んで、雑談をしながら冷蔵庫に入れるべきものを冷蔵庫に入れて、食材がこれなら、さて、何を作るのかと考えて、声を上げた。
上げずにいられるわけがない。
(ギター、向こうに置いたまま?)
ね。
上げずにいられるわけがないでしょ?
悲しい、寂しい、そう思った方がいてくださるなら、泣くほどうれしいです。
そんな方に朗報です。
第二章、すぐに始まります。
では、また。




