第二章 1 再びの
台風とか地震とか、大変なこと続きで、皆さん心の調子はどうですか?
世界平和、世界平和、世界平和。
では、どうぞ。
「どうしたの? 美優姫ちゃん」
「ギター、忘れてきたかも」
「ええ!」
「分からない。部屋にあるかもしれない。ちょっと確認してくる」
私は走った。
階段を駆け上り、勢いよくドアを開けた。
あった。
良かったあああ。
安心して力が抜けて、その場にへたり込んだ私。
すると、顎の下で何かが揺れた。
タオファルジオ様からもらった、あのネックレスだ。
ネックレスは変わらずに虹色で、変わらずに綺麗だ。
そのネックレスが、虹色の光を放った。
まず淡く小さくぼんやりと光って、少しだけふわっと浮き上がったと思ったら、いくつもの小さな光の粒が泡ぶくみたいに弾けた。
私は『怖い』ではなく『また不思議なことが起きるんだ』ってワクワクした。
光は徐々に強くなっていって、
(あ、窓から光が漏れたら、なんか不味いかも)
と思った次に、私を卵の殻のように包んだ。
そして、声が聞こえてきた。
タオジオルガの声だ。
「ミユキ、聞こえているか?」
「うん。聞こえてるよ」
「ミユキは本当に異世界から来たんだな。マグマから聞いた。あの人、私の言葉が分からないのに、私に向かって一生懸命になって説明するんだ。マグマには悪いが、笑ってしまったよ。ジッポーには、席を外してもらったよ。悪いけどな」
「このネックレスの力なのね。会話できてるのって」
「ああ、その通りだ。そのアイテムは『タオの羽』という名前だ。そのアイテムを持つ者と、タオの血が流れている者とが、離れていても会話ができるようになるアイテムだ」
「貴重なものなんじゃないの? 私がもらってもいいものなの?」
「ああ。遠慮はするな。母様がミユキに贈ったものだ。意味はあるのだ」
「今、そっちはどんな感じ?」
「寝室に入ったはずのミユキがいなくなって、大騒ぎをした後だ。殺し屋に仕返しをされたんじゃないかってマグマが言い出してな。でも窓も閉まったままだし、人が入った気配もない。煙のように消えてしまって、そうしたらマグマが言ったというわけだ」
「うん。私もどんな条件がそろったらそっちからこっちに来るのかは、分からないの。だからこちからそっちに行く方法も分からないの。ただ分かることは、私が自分の部屋に、こっちの世界の私の家で、自分の部屋に入ろうとした時に、こっちとそっちが繋がるってことくらい」
「そうか。自分の家か。当たり前だが、ミユキにも家族がいるんだな」
「うん。……でも、本当のお父さんとお母さんじゃないの。お父さんの弟、おじさんの夫婦に、養ってもらってるの」
「そうか。それは悪いことを訊いたな」
「ううん。タオジオルガがお母さんに『愛してる』って言った時、分かるって。ああ、いい親子なんだなって。タオファルジオ様もタオジオルガに『愛してる』って」
「ああ。私たちにとっては当たり前なのだが、人間はそうではないのか?」
「うん。親子ででもあんまり言わないわ、愛してるって。でも私は言いたい方。だからタオジオルガがお母さんと愛してるって言いあった時に、いいなあって、思った」
「そうか。今、マグマが後ろで何か話したがっているんだが、私が私の言葉で『ミユキに伝える』と言っても伝わらないし、このアイテムを使えるのは朱色瑞鳥族の者だけだからマグマが自ら話すことはできないし」
「ボディランゲージで何か喋ってみろって言っても、伝わらない?」
「やってみる」
五秒後。
「嬢ちゃん、元の世界に戻ったんだな。いいことだ。こっちの心配はするな。でも、オリハルコンの恩はまだちょびっとも返してねえ。またこっちに来ることになったら、きっちり返すからな。元気でな。だそうだ。面白い人だな。そしていい人だ」
「うん。あ、え? 光が薄くなっていく。これってもう通話は終わりってこと?」
「ああ、どうやらそうらしい。この世界とミユキの世界とを繋ぐのには、通常以上のエネルギーが必要なようだ。こんなにも短い時間で通話が途切れるのは初めてだ。まあ、また次がある。お互いの無事が確認できただけ、よかったよしよう。通話が完全に途切れる前に、何か言いたいことはあるか?」
「ううんと……、すぐには思いつかないわ」
「それでもいい。また何かあったら連絡する。本当はミユキとともにそっちに行きたかったのだが、それは無理なようだ。私はマグマたちと行動をともにする。きっとまた逢えると、そんな予感がするんだ。さらば」
私も返事をしたかったのだけど、その前に光は消えた。
通話も途絶えた。
来週からは学校も始まるけど、タオの羽をつけて登校するわけにもいかないよね。
一応持っては行くけど、見つからないようにしなきゃ。
持ち物検査なんてされたら、どうしよう。
でも、見れば見るほど、綺麗だ。
「美優姫ちゃん、ギターあった?」
階下からおばさんに言われて、私はびくりとした。
「うん。あった。驚かせちゃってごめんなさい。でも、私のほうが驚いたよ」
部屋を出て階段を下りながら、私がおばさんに言うと、リビングから声がした。
「え⁉ ギター失くしたの?」
「違う。そう思って慌てふためいたの。ふふ、美優姫ちゃんの驚いた顔」
「おばさんだってかなり驚いてたわよ」
「スペアを買っておこうかな」
心配性のおじさんは少しピントがずれていて、そこも面白い。
私もキッチンに立って、まだまだ教わりながらだけど、料理を作った。
この家に住まわせてもらって何もしないのが悪いからというわけではなくて、女子としての嗜みだ。
ふと、向こうで私の料理って、儲かるんじゃないかな?
と閃いた。
向こうでの指折って数えられるくらいの食事だったけど、食材も調味料も似たようなものはあったし。
そしてすぐに気が付いた。
似たようなものがあるんじゃ、駄目なんじゃん。
まあ、私の閃きなんて、こんなもんだ。
夜になりお風呂に入って、思った。
シャンプーばんざい!
明日は詰め替え用のボトルを買いに行こう。
おじさんとおばさんにおやすみを言った時に、六時間前にも言ったのに、ちゃんと眠たかったのに、こっちに来たら眠気なんて飛んじゃってた、とまた気が付いた。
部屋の電気を消して、これはどういうことが作用してるのか?
なんて答えが出ないことを考えていた。
足を動かして、自分の足が動いたことに驚いて、目を覚ました。
ああ、私、眠りかけてたんだ。
ぼんやりとカーテンを見てから、寝返りを打った。
白い人影が、そこにあった。
幽霊じゃなくてよかった。
いや、よくはないけど。
幽霊と遭遇、なんて超常現象が自分の身に起きたら、私はたぶんひっくり返るだろう。
それは幽霊じゃなくて、私の中では確定している『魔法使いのおじいさん』だった。
初ストリート・ライブの時に倒れた、握手をした、あのおじいさんだ。
そんな時、大多数の人は驚きのあまり声を上げて跳び上がったり、恐怖に震えて呼吸も忘れて凝視したりするのだろうけど、私は
(ああ、来たんだ)
くらいにしか思わなかった。
思えなかったのほうが正しいのかな?
おじいさんは何も言わずただ微笑んで、私も何も言わずにただ見ていて、視線が交わるだけだ。
数秒の沈黙の後、机の上を指差して、おじいさんは去っていった。
ドアをそっと開けて、そっと閉めて。
玄関の鍵はどうするのかまでは考えが回らなかった。
私はまったく騒ぎもせずに、用がすんだんだから、と瞼を閉じた。
翌朝、机の上には、ちゃんとあった。
何があったのか? 特筆すべきことではないので
過剰に期待されてしまうと「すみません」て感じなんすけど……。
では、また。




