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26  清らかな心

鍛冶師大会は、幕を閉じました。

そして……。


では、どうぞ。

 馬車が走り出すと、ふうとひと息ついた王様に笑顔が戻った。


「久しいな、グマ兄ちゃん」

「本当に」

「まさか鉄格子越しに再会するとは思ってもいなかったな」


 王様がそう言うと、二人は声をあげて笑った。

 なんかフランクじゃない?

 ていうか、グマ兄ちゃん?


「私ももう四十を超えてしまったよ」

「俺も八十を超えた」

「見た目、グマ兄ちゃんは変わってないけど、私は腹が出てきてしまって、人間は四十になったらもう立派なおじさんだ」

「ああ、老けたな」

「ひどいがその通りなんだ」


 また笑った。

 なんか、旧知の仲、みたいだ。


 運転おじさんがいたならこっそりと耳打ちでもしたいところなんだけど、馬車は四人乗り。

 王様と頑丈おじさんとタオジオルガと私が乗ると定員になってしまう。

 だから運転おじさんは、御者席で王様の馬車を操る御者の技術を学びたいと言って、私たちに譲ってくれたのだ。

 タオジオルガはモンスターだし人間の言葉をどれだけ理解できているのかは分からないけれど、私を護衛すると譲らなかったし、なんてったって王様の命を救った恩人ならぬ恩モンスターなのだ。

 王様も希望したので、こうして座っている。


 話を聞いていると、また話しかけられて、いろいろな事情というか、王様とグマ爺さんの関係が分かった。

 王様がまだ十代の半ば、つまり今の私と同い年だった頃に、グマ爺さんに武術の指導を受けたことがあって。

 グマ爺さんと一緒にダンジョンに潜って足を引っ張って。

 その失敗を教訓にして、政治の勉強に力を入れるようになって。

 グマ爺さんの土産話の冒険譚に胸を躍らせて。

 グマ爺さんお手製の食器や花瓶を今でも大切にしていて、などなど。


 どうやらグマ爺さんは、先代の王様にも気に入られていたらしい。

 冒険者として、鍛冶師として、それはとても名誉なことだと私にも分かる。

 王様は王様なのに、まったく威張ったところがなくて、くりくりとした目をきらきらとさせて喋る姿は、やっぱり年齢よりも幼く見えた。

 でもこんなこと言ったら不敬罪とかで罰せられるかもしれないから、それは心の中で留めておいた。


 何かの事情(といっても父親大臣がらみだろうけど)があって長年会えずにいた二人の話に割って入ることはできなくて、私は聞き役に徹していた。

 割って入ってまで聞きたいことなんてなかったし、二人の話を聞いているのも面白かったし。


 ちらっとタオジオルガを見た。

 それに気づいたタオジオルガも私を見た。

 そしてこう言った。


「二人の話は、面白いな」


 それがモンスターの言葉だったので、王様と頑丈おじさんの話がピタッと止まった。


「ああ、二人の話、面白いって。って人間の言葉、そこまで理解できてるの?」

「すべてを完璧に理解することはできないが、ある程度なら、分かる」


 それをまた通訳する。

 と、


「そうか、ならば今も礼を言おう。そなたのおかげで私の命は救われた。ありがとう。褒美を受け取ってほしいのだが、何か欲しい物か、叶えたい願いは、あるか?」


 そう王様が訊いて、タオジオルガは考え始めた。

 考えているうちにお城に着いた。


「時間はある。よく考えるがよい」

「いや、王よ。私への褒美はいいから、私の分の褒美をミユキに与えてやってほしい」


 それを通訳すると、王様は感激した。


「何という清らかな心の持ち主か。虹色瑞鳥様のご子息ということは『王子』であるわけだ。モンスターではあっても、国賓として迎えよう」


 王様がぐっとタオジオルガの手を握るので、ドアを開けた人が驚くことになる。


 ここで私たちは、式の準備が整うまでの間はと、控え室だろうか? に通された。

 手持ち無沙汰だからか、頑丈おじさんはタオジオルガにいくつかの質問を始め出す。

 通訳をするのはもちろん、私だ。


「歳はいくつだい?」

「人間の言葉は、話せもしないのに、どうやって意味を理解するんだい?」

「お前さん、相当強いな。武術はどこで覚えたんだい?」


 何だか楽しそうだ。

 歳は八か月。

 驚きだ。

 言葉は、時が来れば話せるようになるそうだ。

 ひな鳥が成長とともに自然と羽ばたくことができるようになるように。

 意味も物心がついた時には理解はできるようになっていたから、なぜだかは説明のしようがないらしい。

 武術は主に見て真似ることの繰り返しで身に着けたそうだ。

 そこで私が口を挿んだ。


「私がタオジオルガに話しかけてる時って、人間の言葉で喋ってるの? モンスターの言葉で喋ってるの?」

「人間だ」

「ああ、そうなんだ。いや、私がタオジオルガのモンスターの言葉を人間の言葉として理解できるように、私の言葉がモンスターの言葉に変換されてタオジオルガに伝わってる、つまりは、私が人間の言葉で喋ってるつもりが、モンスターの言葉で喋ってるのかなと思って」

「ああ、そういう意味か。いや、ちゃんと人語で喋ってるぜ。ところでもう一個、質問、

いいか? お前さんは人型の姿をしているが、お前さんの母ちゃんは鳥の姿をしていた。お前さんは鳥の姿にはなれるのかい?」

「なれるって言ってる」

「そりゃいいな」


 頑丈おじさんは運転おじさんと顔を見合わせて笑った。

 笑っているとドアをノックされた。

 準備が整ったようだ。


 そして私たちは王の間へ。

 王様の顔は、心なしかさっきよりもきりっとしている。

 王様の前まで行くと、頑丈おじさんと運転おじさんが片膝をついて畏まったので、私も倣った。

 タオジオルガも同じくした。


「知っているとは思うが、鍛冶師大会の優勝者には実現可能なものなら何でも、ただし一つ、願いを叶えることになっている。マグマよ。そなたの願いは何だ?」

「それが王様。私めの願いは、もう叶うことになってしまっているのです。私は、クリミネンの領主の悪行を白日の下にし、救済を願おうと、そう思っていたのです。しかし、それはもう王様自らが皆の前で宣言された通りです。でもずっとそのことしか考えてはいなかったのです。だから私はいったい何を願えばよいのか、分かりません」

「ハッハッハッハッハッハ。愉快。民の幸せを願って、自分の幸せは二の次か。よし、そなたの願いはまた別の機会に叶えるとしよう。新しい願いができたなら、遠慮なく申せ。それとは別に、褒美をとらそう。まず、賞金百万ジュード。これはシグマを造った最優秀鍛冶師が受け取るべき正当な報酬である。遠慮せずに受け取ってくれ。次に、ここビニッシュ城にある鍛冶場と鍛冶に必要な素材の使用を認めよう。自由に使い、またシグマのような素晴らしい武具を造ってくれ。期待しているぞ」

「は。ありがたき幸せです」

「また、タオジオルガ。そなたは先ほど私の命を救ってくれた。命は何物にも代え難いもの。言葉や態度だけでなく、品として示したいのだが、何か欲しい物はないか?」


 それに対してタオジオルガは、先と同じ質問をするのはなぜか?

 と私に訊き、私は、さっきのあなたの言葉を、公のものにしたいからよ、同じ答えでいいはずよ、と答えた。


「いや、王よ。私への褒美はいいから、私の分の褒美をミユキに与えてやってほしい」


 広間に感嘆の声があちこちから上がる。


「うむ。立派な心だ。聞くとそなたは虹色瑞鳥様の息子、つまりは朱色瑞鳥族の王子だ。

私の命の恩人の、しかも王子なのだから、国賓として扱うことを約束しよう」

「は。ありがたき幸せです」


 タオジオルガがそう答えたと伝えると、王様は私にウインクをしてみせた。


 こんな感じで鍛冶師大会優勝者の王への謁見はつつがなく終わった。

 この後で、本来ならビニッシュ城の鍛冶場や素材置き場などを鍛冶師に説明するらしいのだけど、頑丈おじさんはすでに知っているので、それは端折られた。

 もらった賞金の金貨一万枚はさすがに持てないし、持ち歩くのは物騒なので、銀行に預けておくと計らってもらえた。


 だけどそれで、はい、さようならとはならなかった。


ちょっとしたことかもしれませんが、

王様と頑丈おじさんの関係とか、いくつか明らかになりましたね。

合点がいかない部分もあったかもしれませんが、考察していただけると嬉しいです、


では、また。

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