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23 虹色瑞鳥、現る

収容人数一万人を超える闘技場全体に影を作る大きさ。

想像してからお読みいただけたら嬉しいです。


では、どうぞ。

 その鳥は、その大きさもすごいのだけど、特筆すべきはその美しさだ。

 全身を覆う羽毛は虹の七色のようなグラデーションで、ときに金から白金、桃金色をも発していた。

 目は三つあり、そのどれもが透きとおった海のような深みのある青色だ。

 尾羽は長く、広げられた翼と同じく煌いている。

 まるで神様が美の粋を極めるために創られたモンスターだと思った。

 いや、この鳥こそが、神様の化身なのかもしれない。


 その鳥が、喋った。


「我は朱色瑞鳥の長、一万年に一体しか生まれない虹色瑞鳥だ。お主らに聞かせる名はない。さて、ドワーフよ。お主は今も二体のモンスターを殺した。どうだ?」

「どうだって言われても……、殺したくて殺したわけでは、ありません」

「ふむ。では、そこの王よ。モンスターを武器の試し切りに使って命を奪うことを、何と思うのだ?」

「……奴めは人を殺したモンスター。殺さなければ、またどこかで別の人間が殺されてしまいます。殺すほかに道はありません。どうせ殺すのですから、人の見ていないところで殺すより、試し切りの相手として使ったほうが、武器の威力を知らしめることができますし、観客も喜びますし、死刑を執行することもできます。だから、私は許可したのです」

「そのモンスターが、人など殺していなかったなら、どう思う?」

「……殺していなかったなら? ……殺していなかったなら……。命を奪うなど、たとえモンスターであろうとも、してはいけないことだと、思います」

「ふむ。そして王よ。事実、一つ目の巨人も、岩石のモンスターも、人など一人として殺しては、いないのだぞ。それをどう思う?」

「……しかし私は、人を殺したと報告を受け、それならばと……」

「つまりそこの小男の悪知恵と、そういうわけか」


 その場にいる全員の目が、父親大臣に注がれた。

 父親大臣の顔中の脂汗。

 悲鳴を上げないでいられるのはせめてもの意地だろう。

 それを証明するように、父親大臣はブルブルと震えているのを悟られないようにしていることを悟られている。


「小男よ」

 と虹色瑞鳥様は語りかけた。

「はい」

 と父親大臣は答えた。

 小声だとビビっていることがばれるからと、大声で。

「お主が岩石のモンスターにつけたあの赤き水晶。あれがあのモンスターを死に追いやった。それをどう思う?」

「あれは……可哀そうなことをしたと……。でも、あれもあのモンスターも望んでやったことなのです。決して無理矢理にしたわけではありません」


 やっぱり大声で、しかし体裁を取り繕うように、平静を装った声で、答えた。

 その精一杯の見栄の張り方も、たった一言、優しく恫喝されただけで、しゅんと萎んだ。


「そのような嘘に踊らされる我だと思ったか?」


 言葉を失い俯く父親大臣の代わりに、虹色瑞鳥様が話した。


「正直に答えよ。安楽の死を与えよう。我の癇に障る答えならば、苦痛に満ちた死を、与えよう」

「どちらも、死?」

「生きたいのなら、罪を認めることだ。お主、二年前も、モンスターを殺したな」

「……」

「クリミネンという町で、罪のないモンスターの、それも子どもを、拉致し虐待するように入れ知恵したのも、お前であろう、小男よ。次はないぞ」

「私がしたことはすべて、愛する我が子のため。親として子の幸せを願うのは当たり前ではありませんか。そもそも王が、我が息子セラジェスを左遷などせずに、ドーマスを贔屓などせずに、私の顔に免じて事態を小さく収めてさえいれば、こんなことにはならなかった。そう、ならなかったんだ! 悪いのは私じゃない。王だ」


 風魔法の力で、その場にいた全員に聞こえている。

 みんなの目が、はっきりと言っている。

 悪いのは、誰かと。


「それ、本気で言ってるの?」


 誰も何も言わないでいるから、私は我慢ができなくなって、訊いた。

 だって父親大臣は自分のした罪すべてを無罪にして、責任は王にあるって、そんな言い草……。


「煩いぞ、小娘風情が!」

「お前のほうがよほど耳障りだぞ。小男」


 虹色瑞鳥様の額の三つ目の目が、父親大臣をしっかりと見据えた。


「我の目を欺くことはできない。だから分かる。この男、本気で自分が正しいと思っている。自分の言っていることが間違っているなど、微塵も思ってはいない」

「そうです。その通りです。そして事実、私は正しい。そうでしょう?」


 得意になった父親大臣が動かなくなった。

 その後、父親大臣は、独り語り出した。

 それは、自分の意志とは関係なく口が動いているという感じだった。

 父親大臣は驚いた目で、何とか口を塞ごうとした手が、気をつけのようにぴんと、まるで誰かに押さえつけられているかのように伸ばされたりしていた。

 虹色瑞鳥様が何かしたのだ。

 間違いなく。


「二年前のクリミネンのモンスター襲撃事件は、私が仕組んだものです。息子に手柄を上げさせるためと、クリミネンの前領主はドーマス派だったので、邪魔者を消すためです。モンスターの命など、息子と私の名誉のためなら、軽いものだと思っております。虐待されて悲鳴を上げたモンスターを見て、愉快でした。もっと叫べと思いました。クリミネンの民が他の町に流れるような統治をさせたのも、私の指示です。王都の人口を増やすことと、クリミネンの再構築のためです。クリミネンをセラジェスを王とする町に、そして私がクーデターを起こし、王を殺した後の住居として相応しいものにするためです。

 先ほどの一つ目の巨人は、人など殺しておりません。逆です。私の指示で、私の手の騎士が、奴の子どもを殺したのです。暴れさせるために。思い通りに、マーセッツがやられて、愉快でした。それだけの駒です。王に手を下すのは自らの手でやりたかったので、鍛冶師大会の優勝者に褒美を与える時に、衆目の前でにっくき王を殺すつもりでした。少し違ってしまいましたが、まあ許容の範囲内ということと思いました。そして今、こうなっているわけです」


 そこまで白状すると、虹色瑞鳥様の力から解放されたようで、はっと口を押さええた。


「今のは全部、本心ではない。操られた結果だ。無論、事実でもない」


 そんな言い訳を、信じる者は一人もいなかった。

 客席からの怒涛のブーイングに、あわあわとした父親大臣は、この数分で十歳は老けたように見える。


「小男、お前のしたことは、人でも魔物でも許されることではない。よって罰を与える。自業自得だ」

「ひいい、お助けを」

「駄目だ」


 虹色瑞鳥様の圧力に腰を抜かした父親大臣の前方、十メートルくらいに、天使の梯子みたいな光が差して、そこに一体のモンスターが姿を現した。

 虹色の冠羽を持ち、人の顔をした、でも髪と腕が羽毛で覆われた(足は服で隠れている)鳥人間といった風貌だ。


「ひいい」


 後ずさりをする父親大臣。

 これから殺されるのだ。

 死刑に処されるのだ。

 同情の余地はない。

 

 でも、私は目を背けた。

 人が殺されるところを見たくないと思ったから。

 いや、目を背けようとして、確認した。

 父親大臣が懐から短剣を出して、王様に襲いかかるところを、だ。


「殺してやるううううううう」


 そして、胸を貫かれた。

 父親大臣の胸が、鳥人間モンスターによって、だ。

 吐血して、胸を見て、信じられないという表情をして、倒れた。


「最後の最後になっても、悪党は変わらず悪党だってこったな」


 頑丈おじさんが岩石のモンスターの遺体からシグマを取って、着ていた服を、顔を隠すようにモンスターの頭部にかけた。

 裏切った人たちはがっくりと項垂れ、王様の護衛の人たちは、一つ目の巨人の頭部を分断された体に持っていって、何かつぶやいた。

 たぶんだけど、冥福を祈る言葉だ。

 虹色瑞鳥様の圧とはまた違う圧力が、闘技場を沈み込ませていた。

 そんな時だから、なおさらこの人が話さなければならなかった。


 王様だ。


王様は王様として一体何を語るのか?


では、また。

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