21 四者四様の矛先
二話投稿の二話目です。
では、どうぞ。
「セラネス、お主、自分がしていることが分かっているのか!」
と王様が問い質す。
「王よ、あなたこそご自分がなさったことをお忘れになられたのですか? 先王からこの国に仕え、あなた様がまだ十にもならない頃からあなた様を支えてきた、この、このセラネスを、あなた様は罰したではありませんか。私はそれでも一度は我慢しました。でも、これで二度目です。このような屈辱を、耐えられぬ痛みを、あなたは私に味わわせたのです。王よ、ああ王よ、あなたこそ、ご自分がなさったことをお分かりになっていらっしゃるのですか?」
「私が何をしたと言うのだ?」
「ああ、何たる愚昧」
「王に向かってその口は何だ!」
と騎士さんの一人が叫ぶ。
「黙れ騎士風情が! 私を誰だと思っているのだ! お前には後ほど地獄というものを見せてやろう」
「下がっておれ。私が話をしよう。もう一度問おう。私が何をした?」
「あなたが私の息子にしたことをお忘れか! 三年前のあの日、息子、セラジェスは、このビニッシュ王国初の、十代での副大臣になるはずだった。それが、何ということであろうか、ドーマス派の陰謀によって港町ザンベルの副町長に左遷されてしまった。あなたが愚昧であるばかりに。我が息子の胸中を慮ってみてください、王よ」
「しかし、あれは致し方のないことであろう。セラジェスがしたことを考えてもみよ。私はあれでも善処したのじゃぞ。でなければ副町長の地位で留まらせておくことなど、できはしない。そうであろう?」
「あなたはそうやって『ドーマスの掌の上で踊らされている』という事実に気付けもしない。ああ、嘆かわしい」
父親大臣は芝居のような仰々しさで嘆息する。
「セラネス殿、それは偏見というものですぞ」
と駆けつけたいかにも大臣が言う。
「おお、ようやくのご登場だ。我が子を陥れた悪大臣め」
「ならば、我が子の失態を逆恨みし、あまつさえ王に対するさんざんな不敬。それはどういう理屈で正当化するのですか?」
「おお、王よ、みなの者よ。大臣であるドーマスはこういう詭弁で責め立てるのだ。宮廷ではこのような悪質で陰険な非道がまかり通っているのだ。この事実をどう思われるのですか? 王よ、お聞かせ願いたい」
「王が答えるまでもありません。知性のある者が聞けば百人中百人が、セラネス殿の言っていることの異常さに気付けるはずです。それならば、こちらこそお聞かせ願いたい。クリミネンの領主となられたあなたのご子息、セラジェス様が、領主となってからのこの二年間で、クリミネンで起きた事件の数々は、どう弁明なさるおつもりか」
「事件? 何を言っているのだね?」
「おとぼけになるおつもりか? とぼけ切れるとお思いか? 王よ、あちらにいらっしゃるマグマ様の関係者席に座っていらっしゃる紳士と若き女性が、クリミネンの民から集めた陳情書をお持ちになっておられます。これはクリミネンの民であり、この鍛冶師大会で優秀鍛冶師に選ばれた、マグマ様が王に陳情するために集められた、セラジェス様がクリミネンの領主になられてからの、町の荒廃振り、王国騎士団の傍若無人な振る舞い、そして、クリミネンの町がモンスターに襲われるようになった、その原因が、その真実が、書かれている陳情書なのです。これを読めば、セラネス殿に申し開きの余地がないことが、お分かりいただけると、私は思います。さあ、すまないが、こちらへ」
「え? え? え? え?」
と私は護衛の騎士に連れられて、運転おじさんとともに闘技場へ降り立った。
「王様、こちらになります」
と運転おじさんが陳情書を差し出した。
「うむ」
と王様が受け取って、読もうとしたときに。
「フフフフフ」
と父親大臣は気味の悪い嗤い方をして、続けた。
「王よ、ああ王よ」
「どうしたというのだ? セラネスよ」
「私はこの国に忠誠を誓ってきた。先王と現王であるあなたに、命をささげる覚悟で、今まで尽くしてきた」
「うむ。よく知っておる」
「でも、あなたにとって私は、単なる一家臣でしかなかった。いや、一家臣でさえもなかった。私の忠誠心を、何にも分かってはいなかった。軽んじていた。私が人生をかけて捧げたものを、まるで服に着いた砂のように払いのけた」
「それは違うぞ、セラネスよ」
「いいや、私の尊厳は踏みにじられた。そうだ、そんな王なら、もう殺しちゃえばいいじゃないか。それが答えです、王よ。キィーヒッヒッヒッヒ」
その嗤い声までもが、風魔法によって闘技場内に響き渡って、私はあまりの怖さにギター・ケースを抱きしめた。
父親大臣は、懐から赤い小さな水晶のようなものを取り出した。
そして叫んだ。
「今日ここで私はクーデターを起こし、新たな王となる!」
ローブをかぶったままだった四人のうち三人がローブを脱ぎ捨てて、三人がかりで一番の大男のローブを剥ぎ取った。
現れたのは大男ではなく、モンスターだった。
そのモンスターの額に赤い水晶のようなものを押し当てて、父親大臣は言った。
「あのドワーフがお前の仲間である一つ目の巨人を殺したのだ。それをさせたのはあの冠をかぶった男だ。鎧を着た者たちも、ローブを着た者たちも、お前の仲間を殺した奴と同罪だ。慈悲の余地はない。さあ、本能の赴くままに、殺してしまえ」
大人しく目を閉じていたモンスターは、かっと目を見開いた。
赤い水晶のようなものが額に吸い付き、目が真っ赤に血走っている。
父親大臣の反乱の中で、それでも王様は優しかった。
「分かったぞ、セラネスよ。モンスターに操られているのだな? 正気を失っておるのだな? モンスターを倒せば、正気に戻るのだな?」
「嬢ちゃん、俺の後ろにいな。ローブを着ていた奴らは、二人が宮廷魔術師、一人が王国騎士団員だ。いや、だった、だな。あのモンスターは、まず間違いなく、俺を狙ってくるだろう。俺はモンスターを倒して、それから王国側の騎士・魔術師と力を合わせて、敵を叩く。でも嬢ちゃんが人質に取られたら、元も子もねえ。形勢を見て、逃げるべき時に逃げろと言う。それまでは、俺の後ろだ。分かったな」
頑丈おじさんは冷静に指示してくれた。
でも、聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で、本音を言った。
「あの野郎が元凶だ。許さねえ」
そう、二年間に山のように積もった恨みが、噴出してしまったのだ。
王様を憎み殺そうとする父親大臣。
父親大臣の謀反をモンスターのせいだとする王様。
仲間のモンスターを殺した頑丈おじさんに怒りを向けるモンスター。
頑丈おじさんは父親大臣への積年の恨みが爆発しそうだ。
(でも、なんか、違う)
そう思いながら、私はただただ震えていた。
トラブルさえなければ明日も投稿するつもりです。
楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、また。




