20 命の重さ
パソコンが故障してしまって、投稿できませんでした。
楽しみにしてくださった方、すみません。
二話投稿の一話目です。
では、どうぞ。
まず、ユニーク髭男が一人一人紹介する。
観客のボルテージは上がり、悲鳴とも言えるような歓声が、あちらこちらから投げかけられている。
鍛冶師たちは、ある者は照れながら、ある者は手を振って応える。
何と言ったって、この時点で『優秀鍛冶師』の称号をもらえることが決まっているのだ。
誇らしくもあって当然だ。
決勝に残った武具は、剣が四本、槍が一本、斧(頑丈おじさんのものだ)が一つ、鎧が三つ、盾が二つだった。
そのうち、魔力を持った武具は、斧と鎧と盾が一つずつだ。
つまり、頑丈おじさんのシグマは、今大会で一番優れた武器だということになる。
とてもいい気分だ。
武器が六つ、防具が五つ。
どうやって優劣を決めるのか?
ここで王国騎士団と宮廷魔術師団の登場だ。
「皆様、盛大な拍手を! 我がビニッシュの騎士と魔術師です。彼らの剣、魔法、それらによって、決勝に残ったこの武具が、いかに優れているか、その素晴らしさを競って、その結果によって、今鍛冶師大会で一番優れた武具を決めたいと思います」
騎士さんは演武で武器を振るった後で、模擬戦を行い、魔術師さんは火、水、風、土の魔法を武具に向かって放った。
案の定、と言おうか、魔力を持った斧、シグマと刃を交わした剣と槍は砕けてしまったし、魔力を持っていない防具は、魔法攻撃を受けて、粉砕、とまではいかなかったとしても、破損してしまった。
無事に残った武具は三つだけ。
斧の『シグマ』、鎧の『刃砕き』、盾の『火竜鱗』。
さあ、優勝は?
どうやって決めるの?
どれが選ばれるの?
その選び方が発表されて、私は嫌な気分になった。
「そして、今大会では、あらたにこちらを用意いたしました。では、登場いただきましょう」
ユニーク髭男が手で示した先には鉄柵があって、そこから獰猛な獣かモンスターか、という生き物の唸り声が聞こえてきた。
子どもだけでなく大人の中にも唾を飲む者がいた。
出てきたのはモンスターだ。
青い体をした、一つ目の巨人だ。
「このモンスターは、先日、人間を襲い殺した凶悪なモンスターです。ご覧の通り屈強な肉体で、皮膚は鋼の如し。残った二つの防具が本当に優れているのなら、あのモンスターの攻撃を受けても耐えられるはずです。唯一残った武器が本当に優れているのなら、あのモンスターの固い皮膚を切り裂き、殺人の罪を受けさせることができるはずです。まずは防具。防具から試していこうと思います。といっても鍛冶師は鍛冶師。戦いでは王国騎士団の団長、我らがエピリウス・マーセッツには、さすがに敵いません。そこで、騎士団長にこの優れた防具たちを装備していただき、一つ目の巨人と戦い、見事、その防具の素晴らしさをお披露目していただきましょう」
「ねえ、ジッポーさん、あのモンスターを、殺すってこと?」
「そうなりますね。今は防具の品定めですけど、マグマさんの武器であるシグマを品定めする時は、シグマを使ってあのモンスターを、殺すことで、そのすごさを周知の事実とすることでしょうね」
「そんなの……。いくら人を殺したモンスターだからって、殺すところを見世物にするなんて……」
元々、闘技場は奴隷や剣闘士たちが命のやり取り、つまりは殺し合いをする場所だ。
その時代時代や世界の観念によっては、正当化されるものなのかもしれない。
死刑に値する罪人への罰としてならば、法的にも許されることなのかもしれない。
私が甘いのかもしれない。だけど……。
そんな私の気持ちを知らずに、ユニーク髭男が声高らかに煽る。
「さあ、それでは、モンスターを解き放っていただきましょう。私たちは避難します」
その声に他の鍛冶師が避難する中で、頑丈おじさんは拳を握って立ったままだった。
騎士さんたちが強引に腕を引き、何とか頑丈おじさんも避難させた。
闘技場には団長のマーセッツさんと騎士さん、魔術師さん合わせて十一名と、一体のモンスターのみとなった。
鎖を解かれたモンスターは、また唸り声を上げて殺気をまき散らした。
数歩歩み寄ったマーセッツを敵と見なしたようで、身をかがめ、戦闘態勢に入った。
あのモンスターが殺されるところを期待する観客。
だけど、まずは防具の性能を見るためのショーとなる……はずだった。
一つ目の巨人は、その体躯からは想像もつかないスピードで、マーセッツに突進した。
そして一撃。
たったの一撃、力いっぱい握られた腕の一振りで、マーセッツを吹き飛ばしたのだ。
「そんな馬鹿な……」
そうつぶやいたユニーク髭男の声も、風魔法の効果によって闘技場にいる全員の耳に届いていた。
「馬鹿なって?」
と私は運転おじさんに訊いた。
「一つ目の巨人は強力なモンスターではありますが、マーセッツに敵うほどではないのです。事実、今までマーセッツは幾度となく一つ目の巨人を倒してきたのです。この闘技場で。それが、一撃とは……」
闘技場は、水を打ったようだ。
観客は呼吸さえ忘れたように顔を青くしている。
だけど、モンスターはまだ暴れ足りないというように雄叫びを上げた。
次の標的を騎士さんと魔術師さんに定めたようだ。
振り上げた両の手を、大地を割らんとばかりに叩きつけた。
身構えはするものの、明らかに尻込みをしている騎士さんと魔術師さん。
そこに風に乗ったかのように現れた影が一つ。
頑丈おじさんだ。
「何をしている。マーセッツの救助を。まだ死んではいないだろう。回復魔法で助けてやれ。お主ら騎士たちは観客に被害が出る前に退場させよ」
そして、シグマを高々と掲げた。そして雄々しく叫んだ。
「紫熊の咆哮!」
シグマが紫色に眩く光った。
闘技場にいる全員と、もしかしたら闘技場の外、何十メートルも何百メートルも離れている人たちにまで、聞こえたはずだ。
獰猛な熊の叫び声が。
それは一つ目の巨人の動きを止め、呼吸を忘れた観客たちに精気を取り戻させた。
頑丈おじさんは言った。
「なあ、あんたがいかに人を殺したモンスターとはいえ、殺すのは忍びない。だが、それ以上暴れてまた人を殺すのなら、俺はあんたを殺さなきゃいけなくなる。大人しくあんたの世界に帰ってくれ。それがあんたのためだ」
一つ目の巨人からは、先ほどの殺気は消え、怯んでいるようにさえ見える。
そうだ、帰ってください。
私は思った。
でも、一度消えた殺気が、また戻った。
なんで?
この距離だから、私の見間違いかもしれない。
一つ目の巨人の目から、一筋の涙が流れた。
そして。
頑丈おじさんに突進した一つ目の巨人の首が、体から離れた。
一万を超える人から湧き上がる歓声と拍手。
王様が貴賓席から来て、頑丈おじさんを褒めたたえる。
ユニーク髭男もまた煽る。
でも、頑丈おじさんは……。
「キィーヒッヒッヒッヒ。殺したな、殺したな、殺したな」
どこからともなく闘技場に響く不気味な声。
だけど、紫熊の咆哮を聞いた私たちは、恐怖にかられるではなく、興味津々だ。
次は何が起こるんだ?
という期待感を持った観客がほとんどだ。
声の主を探してキョロキョロと首をめぐらせる観客たちは、見つけた。
頭からローブをかぶり、観客席から闘技場へと降りていく怪しげな集団を。
「何者だ!」
王様の護衛の騎士さんたちが誰何する。
集団の数は、集団と言っても五人、恐れる数ではない。
ただ、敵の脅威度は数では決まらないのだ。
「おやおや、私に向かって何者とは、失礼にもほどがあるであろう」
父親大臣こと、セラネスだった。
時代がそうではあるのですが、モンスターを殺すのも
見世物になってしまう……。
では、また。




