19 如何ほどか
美優姫は勘違いをしています。
まあ、誰にだってあることです。そして些細なことです。
笑って許しましょう。
では、どうぞ。
審美眼士が一組目、十人の武具を審美する。
天にかざしたり、角度を変えて見たりと、一つ一つ慎重にジャッジしていた。
結果は分かりやすかった。
もちろん、品評は丁寧に行われた。
良い、とても良い、優れている、素晴らしい、に、しかしさらなる研鑽を、の五つのコンビネーションで評価されていた。
十人の武具の審美を終えてから、最後に決勝進出か、落選かを発表した。
これはどの組でもそうだったのだけど、喜びの表現も悲しみの表現も、ボディランゲージは地球と同じだった。
何だか嬉しくなったし、なぜだか安心もした。
一組目から二組目に移る休憩時間に、私は運転おじさんに訊いた。
「でも審美眼士ってすごいですね。ああやって見ただけで、ああ、これは攻撃力プラス百だ、とか、八十だ、とかって分かっちゃうんですもんね」
「いや、ミ・ユ・キさん、それは誤解です。というか、こちらの説明不足ですね。審美眼士は、たしかに見れば優劣が分かりますが、その武具なら武具、芸術品なら芸術品の価値を、数値化できるのではなくて、匠の技法、武具としての完成度などから、優れているか否かを判断するのです。まあ、優れた武具には、それから発せられるオーラ、気品といったものがあって、審美眼士の中でも特にすごい人はそれが目に見えるのだそうですよ。本当に、色が発せられている、気圧されるのが分かるらしいのです」
「へえ、そうなんですか。あの人たちにも見えてるんでしょうか?」
運転おじさんは言葉ではなく、首を横に振って答えた。
微笑みとともに。
一組目は決勝進出者なしだったけど、二組目は二人、決勝行きが決まった。
審美眼士さんたちは、一つの武具に対して一分くらいの時間を使って審美した。
ただ、それは平均であって、三十秒もかからずに審美を終える時と、二分くらい時間をかけてしっかりと審美する時とがあった。
でも短いから悪い出来、長いから良い出来、というわけではないところがみそだった。
審美眼士さんたちも、鍛冶師大会というショーを盛り上げるために一役買っているのだ。
鍛冶師大会は、この世界ならではであることを差し引いても、なかなかに面白いショーだった。
あれよあれよと大会は進み、七組目が登場した。
頑丈おじさんのいる組だ。
一つ一つ武具を審美していって、頑丈おじさんの番に。
風魔法によって、鍛冶師と審美眼士の会話も聞こえている。
「あなたの武具は、このバトルアックスですね」
「ああ、そうだ。シグマって名前だ」
「この武器からは魔力を感じます。それもただならぬほどの」
「ああ、敵を威嚇し、仲間を鼓舞する魔力がある。詳らかにするんだろ。今、見せるぜ」
そう言って武器を掲げたのだけど、
「いや、その必要はありません。そうしなくても、シグマが素晴らしい武器であることは
明白です。お披露目はぜひ決勝の舞台でしていただきたい」
そう審美眼士が止めた。
「鍛冶師マグマ、決勝進出です」
大会六人目の決勝進出者の誕生に、闘技場は沸いた。
「やったあ! やりましたよ、ジッポーさん。合格です。決勝進出です」
「はい、ミ・ユ・キさん。マグマさん、堂々としていましたね。見事です」
私の頬は強く紅潮した。
ジッポーさんは満面の笑みで答えた。
周りの席の、もちろん見知らぬ人たちが、おめでとうございます、よかったですね、すごい武器ですね、と声をかけてくくれたので、嬉しさも一入だ。
総勢百五十八の武具の審美を終えると、休憩になった。
いつの間にか、なんだかんだでお昼を回っていたことを、運転おじさんの懐中時計が教えてくれた。
しっかりと朝ご飯を食べたからか、興奮のあまりか、空腹感はなかったのだけど、食べなければ美容に悪い。
私はお昼も冒険者サイズの普通を食べきれず、今度は運転おじさんに食べてもらうという不始末ぶりだった。
護衛の二人は、今度こそ食べるだろうと思ったのだけど、私が鍛冶師大会に見入っている間に交代で携帯食を食べたのだと言われた。
全然気が付かなかった。
頑丈おじさんに決勝進出おめでとうを伝えたかったのだけど、決勝に進出する鍛冶師には面会はできないらしい。
優秀鍛冶師だからこその制約なのだそうだ。
そう、頑丈おじさんが優勝できるかどうかは分からないけど、優秀鍛冶師という何だか立派な、かっこいい肩書は、もうついているのだ。
鍛冶師大会の参加者百五十八人のうちの、たった十一人。
その中に、頑丈おじさんが含まれているのだ。
ちなみに、魔力という強い力を持った武具は、三つ。百五十八人の鍛冶師がこの日のために命がけでハンマーを振るって、たったの三つしかなかったのだ。
いや、もしかしたら三つでも多いほうなのかもしれないけど。
その中の一つが、頑丈おじさん渾身の『シグマ』なのだ。
(あれ? 待てよ)
私は思った。
魔力という強い力を持った武具が三つしかないなら、頑丈おじさん、最低でも銅メダルは確定じゃん!
気が付いた瞬間、ゾクゾクがつま先から旋毛へと駆け抜けていった。
ブルブルブルっと震えずにはいられなかった。
闘技場では、先ほどの『おそらく国歌』を歌った吟遊詩人が、小脇に抱えられる大きさのハープみたいな楽器を弾きながら、時に語るように歌っていた。
はじめて聞くジャンルの歌で、興味本位で聞いていて、ふと気付いた。
歌詞が物語になっていたのだ。
魔王がまだ生きていた時代に実在した勇者パーティーの冒険譚だ。
一万を超える観客のうち、休憩で席を外していた人がざっと見て三から四割、ご飯を食べたり雑談していて聴いていなかった人が残りのうち半分いたとしても、四千人前後は聞き入っていて、私もその中の一人だった。
歌声や歌詞よりも、曲、メロディーが新鮮だった。
お昼休憩はあっという間に過ぎていった。
吟遊詩人が手を振って去っていくと、入れ替わりでユニーク髭男が出てきて、軽妙なMCを始める。
鍛冶師大会、決勝の始まりだ。
美優姫は「銅メダル確定」みたいなことを言っていましたが、
この鍛冶師大会には、優勝かそれ以外か、しかありません。
まあ、優秀鍛冶師の称号はあるんですけど。
では、また。




