18 インパクトありあり
これだけ雨が降っても、まだ水不足らしいですね。
大変なことにならなければいいのですが……。
鍛冶師大会が始まるところです。こっちはピーカンです。
では、どうぞ。
少しの食休みの後、私たちはいざ、闘技場へ。
そこに着くまでの人の混みようと言ったら。
「じゃあ、俺は参加者だからあっちだ。観ててくれよ。嬢ちゃんからもらったオリハルコンで造った俺の『シグマ』が一番になるからな」
「シグマって言うんだ」
「ああ。紫の熊で『シグマ』ってんだ。嬢ちゃんが選んでくれた名前だ。かなり強そうでいい名前だろ」
うんと強く頷くと、頑丈おじさんは拳を振り上げて参加者控え室のほうへ。
私たちは観客席へ。
こんなに混んでいるのに席が取れたのは、関係者席というものが、参加者一人に対して二名分用意されていたからだ。
とにかく人で窮屈な通路をぬけると、思わず声が出た。
一万人はゆうに超えているであろう、人、人、人。
そして空の青、青、青。
熱気が渦巻いている。
闘技場で、スポット・ライトを浴びて歌っている自分を想像する。
アガる。
席に着くと、同じように護衛についてもらっている人もいるにはいたけど、私の護衛は王国騎士団員だ。
驚きと、何者?
ていう視線が痛い。
懐から時計を取り出した運転おじさんが、
「始まるまでまだ時間があるので、私はトイレに」
と席を立った。
戻ってくるまでにたっぷりと三十分は過ぎた。
混んでるにしても、長い。
その間、私と女性の騎士さんは言葉を交わさなかった。
いや、私が素性を知られたら困る人間なので、交わしたくとも交わせなかったのだ。
その代わりというわけじゃないけど、私はギターを取り出して、うるさくないように弾いた。
まあ、一万人以上の人のがやがやで、かなりにぎやかだったんだけど。
そう、私はギターを持って、鍛冶師大会が行われるこの闘技場に来たのだ。
私の宝物兼相棒を放っておくなんて、できないから。
歌を歌わずにメロディーだけで弾いていると、声がした。
五十代くらいのおじさんの声だ。
痩せていて背の高い、ユニークな口髭を生やしたおじさんだ。
「さあさあ、会場にお集りの皆さん。あと三十分後には国一番の鍛冶師を決める本大会が始まります。どなた様もお見逃しのなきよう、席に戻りお待ちください。この日を指折って待ち、せっかくチケットを取れたのに、優勝が決まる瞬間を、ああ、見逃してしまったということになったら、泣かずにはいられませんからね。では、またお逢いしましょう」
マイクを使ってもいないし、きっとこの世界にマイクはないはずなのに、この距離であの声が聞こえたのは、風魔法の力だと、女性の騎士さんが教えてくれた。
魔法にはこういう使い方もあるのかと、膝を叩いた。
(でもあと三十分は、ちと長くはないかい?)
そう思っていると、周りのみんなが立ち上がった。
何事か?
王様の登場だ。
昨日の髪の毛はかつらだったようで、かつらを乗せる代わりに王冠を乗せていた。
私も無礼に思われないようにと、立ち上がって拍手をした。
「間に合いましたね」
運転おじさんが長いトイレから帰って来ていて、咄嗟の声にびくりとしてしまった。
運転おじさんにとっても、王様は王様なのだ。
私のとは違い、心のこもった拍手をした。
王様が到着したことによって時間が早められたのか、体感で三十分が経たないうちに、鍛冶師大会が始まった。
聞いたところによると、何年に一度と決まって催されるわけではなくて、だから余計に力が入るらしい。
鍛冶師も、観客も。
周りの会話から、今回は十年ぶりだと分かった。
まず、鍛冶師たちが闘技場に、それぞれの自慢の武具を持って入場する。
列を作ってみんなで行進するように、だ。拍手と歓声が起こる。
百五十八人もの鍛冶師たちの中には手を振って応えた人もいた。
私は運転おじさんと一緒に頑丈おじさんを探した。
見つけたのは運転おじさんだ。
シグマを持って歩く頑丈おじさんはかっこよかった。
百五十八人の入場が終わると、国お抱えの吟遊詩人が登場し、歌を歌った。
おそらくだけど、国歌だ。
歌い終わった吟遊詩人が一礼すると巻き起こる拍手。
何年かに一度しか開かれない大会なわけだから、ルール説明から始まった。
箇条書きにすると大体はこんな感じだ。
一、大会に出す武具は、製作者が所持しなければならない。
二、武具に魔力を付与することは許されない。
三、武具自体に魔力が備わっている場合は、その力の全てを詳らかにする。
四、優劣を決める審査において武具が破損・破壊された場合においても、自らの責任とする。
五、他者の武具を悪意を持って破損・破壊した者は、厳罰に処すこともある。
六、例え優勝できなかったとしても、鍛冶師としての誇りを失わず、これからも国のために鍛冶の腕を振るい続けると誓う。
うん、納得がいくルールだ。
鍛冶師大会の参加者は百五十八人なので、十四組の十人と、二組の九人とに組分けをして、計十六組で予選を行い、勝ちあがった優秀鍛冶師で決勝を行うのだそうだ。
一組につき一人が勝ちあがるのではなく、優れた武具なら複数であっても決勝に残るというルールも、納得できる。
まずは組分けをするため、鍛冶師の名前の書かれた紙を、王様自らが引いた。
国家からルール説明の間に、わざわざ貴賓席から(たぶん)走ってきて、涼しい顔でそして笑顔でくじを引き、くじを引かれた鍛冶師に声をかけていた。
あれはきっと跳び上がるほどに光栄なことなのではなかろうか?
ユニーク髭男のMCとともに、王様の声が聞こえてきていた。
これも風魔法の力なのだろう。
(あ、王様と頑丈おじさんが知り合いみたいだったこと、また訊き忘れてた!)
百五十八人分のくじを引くわけだから、当然、頑丈おじさんの名前の書かれたくじを引く順番も回ってくる。
その時に、何かヒントになるような会話があるかと期待したのだけど、特別何かあったわけではなかった。
ただ、王様が
「鍛冶師マグマ、七組」
と読み上げた時に、闘技場がざわついたことで、私は闘技場の観客席を見渡さずにはいられなかった。
指笛を拭いた人もいたくらいだった。
「グマ爺さんって、そんなに有名人なんですか?」
私は運転おじさんに訊いた。
「はい。冒険者としても、鍛冶師としても、とても名のある人なんです」
にこやかに運転おじさんが答えてくれた。
参加者全員分のくじが引き終わり、一組だけが残って、その人たち以外は退場。
代わりってわけじゃないんだろうけど、三人の男性が出てきた。
この人たちが審美眼士なのだ。
これは断言できる。
果たして、当たっていた。
「では、これから一組目の武具の出来栄えを、王都ビナッツ自慢の審美眼士たちが、審美します」
それにしても、ユニーク髭男は見れば見るほどひょうきんな人だ。
審美眼士が一人一人紹介されて、観客の拍手と歓声に手を上げて応える。
十年ぶりの鍛冶師大会が、これから始まるのだ。
登場してきたユニーク髭男。
皆さんはどんな風貌を想像しますか?
ユニークと言われるくらいなんだから、
想像の上を行くユニークを想像してやってください。
では、また。




