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17  鍛冶師大会の朝

そんなに騒ぐほどではないのですが、

予定通りにはいかなくなってしまった美優姫たち。

どうなる?


では、どうぞ。


 私より後に寝た頑丈おじさんに起こされて、私は朝を迎えた。

 寝起きのボケた頭では、自分が異世界の宿屋に泊まっていたことを思い出すのに、少しの時間を要した。

 ここでは歯磨き粉もままならない。


「飯を食ったら城に行って、そうしたら朝から大会の始まりだ。そこで俺と嬢ちゃんたちとに別れて、昼飯をはさんで、夕方前には決まるらしい。今大会一番の武具がな」

「夕方前? ちょっと早くない?」

「何言ってんだ。そんなもんだろう。今回の参加者は国の内外から合わせて百と五十八名だ。この鍛冶師大会に登録できるのは一人につき一つ。つまり百五十八の武具が、競い合うっちゅうわけだ」

「ああ、そうか。ステータスって言うんだっけ? パッと見て、この武器は攻撃力プラス五十、とか、鑑定すれば時間もそんなにかかんなくてすむよね」

「ステータス?」

「え? 違った?」

「ああ、大陸ではそう言うのですか。洒落ていますね」


 運転おじさんは勘違いで納得してくれた。


「武器や防具の能力を数値化できるやつぁ、いるにゃいるが、一万人に一人もいねえ特殊な能力でな、『鑑定』で間違いはねえんだが、ここじゃ『審美眼』て言うんだ」

「審美眼」

「そう、審美眼だ。鑑定するじゃなくて、審美するって言うんだ。宝石が本物か偽物かズバリと言い当てたり、芸術品の、例えば絵だとか彫刻だとかの優劣を見極めたり、より強い武器はどちらかと見定めたり、な。そしてそれがこれでもかってくらいに当たるもんだから、そりゃあ国の偉いさんたちも頼りにして、いい審美眼を持った人物を国のお抱えにして、どっちの国の審美眼士がより優れているかを競い合ったりなんてことも、そんなに頻繁にではねえが、あったんだ。国の自慢の種になるくらいに、大事に扱われていたんだと。まあ、いいことばかりじゃなかったんだけどな」

「じゃあ、この鍛冶師大会は、その人たちの活躍の場ってことになるのね」

「さて、どうかな。現在、王都ビナッツにいる審美眼士は三人と言われている。その三人は、冷や冷やしてるだろうよ」


(え、どうして? 腕の見せどころじゃないの?)


 私がそれを口にする前に、足音がこの部屋の真ん前で止まった。

 でも、私にも気付けるくらいの足音だったから、逆に怪しまずにすんだ。

 実際、怪しくはなかったのだ。

 足音がノックをした。

 頑丈おじさんが返事をすると、


「王の命により参りました」


 と、畏まられた。

 運転おじさんがドアを開けると、立っていたのは二人、四十くらいの男性と若い女性の騎士さんだった。

 聞くと、鍛冶師大会の間に、男性騎士さんが運転おじさんを、若い女性のほうが私を護衛するために派遣されたということだった。

 頑丈おじさんには鍛冶師大会に参加する人には護衛はつけられないという理由でなしだった。

 頑丈おじさんは快く了承した。


「それよりもなあ、名前だ。俺が造ったバトルアックスの名前。まだ決めてねえんだ。バトルアックスだからバトルアックスってんじゃ、味気ねえ。それで、二つ考えたうちのどっちにするか、最終決定を嬢ちゃんにお願いしてえんだが、どうだ?」

「地味に責任、重くない?」

「右手の案と左手の案、どっちか嬢ちゃんの直感でいい。選んでくれ」

「……ちなみに、右手は何で、左手は何?」

「内緒だ」


 子どものように笑う頑丈おじさん。

 騎士さん二人は困った顔で気をつけをしたままだ。


 私も困ったけど、頑丈おじさんの顔を見ていると、とても小さなことに思えた。

 私は左利きだ。

 だから、頑丈おじさんの手も左を選んだ。


「こっちか、よし、こっちにしよう。うん、何だかいい名前に思えてきたぞ」


 今度は豪快に笑った。

 私も、我が身に命の危険があるかもしれないという現実を忘れて、笑った。

 そして、私たち三人と護衛の二人、計五名で宿屋近くの食堂に行った。


 昨日は正門から牢屋に直行で、牢屋から宿屋に連れて行かれたのも夜になってからだったので、人の量に驚かずにはいられなかった。

 私は私を護衛してくれる女性の騎士さんに訊いてみた。


「人、多いですね」

「はい。鍛冶師大会という一大イベント中ですので。こんなに人が集まるのはそうそうないですよ」


 テーブルは全部埋まっていた。

 ここでの名前は知らないけど、サンドイッチやアメリカンドッグをドリンク片手に立ち食いしている人たちのほうが多かった。

 私たちが人をかき分けてカウンターまで行くと、頑丈おじさんのことを見て、あ、マグマだ、あ、マグマさんだ、とつぶやく人がいた。

 有名人なんだ。

 私の鼻は少し高くなった。


 その店で朝ご飯をテイク・アウトし、露店で果物とジュースを買って部屋に戻る。

頑丈おじさんは背中に大会に出すバトルアックス入りのケースを背負っていて、でも全然重そうじゃない。

 騎士の二人にもご飯を勧めたのだけど、もう食べたと断られた。

 美味しかったからバクバクと食べたのだけど、さすがにお腹いっぱいだ。

 さすがにボリュームがありすぎる。

 もしかしたらこれが冒険者サイズの普通なのかもしれないけど。でも、残したら失礼かもしれない。

 この世界でも、いや、この世界のほうが『もったいない精神』が強いのかもしれないし。


 どうしたものかと息をはいて、目をやって、気が付いた。

 この部屋に飾られていた絵、それが、竜を倒して斧を掲げたドワーフの絵だったのだ。


「ねえ、あの絵、まさか若い時のグマ爺さんがモデルなの?」

「わっはっはっはっは。馬鹿言うない。あれはドワーフの王様がモデルだ。強いんだぞ。俺たちドワーフの誇りだ」

「ミ・ユ・キさん、ご飯はもういいのですか?」

「はい。お腹いっぱいです。でも残すのも悪いかと思って、だからどうしようかなと」

「何だあ、そんなの気にすることはねえぜ。嬢ちゃんが食えねえなら、俺が食うさ」

「ドワーフの誇り、か」

「ああ、俺たちドワーフは『そんなんじゃプライド王みたいにはなれないわよ』って母ちゃんに怒られるんだ。言われたら『そりゃ困る』って態度を改めるんだ」

「あはははは。可愛い」

「どの世界でも、そんなもんさ。なあ、騎士さんたち、あんたらだって似たようなもんだろ?」


 騎士二人も、笑みを隠さずに肯いた。

 私の残したご飯もペロリと平らげた頑丈おじさんが


「腹八分目って言うからな」


 と、どこまで冗談なのか分からないことを言うので、また私は笑った。

 これから一大イベントの鍛冶師大会があるのに、余裕に見えるのがすごい。


 そう、町の命運がかかった鍛冶師大会が、始まるのだ。


どうやら鍛冶師大会には参加できそうです。

マグマの造った武器の名前はいつ明らかになるのでしょうか?

作者のくせに「近いうちに」としか分かりません。

次回だったか、その次だったか?


では、また。

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