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16  そんな事情があったんだ

腰をやってしましました。コルセットのおかげで

なんとかやっています。

皆さんも体を大切に。健康が一番ですから。


では、どうぞ。

 二時間後、いかにも大臣が用意してくれた宿屋(王都でも指折りの宿らしい)の三人部屋で、頑丈おじさんの帰りを待っていた。

 晩ご飯とお風呂をすませた後で、だ。


 三人部屋と言っても、学校の教室くらいかそれ以上の広さで、飾ってある絵や置いてある家具なんかも細部まで丁寧な仕事がされていて、きっとスイート・ルームはこんな感じなんだろうなという感想を持った。

 いかにも大臣は、急だったからこんな部屋しか用意できなかったと申し訳なさそうだったけど、そんなことはまったくなかった。

 私には、個室でなくて申し訳ないと言ったのだけど、牢屋から出してもらえただけで御の字だと答えた。

 事実それは本心だし。

 昨日の野宿を思えば、文句なんて出て来ようがないじゃないか。


 荷物はもう運び込まれている。

 頑丈おじさんの造った武器も、私の大切なギターも。

 手持ち無沙汰の私は、ギターをつま弾いた。

 インストゥルメンタルだ。

 暖炉の火が揺らめいて、運転おじさんと私はその音色に身をゆだねた。

 そうしていると、頑丈おじさんがドアをノックした。


 部屋に入るなり、難しそうな顔をして、ドカッとソファに腰を下ろした。


「不味いことでもあったの?」


 その剣幕に何か暗いものを感じて、私が訊いた。

 頑丈おじさんは少しの間、沈黙した。

 それから答えた。


「いや、不味いってわけじゃねえ。けれど、いいってわけでもねえんだ。だから困っちまうんだ。俺たちを牢屋から出してくれたのは、ドーマスっていう奴なんだがな、ドーマス派と、王様と一緒に来たセラネス派とで、悶着があったらしい」


 長くなるかもしれねえぞ、と前置きして、頑丈おじさんは続けた。


「セラネスってのは、見たからいまさらの説明はいらねえだろうが、あの通り嫌な奴なんだ。王の前と裏とで顔を使い分けてやがる。でも一番の古株大臣で、それは前の王の時代からだって言えば、分かるだろう? だから今の王様も信頼している。なんせ、大臣になる前からを合わせれば四十年以上はこの国に仕えているんだからな。王様が子どもの時からの付き合いだ。そりゃ情も湧く。そして残念なことに知恵も回るんだ。仕事ができなきゃ、大臣になんてなれねえ。だろう? 王位は世襲制でも、大臣はそうじゃねえからな。その知恵の使い方が問題なんだ」


 語ること三分。

 たしかに悪い使い方をしている。

 そしてそれは時代劇の悪代官と似たようなものだった。

 江戸と異世界、違いはあれど、悪人のすることは一緒なのだ。


「不味いことにセラネスが勝って大臣の座に着いちまった。思えばそこからだ。奴はその地位を利用して、自分に敵対する人間を一人一人、一遍にじゃなく、一人一人、左遷させたり、格下げしたり、失職させたりと、王の信頼を逆手にとって、やりやがったんだ。恐怖支配だ。必然、段々と逆らう者は少なくなって、セラネスの権力は膨れていく。王だって馬鹿じゃねえ。でも、半年に一度、一年に一度、二年に一度なら、どうだ? おかしいとは思うが、問い質すほどに思えるか? セラネスは小狡いんだ。王に不審に思われないようにやるのが、本当に上手いんだ。そういう知恵の使い方をさせたら、右に出る者はいねえな」


 さらに三分。

 ドーマスが大臣になって、セラネスとの派閥争いをする件になった。


「セラネスにとってはにっくきドーマスだ。しかしドーマスはこの国でも名のある貴族の出、叩き上げのセラネスは、いかに大臣といえどもそう簡単には手出しはできない。しかもセラネスにとって不味いことに、セラネスの子ども、クリミネンの現領主が、王様主催の舞踏会で、ドーマスの父親に無礼を働いてしまったのだ。故意か偶然かは分からんが、まあ、親の腹いせってのが、ドーマス派の見方、ドーマス派の陰謀だってのが、セラネス派の言い分だ。どっちが正しいかなんて一目瞭然だが、王には長年尽くしてくれた大臣の大切な息子だ。確たる証拠もないのに罰するのは忍びない。が、怒り心頭の貴族の手前、

王都から離して政治の武者修行ってやつだな。最初は港町の副町長だった。でも、そこでまた悪だくみを閃かせて、それでクリミネンの領主になったってわけだ」


 額に手を当ててふうと息を吐く頑丈おじさん。

 そしてまた五分の後、


「そこにこうして『十三人殺人残虐事件』か『殺し屋への正当防衛』かで意見がぶつかったわけだ。それで俺たちが釈放されたってことは……」

「ドーマスさんが勝った!」

「そうだ! この国も根っから腐ってるわけじゃねえってこった」


 いかにも大臣の勝利を喜び浮かれる私を、しかし、の一言で頑丈おじさんは黙らせた。


「セラネスがどんな罰を受けるにしても受けないにしても、それは鍛冶師大会が終わった後でってことになっちまった」


 これはしょんぼりだ。

 でも、鍛冶師大会は滞りなく行われ、頑丈おじさんは問題なく参加できるのだ。

 それはいいことだった。


「十三の遺体は、全部殺し屋の死体だと、公式に認められた。セラネス派は先に手を回して、死体から刺青を削ぎ取ったりとか、あの手この手で誤魔化そうとした、つまりは、騎士団の中にも教団の中にもセラネス派はいるってこったが、そいつらの嘘、誤魔化しは通用しなかった。そういうわけで、さあ、セラネス派は次にどんな手を打ってくるのか? て状況だ」

「ああ、そうか。明日、鍛冶師大会で、グマ爺さんの邪魔をしてくる可能性が、かなりの確率であるってことね」

「ああ。そういうこった。特に狙われるとしたら、嬢ちゃんだ。もちろん、手っ取り早いのは俺を殺しちまうことだが、その可能性もゼロではねえが、それをやったら確実にセラネスの手が後ろに回る。でも嬢ちゃんなら、観光客を狙ったならず者がよくやる犯罪ってことで片付けることだってできる。嬢ちゃんが俺の連れだって知りませんでしたってな」


 この世界は何だか、『死』と隣り合わせみたいだ。


「ドーマスたちも俺たちを守ろうとはしてくれるだろう。でも、鍛冶師大会の警護やら何やらがある。見に来る来賓を守らなきゃいけねえし、集まった観客とかが小競り合いを起こすことだって考えられる。観客目当てのスリにだって、目を光らせなきゃいけねえし、俺たちだけに兵を割くってことは、できねえと思うんだ、たぶん」

「私たちはできるだけ固まっていたほうがいい、と」

「ああ。俺は、俺が鍛冶師大会に出てる間、ジッポーが嬢ちゃんを連れて観光でもしたらいいんじゃねえかって思ってたんだが、これじゃあそうしたほうがいいな」

「私は最初から鍛冶師大会を観るつもりだったわ。グマ爺さんの造った武器が、どんなふうに評価されるのかって、興味あるもの。でも、そうか。私は大会に一緒に参加して、グマ爺さんのそばにいることっていうのは、できないんだ」

「そりゃそうだ」


 頑丈おじさんも運転おじさんもそれぞれの笑い方で笑った。


 鍛冶師大会なんだから、出場できるのは武器を造った鍛冶師だけ。

 そりゃ当たり前だ。

 運転おじさんには悪いけれど、昨日の立ち回りを見れば、頑丈おじさんのほうが頼りがいがある。

 ドーマスさん、よきに計らってくれないかなあ。


 暖炉の火は温かく、寝不足と精神的な疲れもあって、私は睡魔に襲われた。


「まあ、とにかく明日だ。俺とジッポーはまだ起きてるが、嬢ちゃんはもう寝な」


 頑丈おじさんの優しさだ。

 私はその優しさに甘えた。

 ダブルサイズのベッドが三つあるうちの一つに、私は潜り込んだ。


 王様と頑丈おじさんが知り合いみたいだったことを訊きそびれてしまったなあと後悔しながら、まあ、明日訊けばいいか、と自分を納得させて、そのうちに私は吸い込まれるように入眠した。


悪だくみ。それをする人は意外と身近にいるものです。

私のクラスメートにもいました。

それを見抜けない人のほうが断然多いのが現実です。

悲しいですね。


では、また。

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